本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
『当社で受け入れたインターンシップ生の研修を1日だけ手伝ってもらえないだろうか』そんな依頼がJAGATに舞い込んだ。依頼はJAGAT会員企業であるD社からのものだ。
同社では、毎年、インターンシップ生の受入れを行っており今年で5回目となる。ここで行われるインターンシップは一般的にPBL(Problem Based Learning/Project Based Learning)といわれる形態のもので、学生が中心となって、試行錯誤しながら課題に取り組む少人数グループの授業やプログラムである。同社では、このプログラムを1週間~3週間をかけて行い、取り組む課題も、学生自らに設定させることで、課題発見能力と課題解決能力を身につけると同時に自主性を伸ばすことを目指している。
インターンシップとは
そもそも、インターンシップとは、学生が一定期間企業などの中で研修生として働き、自分の将来に関連のある就業体験を行える制度である。本来はアメリカで始まった、就職・転職のミスマッチをなくすための制度であるが、日本では、1997年に「経済構造の変革と創造のための行動計画」普及推進が閣議決定されたことに始まる。
現在、一般社団法人日本経済団体連合会(日本経団連)が示す「採用選考に関する企業の倫理憲章」(http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/015.html )の中では、インターンシップは次のように規定される。
「インターンシップは、産学連携による人材育成の観点から、学生の就業体験の機会を提供するために実施するものである。したがって、その実施にあたっては、採用選考活動(広報活動・選考活動)とは一切関係ないことを明確にして行うこととする」
インターンの形態にも職場体験型や実務実施型、課題解決型など様々なものがあり、その実施形態にもよるが、学生にとっては、責任感や自立心の醸成や、企業や業界に対する理解の深耕、将来の方向性の明確化といったメリットがあり、一方、企業にとっては、企業PRや、社会貢献、学生との接触を通じた社員の意識向上・社内活性化、といった効果がある。
情報コミュニケーションに根ざした体験を
学生たちにどのような体験を提供し、何を学んでもらうか。顧客ニーズが変化し、また、多様化する今日においては、印刷業界のみならず、能動的に自社提案の出来る人材が求められている。そこで、日本印刷技術協会では、D社のインターンシップ生に対し、クロスメディア能力向上講座の一部を研修プログラムとして提供した。
本講座は、本来はJAGATが運営するクロスメディア認証試験の支援講座として開設されたものであり、メディア特性や市場動向、効果測定、コミュニケーション戦略等を学ぶ「講義」と、自社分析や顧客分析、メディア提案等を学ぶ「企画提案演習」の2部から構成されている。
学生たちが、1日という限られた時間の中で取り組んだのは、この「企画提案演習」の部分である。ここでは、企業(印刷会社)の立場で顧客に対し、提案を行うことを想定して講座が進められる。学生たちは社会人の受講者と同様に予め用意された予見に対し、自社分析や顧客分析を行い、グループワークを経て、提案書にまとめプレゼンテーションを行う。
事前に説明を受ける分析手法は決して難しいことではない。しかし、基本的に、「正解のあるもの」に対して取り組むことの多い学生にとって、この「正解のないもの」に取り組むことは、なかなか難しいことであったようだ。
講座を終えた学生に感想を聞いたところ、正解がないにも関わらず、なんらかの答えを出さなくてはならない…さあ、グループワークで悩んでみよう!と言われたところで、「こういう意見もある」「ああいう意見もある」、結論、何がなんだかわからないまま、時間だけがあっというまに過ぎてしまったのだという。しかし、学生たちは、最後に「大変だったけれど、とても面白かった」「良い経験をした」と笑った。
研修に込められたもうひとつのメッセージ
インターンシップ生たちにこのような研修を準備したことには、D社とJAGATのもうひとつのメッセージが込められている。何が正しいのか分からないという状態に冷静に接し、チャレンジした先に答えがある、これがもうひとつのメッセージだ。講座での成績(提案書ができたかできなかったか)は、この際、どうでもいい。社会では、「決められたことを決められたようにやるだけ」ということはない。自分だけではなく、誰も答えが分からない物事に対して、自分で仮説を立てて立証していく能動的な姿勢。これが社会人として最も必要な能力ではないだろうか。いずれ社会に旅立つ学生たちも、遅かれ早かれそのことに気付くだろう。僭越ながら、先に立つ大人として、彼らがそのことに気付いたとき「あんな研修も受けたよな」と思い出してくれることを願う。 (JAGAT CS部 西村和栄)