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PAGE2009グラフィックストラックでは、「インクジェット技術」をテーマに取り上げた。
昨年開催されたdrupa2008は「インクジェットdrupa」とも呼ばれており、インクジェットに関する数多くの新技術が紹介されていた。デジタル印刷分野におけるインクジェットは、現時点では発展途上と言えるものであり、生産性・コスト・品質・用紙適性などの面で、むしろ将来性の高い技術である。
このセッションでは、インクジェット技術の動向を整理しながら、今後のデジタル印刷の動向や課題について議論された。
プリンテクノの木村哲雄氏は、業務用インクジェット製品の市場ニーズ、drupa 2008とGraphEXPO2008におけるインクジェット方式デジタル印刷機の動向、今後の課題を整理された。
業務用インクジェット方式デジタル印刷が求められるようになった背景として、大量印刷から多品種少量印刷への移行、短納期印刷、One to Oneによる高付加価値印刷、世界的な環境保護への取組みなどのニーズがある。また、インクジェット方式の訴求ポイントとして、オフセット印刷と同等の印刷品質、一般の印刷用紙から厚紙などをカバーする用紙適性、20インチ(508mm)~30インチ(762mm)などワイド印刷幅、小型オフセット印刷機並みの実効印刷速度(スループット)などがある。
drupa2008、およびGraphEXPO2008の展示製品を見渡すと、参考出品や試作的なレベルの製品と既に販売中の製品がある。前者にはサーマルインクジェットのHP Inkjet web Pressや、Kodak Stream Concept Press、FUJI Jet Press 720、大日本スクリーンSCREEN Truepress Jet SXがある。後者には、InfoPrint 5000、Oce JetStream 1100/2200、SCREEN Truepress Jet 520、Kodak Versamark VL2000がある。
■HP Inkjet Web Press
プリントヘッドにサーマル・ドロップオンデマンドを採用している。解像度は600dpi、印刷速度は122m/分、ロール紙で最大用紙幅が762mmとなっている。インクは、HP pigment インクという顔料インクを採用している。最大の特徴は「HP エッジライン・フルラインヘッド」であり、1ユニット○○インチのヘッドを何個使用している。
■Kodak Stream Concept Press
ヘッドはコンティニュアス方式インクジェットを採用している。解像度は2400×2400dpi、印刷速度は150m/分である。特徴として、175線のオフセット印刷に匹敵する印刷品質とのことである。
■富士フイルム FUJI Jet Press 720
プリントヘッドは、高密度長寿命ピエゾ素子である。解像度は1200dpiで4階調、印刷速度は180枚/分(A4サイズ換算)である。印字サイズは720mm×520mmで、水性インクジェット材料である。特徴は、FUJI FILM Dimatix社のヘッド技術を採用している。プレコーティング用紙を使用する。
■SCREEN Truepress Jet SX
高精細ワンパスヘッドを採用し、解像度は1,440 x 720dpiである。用紙サイズは、最大530mm×740mmだが、用紙厚さは0.1~0.4mmと対応できる範囲が広い。印刷速度は、100枚/分(A4換算)、インクは水性顔料インクである。
■InfoPrint 5000
プリントヘッドは、ドロップオンデマンド方式のインクジェットである。解像度720×360dpiで、4階調である。印刷速度は64m/分、最大印刷幅:20インチ(508mm)となっている。インクは、水性染料、水性顔料が使用できる。特徴は、IBMの技術であるAFPカラーアーキテクチャー、IBMブレードサーバーによる超高速Parallel-RIPである。
■Oce JetStream 2200
両面印刷が可能で、プリントヘッドはピエゾエレクトリック・ドロップオンデマンドである。解像度は、600×600dpiで6階調、印刷速度は150m/分である。印字幅は最大538.5mm、インクは水性染料インクである。
■SCREEN Truepress Jet520
プリントヘッドは、ピエゾ・シングルパスで、解像度は720×360dpi、720×720dpi、階調は6階調である。印刷速度は128m/分、印字幅は150から507mmである。インクは水性顔料系インク、および水性染料インクで、CMYKプロセスカラーである。
■Kodak Versamark VL2000
従来のヴァーサマークシリーズはコンティニュアス方式であったが、VL200のプリントヘッドは、ピエゾエレクトリック・ドロップオンデマンドで、解像度は600dpi、6階調である。印刷速度は76m/分で、印字幅は最大474.22mmである。インクは水性顔料インクで、CMYKプロセスカラーである。
■各社製品とプリントヘッド方式
各社製品をもっとも特徴付けるのは、プリントヘッド方式である。各社のプリントヘッド方式は以下の通りである。
・HP Inkjet web Press:HP製サーマル・ドロップオンデマンド
・Kodak Stream Concept Press:Kodak製コンティニュアス方式
・Kodak Versamark VL2000:Panasonic製ピエゾ(?)
・富士フイルムJet Press 720:FDMX製ピエゾ
・大日本スクリーンTruepress Jet SX:エプソン製ピエゾ
・大日本スクリーンTruepress Jet520:エプソン製ピエゾ
・InfoPrint 5000:エプソン製ピエゾ
・オセJetStream 2200:京セラ製ピエゾ
■インクジェット方式のキーテクノロジー
・ノズル-紙間距離の精度をコントロールする紙搬送機構、ヘッドユニット実装機構
・インク供給系の安定性を保持するための負圧制御、インク残量検知
・メンテナンスステーションの機能として、キャッピング、インク吸引、フェイス面拭き
・メディア技術として、インク材料、インク溶媒、紙質、コーティング
・コントローラー技術としてデータ転送、ラスタライザー、カラーマッチング
■デジタル印刷とソフトウエア
デジタル印刷の普及が進むに従って、デジタル印刷をコントロールするためのソフトウエアが、ますます重要になってきた。つまり、JOBチケットを利用したワークフローコントロールや、Web to printによる業務処理である。
コンベンショナルなオフセット印刷業務でもJDFワークフローの重要性が謳われているが、デジタル印刷業務ではワークフロー自動化への要求度合いが高く、JDFワークフローがより重要となる。HPやkodak、ゼロックス等でも、JDFワークフローによって、デジタル印刷業務や、デジタル印刷とオフセット印刷のハイブリッド・ワークフローなどが進められている。
ディスカッションにおいては、インクジェット方式におけるインクコストの低減についていくつか議論が行われ、普及や競争が進むことで10分の1程度に低下するのではないか、という意見も聞かれた。