本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
これからはメディアの知識は、あらゆるビジネスパーソンにとっての一般教養となる。メディアビジネスの本質は目には見えないが、見えない部分にこそ魂が宿る。
■「MAKERES」と「MEDIA MAKERS」のムーブメント
最近話題になっている本に田端信太郎著『MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体』(宣伝会議)がある。この本の特徴を一言で表わすと「移り変わりの激しく見えるメディアの世界ですが、大切な魂は、表面的な部分からは、見えない部分にこそ宿るのです。本当に大事なものは、目には見えませんが、時代を経ても、なお変わりません。」(同書のあとがきより)である。
似たようなタイトルの本にクリス・アンダーソンの『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』(NHK出版)があり、田端氏が意識していることは明らかである。
アンダーソンは、かつてアメリカの『WIRED』誌の編集長で、今ではインターネットの販売手法としてよく知られた「ロングテール」という概念の生みの親である。また数年前には企業や個人にとっての主戦場は、非貨幣経済で得た信用や評判をいかに換金できるかにあるとみた『FREE』が記憶に新しい。これは無料でサービスを提供して、そこから利益を生み出す「フリーミアム」という経済モデルのことを書いた本である。
『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』を、ごくごく簡単にまとめると、ものを購入する側だった消費者(なかでも起業家)は、オープンソースのデザインと3Dプリンターを使って、デスクトップでものを製造する側になることが可能になった。ソフトウェアもフリーの製品が出てきている。つまり装置産業であり、大量生産技術に支えられていた製造業の仕組みが変わってきている。IT革命に次ぐパラダイムシフトは、「メイカームーブメント」であると解説している。
産業界全体の大きな話でなくても、メディアに絞ってみても似たような変化は起きている。なぜならメディアの質と発信プロセスが変化したからである。これまでメディアの受け手が容易に発信者に変わった。田端氏の『MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体』は、身近なメディアの接触が、毎日の生活に影響を与え、ビジネスの世界にも浸透していることをとても分かりやすく解説したものである。
■メディアビジネスの本質
この本の中で田端氏が言いたいことのひとつは、日本では印刷とパブリッシュという言葉の間には、かなり落差があるということである。パブリッシュは、語源が「パブリックにする」ということで、公衆や公共に正しい情報を提供することである。ところが、日本では版を出す=出版、つまり印刷物を作ることと思われがちである。
だが、TwitterもFacebookも個人の発信するブログもパブリッシュである。だからそこに欧米のメディア企業がデジタル化を推進している意識との落差があるのだ、ということである。
これまで紙メディアでは、出したら終わり、つまり印刷側からすれば納品しておしまいであった。本当は出力された媒体がどのように使われるかが問題なのである。
それができなかったのは、そもそも紙メディアでは、フィードバックされるデータが少なすぎたからである。それがITの進化により向き合える環境が整った。
たしかにこれまで紙の文化で育ってきた人間とWeb系のコンテンツで育ってきた人間とでは、文化の差を感じる場面がある。しかし、これはどちらがいいとか悪いとかを二者択一するものではなく、「異文化コミュニケーション」が必要になってくる筈である。だからこれまで紙文化の重要な担い手であった印刷、出版、新聞の人たちも媒体がクロスされていく状況に対応し、歩み寄っていかなくてはならない。
同書では、「メディアの本質的な存在理由は、情報の縮減機能をもたらす「信頼」と、それが生み出す受け手への「影響力」にこそ、あります」とある。
さらに、メディアは送り手がいて、受け手がいて、「その間に立って当人たちの思いをどのように付加価値を付けつつ伝えるのか? 結局はそれに尽きるからです」とある。
印刷会社が、「その間に立って」ビジネスを展開することができれば、これまで培ってきた印刷技術+αの価値創造が可能になるだろう。それこそ時代のニーズに合ったビジネスになるに違いない。
■新たな時代にチャレンジする
要はメディアの大きな変化を肌で感じることがビジネスの基礎学力になるということである。同書はメディアのプロを目指す人に向けての「ブートキャンプ」であったが、実は読者対象は、メディアビジネスに関わる人だけでなく、あらゆる業種・業界のビジネスパーソン全般である。
PCは、かつてのテレビの普及のようにはいかないだろうが、スマートフォンはその勢いで浸透するのではないだろうか。そこにクラウドやソーシャルが加わって大きなうねりになるだろうと言われている。
あんな小さなスマートフォンが、どこでもネットにつながることができ、さらに重要な情報が目一杯つまっている。スマートフォン自体がすでにメディア化しているといえるだろう。スマートフォンを対象としたビジネスが増えるのは当然である。
広告では「SoLoMo」と呼ばれる「ソーシャル、ローカル、モバイル」マーケティングがあり、O2O(Online to Offline)などスマートデバイスやSNS、ARを使ったオンラインでの集客活動が実店舗での購買に影響を及ぼしている。
印刷会社も自分自身のビジネスにもそれと同じ構造、同じ引力が働いていることに常に向き合って、顧客のビジネス支援のために何ができるかを考えていかなくてはいけない。
印刷業界としても印刷の次の視点を持って臨んでいくことが必要になる。「メディア野郎へのブートキャンプ」こと『MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体』には、クロスメディアが当たり前の時代に学ぶべきことが盛り込まれている。一読をお勧めする次第である。きっと印刷会社にもビジネスのヒントになる何かがつかめるはずである。
※田端信太郎氏は、『R25』の立ち上げに関わったことをはじめとして、「livedoorニュース」、コンデナスト・デジタルでWeb版『VOGUE』『GQ』に携わり、そして現在は、NHN.Japanにて「LINE」や「NAVERまとめ」などの広告事業を統括している。そんな経歴を自ら「メディア野郎」と規定している。
■2013年2月開催 page2013カンファレンス
田端信太郎氏がスピーカーを務めるセッションは、
2月7日(木) 15:15-17:15
B3 「コンテンツビジネスの収益化~『Number』「LINE」に見る新たなモデル」
また同書には、「「FT」の紙がピンクなのはなぜか?」と題して、フィナンシャル・タイムズのブランディング事例が紹介されている。フィナンシャル・タイムズ アジアパシフィック/在日代表 星野裕子氏がスピーカーで登壇するセッションは、
2月8日(金)9:45 -11:45
B4 「デジタルビジネス近未来~次世代のマーケティング、テクノロジー、コンテンツ」
O2Oに関するものは、
2月6日(水) 12:30-14:30
B1 「ソーシャル・ローカル・モバイルのプロモーション~消費行動変化とO2Oの可能性」
2月7日(木) 12:30-14:30
B2 「スマホ時代のO2O戦略~実店舗とWebを連動させたソーシャルメディアマネジメント」