JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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社員のメンタル面のSOS。早期把握と正しい対応を

掲載日: 2009年02月14日

「仕事はあるし、売上も伸びているが、ここ数年で社内に活気がなくなったような気がする。とにかく人に元気がない。」

「ウチの制作現場では、月にひとり、ふたりと代わる代わる過労でダウンする。それが当たり前のような雰囲気になっているのが怖い。」

「出来る人や期待が掛かっている人に仕事が集中してしまう。結果、せっかくの良い人材を潰してしまい、定着しない。」

「優秀な社員が、過度のストレスから精神的な病に掛かってしまった。やる気というより『仕事をしなければという』という強迫観念で自分を追い込み、結果無断欠勤が目立つようなった。」

若手や中間管理層を中心にメンタル面での問題によって、業務に支障が出ている、あるいは出掛かっているという話を、経営層や、管理職層から頻繁に耳にする。
仕事がたくさんある、売上が伸びているのは結構だが、その仕事を動かすのは紛れもなく人である。その人が組織で機能せずして、どうして良い仕事と売上の向上に結びつくだろうか。


■精神的なストレスと病気は当たり前?
「そういった症状は、どこの職場にも見られる当たり前の病気である。テレビでも雑誌でも頻繁に取り上げられているじゃないか。」
「彼がそうなったのは、決して仕事だけが原因ではない。会社としては、あまりプライベートに踏み込むことは出来ない。」
「休職、通院、仕事の配置換えなど考えうる、制度の選択枝は最大限提示した。」
決まって聞かれるこういった言葉は、一瞬もっともらしいが、何ひとつ本人の立場に立った対応になっていないし、単なる放ったらかしに過ぎない。
結果、ダウンしてしまう社員も、無断欠勤してしまう社員も、仕事に対する負い目と「迷惑を掛けている」という強い思い込みに追い込まれてしまう。そして多くのケースでは「辞めたい」という結論を本人が会社側に示すことになっているのではないだろうか。
「会社側は、最大限の条件は提示した。その上での本人の結論である。受け入れざるを得ないだろう。」これももっともらしい言葉だが、放ったらかしによって人材を追い込み、切り捨て、定着を阻害し、結果、組織が疲弊してしまう。また一方で同じことを繰り返し、働く人材の人生をも狂わしかねないということをどれだけ真摯に受け止められるだろうか。


■戦力を欠く事態に至るのはマネージャーの失態
社員のプライベートな問題であったり、精神的コンディションの悪化に対する対応は、確かにデリケートなテーマである。もちろん本人の自己管理や克服する努力も必要であるが、管理職者や上司、同僚が、SOSを察知し、それを見逃さず、取り返しの付かない状況に陥る前に、適切な対応を取らなければならないだろう。まして、そのためには、管理職者や上司自身の精神的コンディションが安定していなければ話にならない。
JAGATでは「リーダー&マネージャー養成合宿」のトレーナーとして活躍し、雑誌プリンターズ・サークルでは「マネジメントQ&A」という連載を担当する湾岸道路 代表の苅田和房氏は、2006年6月号「第15話 がんばれ!と言ってはいけない時もある」で、この問題に着目し、管理職者の責任の重大さを述べている。

引用:


「最も大切なことは、マネージャーを始め周囲の人たちがお互いのコンディションを常に気遣って、コンディションの変化にできるだけ早く気づいてあげることです。(中略)体調不良という自覚症状が現れた時点では既にかなり危険な状態なので、速やかに適切な対応をしなければ重い病気につながってしまいます。そうした人材のコンディショニングをサポートすることも当然のことながらマネージャーの重要な責務の一つであり、長期にわたり貴重な戦力を欠く事態に至るのはマネージャーの失態と言わざるを得ません。」



「長引いた不景気から脱した」「業績は上向き状態にある」と言われるが、その過渡期にはいわゆる「リストラ」で人材の量と人件費を減らし、行き過ぎた成果主義が正義として、または仕方がないものとして行われてきた。もちろん全ての企業に当てはまる話ではないだろうが、この十数年の間で人材マネジメントの機能に変化があったことは間違いないだろう。変化なのか、それとも何か置き去りにしてしまったものがあるのかはわからない。しかし、冒頭に紹介した担当者、管理職者、経営者からのコメントからは、組織の安定した機能に対する漠然とした不安感と上司・部下間の不信感が垣間見れる。


■SOSにどう気付き、対応するか
苅田氏は同連載での「人材のコンディショニングサポートマニュアル」の中で、SOSに気付き対応するために次のセオリーを掲げている。


引用:

1.業務上の変調
・遅刻や初歩的なミスの増加
・作業効率やモチベーションの著しい低下

2.ヒアリングする際、注意すべきキーワード
・頭では分かっているけれど気力や意欲がついていかない
※弱音を愚痴としてあしらわない。「まぁ、そう言わずにがんばれ!」などと一喝するのは励ますどころか追い詰めることになる。「大丈夫?」などと問いかけても「大丈夫です」としか答えようがないので意味がない。

3.報告される身体的な症状
食欲不振、胃腸炎、不眠症、めまい、偏頭痛、神経痛、じんましん など

4.想定される主な原因
・仕事上のストレスやプレッシャー
・過労
・プライベートでのショックな出来事
・生活習慣

5.職場での対応
・本人が話したいだけ話を聞いてあげる
※話そうとしない場合は、仲の良い人から聞きだす。管理職者とは直接話をすることを回避すべきケースもある。日頃頼りにしていない管理職者に迫られると、誰でも嫌気が増して「辞める」と全てを放り出してしまいたくなるため、危険である。
・無理をさせない
・気晴らしの行事に誘う
・本人の希望によっては休暇をとらせる
※強制的に休暇を与えると逆効果になる場合もある。
・深刻な場合や、症状が長期に及ぶ場合は、心療内科などの診察を薦める
※本人が望めば仲の良い人に付き添わせる

6.注意事項
・「がんばれ!」と言ってはいけない
・気長に回復を待ってあげる



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この問題に関しては今後さらに広く専門家の声や情報を集め「印刷会社の人材教育を考える会」などを通じ、意見交換や勉強会を行って行きたい。
原因が仕事によるものにせよ、プライベートに起因するものにせよ、精神的なコンディションの悪化は誰にでも起こりうる。
人材の芽を潰すようなことを繰り返してはいけない。決して腫れ物に触るような態度や、放って置くようなことをしてはならない。その正確な把握と適切な対応を行うプロセスとマネジメントが機能していれば、周囲も同じことを学び、同僚や部下を想う本当の優しさが共有されていくのではないだろうか。

必ず組織の元気は取り戻せる!(A)
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