本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
JAGATがまとめた職能資格基書準への関心と評価は高い。本基準書をベースに、貴社の業務に合った職能資格基準書を整備いただき、格付け評価、組織診断、個人のスキルチェックを行うことで、人事制度、賃金制度、人材育成にお役立ていただきたいと考えている。
その中でも関心が高いテーマのひとつに、賃金制度との連携がある。今回はその運用に関して、事例を交えてご提案したい。
※本稿で触れる賃金体系は、某社の事例をベースにJAGATで一部修正を行っている。飽くまで職能資格制度との連動の運用を示すことを目的としたものである。印刷業界の賃金の標準を示唆することは目的としていない。
●年齢給をなくす、または重み付けを軽くする
多くの企業から寄せられる声に、
「社員の能力と賃金のバランスが取れていない」
「年功型の賃金体系を変えたい」
というものがある。
従業員数約100名で、商業印刷に携わるA社では、年功重視型の賃金体系から、社員の能力の高さに応じた評価を取り入れた制度への変更を行った。
ここでは主に基本給をベースに話を進める。
新賃金体系の構成は以下の通りである。
・賃金
-基本給
*基礎給
*能力給(職能給)
-手当
*役職手当
*通勤手当
-その他手当
*超過勤務手当
体系をシンプルにし、手当を複雑にすることなどを避けている。
基礎給は18歳から60数歳まで金額が設定されたテーブルになっている。年齢給としての意味合いもあるが、金額的には、基本給の中に占める割合は30%ほどと、決して大きくはない。そして18歳の基礎給と60歳の基礎給の差は数万円と小さい。
もちろん基本給に占める基礎給と能力給の重み付けのバランスは各社各様であるが、このA社では、基礎給(年齢給)の重み付けを出来るだけ軽くする方針を取った。
基礎給(年齢給)の考え方は、多くの企業でも課題となる要素のひとつで、専門家の声を聞いても、基礎給(年齢給)をなくす、または重み付けを軽くするというのは、一般的な流れだという。
●能力給(職能給)を重視する
次に能力給(職能給)である。A社では。新入社員から部長クラスまで、10個のランクを縦軸に置き、能力のランク毎に能力給(職能給)を設定している。例えば、高卒の新入社員をランク1、大卒の新入社員をランク2とし、ランク1に対する能力給、ランク2に対する能力給がそれぞれ設定され、A社ではその差には数万円の幅を持たせている。そして、ランク1とランク2を「新人グレード」としてグループ化の定義をしている。
同様にランク3から5は「一般職グレード」とグループ化され、ランク4、5の想定役職を主任・係長としている。このように、部長、経営幹部幹部ランクの「マネージャーグレード」まで10個のランクに想定役職が設定され、対応する能力給(職能給)が明確化されている。
A社では、ランクがひとつ上がるごとに数万円の昇格額が設定されていることから明らかなように、能力給重視の体系である。
また、10個の各ランクに対して、管理職を目指すマネジメントコースと、専門職者に該当するスペシャリストコースのふたつの能力給(職能給)テーブルを設計している。これも多くの企業で取り入れられている体系だろう。
そして一定ランク以上にある主任、係長、部長といった想定役職に対しては、A社では役職に応じた役職手当を設定している。
以上、「基礎給+能力給(職能給)+役職手当」が基本給の大部分を構成し、その他通勤手当、超過勤務手当が支給されている。
シンプル、かつ一般的な基本給の体系と言えるだろう。
●シンプルだが・・・課題は評価制度の構築
「シンプル、かつ一般的な基本給の体系」と述べたが、ここでひとつ大きな課題が浮き彫りになる。
基礎給は年齢で、役職手当は社員のランクで決定されるが、問題は能力給(職能給)である。
「そもそも、一体誰がどのようにして『○○さんがランク7の課長職である』と決めるのか?」
「どんな評価項目で決定するのか?」
「それは納得できる評価制度なのか?」
賃金制度の見直しで、必ず壁にぶつかるのが、この評価制度と賃金体系との連動の部分ではないだろうか?つまり、能力給(職能給)を決定する、評価と連動したランク付けの公正な拠り所が必要となる。
●公正な評価基準構築の拠り所
その評価基準の拠り所のベースとなるのが、「印刷企業向け職能資格基準書」である。
本基準書は、営業、プリプレス、プレス(枚葉)、プレス(輪転)、製本、生産管理、総務と7つの業務別に、新人クラスから管理職まで等級を5つに分け、その等級毎に業務を行う上で必要な技能と知識をまとめたものである。
各社の業態にあわせた職能資格基準を整備するための業務の辞書としてご活用いただき、人材の評価基準を整備していただける。
●評価基準整備で陥りやすいワナ
ゼロから自社に合った職能資格基準そして評価基準を整備するのは、実に大変な作業である。
「半年~1年を掛けて取り組んだが、挫折してしまった」
という担当者から相談をいただくことも多い。
この点に関してある人事労務の専門家に話を聞いたところ次のようなコメントをいただいた。
「職能資格基準の整備を『自分たちでできる』と取り組んで、結果挫折してしまう企業は、どの業界でも多くみらる。ここに陥りやすいワナがある。
実は『自社だけにある特別な業務項目』というは、ごく少数である。評価項目の大多数は業界共通といえる。業界標準版の基準書を活用し、労力はできるだけ少なく、シンプルに職能資格基準書と評価項目を整備すべきである。」
貴社の賃金制度と評価制度の見直しのきっかけに是非「印刷企業向け職能資格基準書」のご活用をいただきたい。
「印刷企業向け職能資格基準書」に関してはこちらをご覧いただきたい。
http://education.jagat.or.jp/modules/news/article.php?storyid=29