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米国民一人の印刷消費量は2000年から2010年にかけて30%減少している。GDPが16.8%拡大しているにも関わらずである。
米国印刷関係者の必読サイトにJoe Webb博士が運営しているhttp://whattheythink.com がある。ロチェスター工科大学元教授のFrank Romano氏やSeyboldレポートで有名なAndrew Tribute氏などが寄稿している人気のサイトである。
最近Joe Webb博士は「Disrupting The Future(未来を破壊する)」という本をRichard Romano氏と出版し、印刷業界が情報化社会の劇的な変化の中で、どのような新興勢力に直面していて、どのように対応しなくてはいけないかについてまとめている。
米国印刷業界は、2000年をピークに縮小している。米国GDPが2000年の12.5兆ドルから2010年に14.6兆ドルまで拡大したにもかかわらず、印刷業界の売上げ規模は1,321億ドルから850億ドルまで縮小している。もっと驚くべき数字は米国民一人当たりの印刷消費量が467.61ドルから273.93ドルに減っていることだ。何とこれは30%相当の現象ということで、この数字だけを見ても一過性だとかと言ってはいられないし、表明的な印刷メディア改革では対処できない。人間の情報消費パターンそのものが変化していることの証明である。
20世紀に言われていたことは印刷業界の堅調さで、GDPが伸びれば印刷業界の売上げも伸びるし、不景気になっても売るための最重要手段として印刷売上げが落ちることはなかった。しかし、21世紀になってからというモノ、正確にいえばインターネットが登場し、根付いてくると旧メディアにも大きな影響が現れてきた。もちろん印刷業界は非常に大きな影響を受け、ビジネスモデル自体を考え直さないと、致命傷に近いダメージを受けてしまうということを予言しているのがJoe Webb博士の「未来を破壊する」の内容である。
Joe Webb博士は、このままの状態が続けば印刷業界は2020年にはさらに縮小し540億ドル規模になると予測している。2010年と比較すると35.7%の縮小である。これに伴い事業所数は31.2%、従業員数は40.4%減少し、対GDPでは0.32%規模になり、産業界の発言力低下は避けられない。2000年のGDP比率が1.06%、2010年が0.52%だから強烈な数字ということが出来るだろう。
このような状況の中、2010年の印刷業界や出版業界は「なぜ印刷でなければ」とか、「ウエブはサーフ、雑誌はスイム」等のキャンペーンを数百万ドルかけて行っている。しかし、Webb博士は「印刷がそんなにすばらしいモノなら、なぜ印刷物が減るのだろうか?」「過去のデータを上手くまとめてPRするだけでは消費者を失望させるだけだ」と問題提起を行っている。現実は実弾を撃ち込むこと無しに負けているというのだ。
「自分の置かれた現状を認識して、どのように積極的に対応するか考えるべきだ」というのが、Webb博士の主張である。
もう少し学問的に現象を捉えると、いままでのメディア、特に印刷メディアはプッシュ型といわれる型に属しており、マーケティング手法ではアウトバウンド・マーケティングという手法に分類され、どうも世の中では役目を終えつつあるというのだ。世の中はプッシュ型からよりプル型というユーザーが情報を自分で選別して使っていくという時代になるというのだが、このことはWebb博士以外にも主張される方は多く、メディアがソーシャルっぽい方向に移行するというのだ。しかし、Webb博士はその先にあるモバイルメディアへの移行を強く主張されている。現在のソーシャルメディアも通過点という認識である。
マーケティング手法で分類するとインバウンド・マーケティングへ世の中が移行していくというのだ。
このような、論理展開をして近未来の印刷業界に対して問題提起をしているのだが、現実的な現象はどうなのか?それでは実際の印刷会社がどう対処すれば良いのか?具体的な印刷物ではどうなのか?日本のチラシはプッシュ型ではあるが、実際の効果はプッシュとプルの中間に属するのではないか?(と個人的には思っている。)
「未来を破壊する」は大変有意義な内容であるからこそ、しっかり内容を検討して、具体的に対処方法を考えなければならない。まずはその第一弾として、2012年8月27日(月)T&G研究会「徹底討論!『未来を破壊する』とは何か」 を開催する。是非ご参加いただき「未来を創造する」ソリューションを皆さんで考えていきたい。
(研究調査部長 郡司秀明)
徹底討論!『未来を破壊する』とは何か
2012年08月27日(月) 14:00-16:00