JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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「工程管理/生産計画の自動化に向けて」報告

掲載日: 2009年02月23日

PAGE2009コンファレンスMIS/JDFトラックE1報告

PAGE2009コンファレンスE1セッション「工程管理/生産計画の自動化に向けて」では、ハイデルベルグ社の「プリネクト」とPress-sense社の「Omnium」という二つの製品を取り上げ、CIM(生産の自動化)実現に向けて環境がどのように整いつつあるかを整理した。

自動化の要素は大別すると次の二つとなる。
・製造設計、計画の自動化
・作業指示、製造の自動化

ハイベルベルグ・ジャパンの武口豊氏からは「指示、製造の自動化」という観点を中心に「プリネクト」のお話を伺い、メタテクノの山口譲二氏からは「製造設計、計画の自動化」という観点を中心にデモを交えながら「Omnium」のお話を伺った。


印刷工場の統合管理を実現するPrinectワークフロー

プリネクトで実現できることは以下の4点である。

  1. 接続されている全ての装置のリアルタイムな進捗を閲覧できる
  2. 自動化
    ・製版、面付け処理。印刷、製本では各種プリセットの自動化
    ・実績情報収集の自動化、稼動効率指標表示など
  3. 予定組における生産性向上
    ・間接作業の削減、生産性の向上、コスト削減
  4. 印刷品質の安定化
    ・生産性の向上、コスト削減、顧客満足の向上

MISと各工程の生産機とがサーバーを中心にオンライン接続されているネットワークインフラがその前提となる。そして、データ交換はJDF/JMFがベースとなる。
従来のJDFワークフローは、MISと生産機とが直結するモデルが中心であったが、MISと生産機の間に工務部門にあたる「インテグレーションマネージャー」というシステムが入ることが大きな特徴である。そして、「インテグレーションマネージャー」に生産計画機能が新しく追加されている。
また「インテグレーションマネージャー」の下には、部門管理のシステム(プレスルームマネージャー、ポストプレスマネージャーなど)が配置され、統合管理を実現しつつ、きめ細かな分散管理も可能となっている。

ユーザーインタフェースに優れた生産計画機能

生産計画機能は完全自動化ではないものの、生産機の性能やスケジューリングのルール(納期から逆算、最短時間で生産)を登録することで、かなりの省力化が図れる。MISから受け取ったJDFジョブチケットが画面表示され、そのジョブをドラッグするだけでスケジューリングできるなど使いやすいユーザーインタフェースとなっている。また、各ジョブの進捗状況が部品ごとにリアルタイムで確認できることも大きな特徴である。

総合設備効率:OEE

ハイデルベルグでは生産機の効率化を図る指標として総合設備効率:OEEというものを提唱している。
これはトヨタ生産方式(リーン生産方式)をベースに考えられたもので、OEEとは overall equipment effectivenessの略である。

OEE=稼働率×性能×品質

稼働率:稼動予定時間のうち実際に設備が稼動している時間の割合を表わす。
性能:製造速度に対する実際の製造速度の比率を表わす。
品質:全生産数に対する良品数の割合を表わす。

プリネクトではOEE指標を生産機から自動取得することができグラフィカルな表示が可能である。


自動プロダクションプランニング機能を備える「Omnium」

「Omnium」はイスラエルのPress-sense社が開発した、見積りから受注/工程/在庫管理、資材調達、請求処理まで印刷会社のビジネスをトータルでカバーするERPシステムである。その最大の特徴は、自動プロダクションプランニング機能である。
これは印刷物の製品仕様を登録するだけで、最適な生産計画が算出され、その製造工程の原価をベースに見積り計算を行うというものである。

直感的なジョブ定義

ジョブ定義では印刷物の仕様を階層的に表現する。最近では無線綴じの本の中に中綴じの小冊子が投げ込まれていたりするが、このような複雑な仕様の印刷物も視覚的にわかりやすく定義できる。
また、折り方の指定もグラフィカルな図から選択できるようになっている。

最適な生産計画に基づく見積り計算

製品仕様を登録すれば、後はOmniumが最適な生産計画を導き出す。そして、生産計画の各工程の原価を積み上げ、その金額をベースに見積りを行う。特筆すべきは、原価の計算方法で、実際に使用する設備のアワーコスト×稼動時間により計算する(通し単価という概念はない)。
面付け設定など見積り根拠は実際の製造工程とリンクしないことも少なくないが、精密なコスト計算に基づき根拠のある見積もり価格を提示することができる。
また、同じ仕様で異なる部数の見積りを同時に行うことができる。下図は1000部の見積りと12000部の見積りを同時に行った例である。1000部のときはデジタル印刷を使用し、12000部のときは輪転機を使用する計画となっている。製造計画に複数の選択肢がある場合は、コスト的に有利な方が自動的に選択される。

受注登録と同時にスケジューリングが完了

提出した見積りが顧客に承認され受注となった場合は、見積り時にすでに生産計画が立てられているので、受注登録するだけで、自動的に生産計画が各設備に割り振られる。もちろん割り振られた後で手動で調整することも可能である。


これらは欧米発のシステムであるので、日本の生産事情や商慣習とあわない部分もあると思われる。
例えば、欧米では修正なしのPDF入稿が前提でワークフローが組み立てられていることが多いが、日本ではDTP制作から印刷会社で行い、校正を繰り返しながら印刷物を作り上げていくスタイルがまだまだ多い。
しかし、あれができない、これもできないという後ろ向きの視点ではなく、ときにはシステムにあわせてビジネスのスタイルを変えるような発想の転換も必要であろう。なぜなら、これらのシステムは「現状」をベースにした改善ツールではなく、「あるべき姿」を実現するためのツールであるからだ。システムのコンセプトと自社の現状とを対比して、そのギャップを把握するだけでも十分意義はあるだろうし、ビジネススタイルの転換ということでは、WebToPrintはその手法のひとつとなるであろう。

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