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Web環境で自由にフォントを選択して表示させることができるサービスが始まった。
これまでのWeb環境では、パソコンやデバイスによってインストールされているフォントが異なるため、フォントを自由に表示させることができなかった。どうしても必要な場合には画像化して表示していた。
しかし、サーバーのフォントにアクセスしてWebに表示する技術が規格化され、新たなサービスが始まっている。
モリサワの案西稿志氏に同社のクラウドフォントサービスについて伺った。
Webフォントとは、Webサイトの制作者が意図した書体を、その書体がインストールされていないマシンのWebブラウザー上で表示する仕組みである。パソコンだけではなく、スマートフォンやタブレットでもWebブラウザー上で表示させることができる。
WebフォントはCSS3の仕様に組み込まれ、2009年頃から実装が始まった。FirefoxやIE、Safari、Chromeなど主要ブラウザーで実装されている。
CSSを書くときの表記は、@font-faceというプロパティで、フォント名とフォントが存在するURLを指定するだけである。Webフォントとして使用できるフォントは、TrueType、OpenType、Webフォント用に作られたフォーマットのWOFFや、以前はグラフィックス用途で使われていたSVG、マイクロソフトの独自形式EOTがある。
これまで、Webで特徴的な書体を表示するには画像化するしか方法がなかった。Webフォントであれば、閲覧者の環境に依存せずに、タイトルや見出しに意図した書体を使うことができる。また、ユニバーサルデザイン書体のような可読性の高いフォントを本文に使うこともできる。
Webフォントではテキスト情報が保持されるため、画像化してメタデータにテキスト情報を設定するという余分な手間も必要ない。SEO対策上も影響がなく、自動翻訳や音声読み上げにも容易に対応することができる。
画像化して表示した場合、拡大縮小するとジャギーが出ることもあるが、文字であれば、常にアウトラインがきれいに表示される。
さらに、ブランディングの側面で考えると、紙とWebでデザインが異なるという問題も起きない。
欧米では既に多くのWebフォントサービスが行われている。
Typekitは、2011年にアドビシステムズに買収され、サービスの一環として提供されることになった。モノタイプのfonts.com、GoogleのGoogle Web Fonts、フォントビューローがやっているWebtypeなど、いろいろサービスが出てきている。Typekitは、2011年11月に月間40億ビューとなっている。フォントを配信した数である。
ニューヨークタイムズの社説ページは、Typekitを利用している。ニューヨークタイムズは、古くから自社フォントを使っており、これをWebフォントとして利用している。自動車のフォードテクノロジーは、Webtypeフォントを使っている。
日本でも、デコもじ、もじdeパ、Font+などのサービスがある。しかし、フォント容量の問題などのため、大規模な利用はないようだ。日本のWebフォントの利用が本格化するのはこれからだろう。
モリサワは、Webブラウザーだけでなく、アプリケーションからも利用できるクラウドフォントと呼ぶサービス、TypeSquareを開始した。当初の配信書体数は154書体である。
契約したサイト構築者が、TypeSquareを呼び出すWebページのURLを登録する。登録するとhtmlタグというJavascriptを呼び出す1文が発行されるので、これを自分のHTMLに記述し、書体を指定してWebサーバーにアップロードする。
閲覧者がブラウザーを使ってそのサイトを開くと、TypeSquareを呼び出してフォントが配信される仕組みである。もし有効期限が切れてしまった場合でも、フォントが配信されなくなるだけで、Webサイトのテキストが表示されなくなることはない。
TypeSquareが使える字種は、印刷標準であるAdobe-JapanとWebで使われているUnicodeのクロスした部分であり、約16,000字である。今後、ユニコードで異体字などを使用するIVSという仕組みがOSでも対応されると、それに併せて使用字種を拡張することもできるだろう。
現状の課題として、Windowsでの表示があまりきれいではないという問題がある。モリサワとしては、フォント側で解決できることがあれば、取り組んでいく考えである。
ブラウザーの仕様上、デフォルトフォントが一瞬表示された後に、Webフォントが適用されている。そのため、通信速度やブラウザー環境に影響され、表示スピードにばらつきが出ている。何とか改善できるよう試みている。
今後、中国語や韓国語フォントに加えて、かな書体、グループ会社のフォントを追加する予定である。
(テキスト&グラフィックス研究会)