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日本でも「インバウンド・マーケティング」という言葉を目にする機会が増えてきた。決まった定義がないのでどれも正解なのだろうが、「顧客から見つけられること」「顧客を引きつけること」に注視したマーケティング手法である。
マーケティングで今求められているのは「消費者が自ら情報を得て、購入する」という新生活パターンに合わせた方法を取らねばならないことだ。そのためにインバウンド・マーケティングが有効だと言われている。インバウンドとは、「外から中へ入り込んでいく」という意味であり、インバウンド・マーケティングとはサーチエンジンや、Youtube、Twitter というWeb サイトからいかに「発見されやすいか」に目的を絞ったマーケティング手法である。
見込客があなたの情報や店、サービスを気に入り、消費者自らが「ファン」になる。つまり「インバウンド・マーケティングとはファン作り」なのだ。ファンになれば、自ら動いて情報を取得したり、商品を購入したり、周りにクチコミしてくれる応援者なのである。
インバウンド・マーケティングのポイントは、「ファンをどうやって作り出すのか」「消費者にどうファンになってもらうか」である。要するに、インターネット時代には情報が溢れていて、押し売り型の営業手法や明らかに事実と異なる誇張広告はかえって反感を招いてしまうので、「情報を積極的に取りに行く人に見つけられやすいようにすること」と「正しい情報を的確に伝え、魅力的に見せること」が大事になったわけである。
そして、もう1 つの重要な流れがソーシャルメディアの普及だ。これにより情報を一方的に受け取るだけだった買う側も発言権を持つこととなったし、従来は知人としか取り交わされてこなかった情報交換を、見知らぬ人と行えるようになった。「買う」「使う」そして、「感想を知らせ合う=ネットに投稿する」という流れが生まれた。
こういうメディアによって、消費者の行動パターンが変化していくことになり、マーケティング手法の変革が求められてきたという経緯である。インバウンド・マーケティングの反対語としてアウトバウンド・マーケティングという言葉がある。
マーケッターの基本的な仕事は自社の製品やサービス情報を伝え、消費者に買ってもらうことである。その目的のためにテレビCM やラジオ・新聞などアウトバウンドのテクニックを活用していた。この従来型マーケティングがアウトバウンド・マーケティングである。
しかし、近年この効果が薄れている。理由は消費者が「自分の望まない情報をブロックする技術」を持ったからである。デジタル放送になって、録画してテレビを観る人が増えている。そんな人はCMを観ないのが普通だ。こんなようにデジタル社会では押し売りしても意味はない。
インバウンド・マーケティングやアウトバウンド・マーケティングが騒がれる以前にプッシュ型マーケティングとプル型マーケティングという用語が存在した。説明が非常に難しいが、とりあえず「プッシュ型= アウトバウンド」「プル型= インバウンド」と考えるのが分りやすい。
アパレルビジネスで、この辺を解説したい。旧来型のシーズン商品を広告宣伝し、接客などで売って行くスタイルを「プッシュ型」とすると、SPA(Speciality store retailer of private label apparel=製造小売業)系はじめ、店頭をリアルタイムにアンテナとして活用できる販売店は、実需を見ながら変化に対応していくという点で「プル型」と言われている。大手ファッションSPA 企業でも、第1世代(ベーシック系)のGAPは広告宣伝費を使って計画商品を売るプッシュ型色彩が強い。第2 世代(ファストファッション系)は、消費者の心の中に定期的にチェックしたいという意識を作り上げてから待ち受けるのでプル型だが、広告宣伝を行わず好立地、オペレーションのスピード・精度に投資するZARA は超プル型、広告宣伝費もかけるH &M はプル&プッシュ併用型と各社によって微妙に異なっている。ユニクロは宣伝広告費の額や量もプッシュ型の典型と言うべきものである。
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、メルマガ、新聞チラシ、フリーペーパー、DM などで商品やサービスを告知し、消費者自らが企業の方に問合せしてもらったりするのは、プル型マーケティングだが、アウトバウンド・マーケティングに分 類される。
(『JAGAT info』2012年9月号より)