JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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印刷とEPUB、ハイブリッド出版の進展と課題  EPUB版「広報ひらつか」の制作・発行と課題

掲載日: 2013年07月10日

 
株式会社ローヤル企画
ITS企画開発部 課長 今西 毅寿 氏
田中 孝之 氏

■会社概要

(株)ローヤル企画は1971年に設立されて、2011年で40周年である。事業内容としては、各種出版物・印刷物の企画・編集・デザイン・DTP、さらに印刷も扱っている。それ以外はWeb開発や関連会社のL.C.Sという会社でInDesign、QuarkのXTensions、プラグインを開発している。
ローヤル企画は制作部、営業部、印刷部などがあるが、ITS企画開発部は主にWeb開発やオンラインの自動組版を担当している。もともとケーブルテレビの番組表やカタログの自動組版を行っていたが、7-8年前からWeb制作、開発を始めた。ブログサービスやコミックの投稿サイトの開発や運営、また、災害、防犯情報の行政に対するメール配信の仕組みを導入している。最近ではソーシャルアプリなどのmixiアプリを作成している。
2つの事例だが、まず1つめが「easy my web」でケーブルテレビ事業者向けの加入促進、解約防止ツールとしてブログを開発、運営をしている。ブログの内容は、イースト(株)の「MyBooks.jp」と連携して、EPUB形式で書き出すことが可能になった。それは、ブログの内容をEPUBに書き出して、友達や家族に配る仕組みも付いている。
2つめが「DreamTribe」というサイトである。これは、小学館集英社プロダクションのコミック、イラスト、小説、4コマ漫画のオンラインでの投稿サイトになっている。アマチュアの方が書いた漫画やイラスト作品を簡単にWebから投稿することで、デジタルブック
形式で閲覧したり、コメントを書いたり、投票したり出来る仕組みになっている。Flash形式のデジタルブックも含めて独自開発、サーバー運営を行っている。

 (図1)
 
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▲図1
 

■電子書籍への取り組み

ローヤル企画では、ここ数年電子書籍関連の情報収集や検証を進めていた。
大きく分けて3つの取り組みがある。まず1つがリフロー系である。EPUB制作、シャープのXMDFのオペレーション、モリサワのMCBOOKの制作もやっている。実際にApple Storeに何点かアプリケーションを出している。
2番目のラスタライズ系だが、国内ではVPJが販売しているWoodWingの取り組みを2010年行っている。2011年の7月からスタートするAdobe Digital Publishingの検証もしていて、こちらも年内に対応していきたい。
3番目のアプリ系だが、iPhone、iPad独自のアプリ開発は取り組んだことがあるが、電子書籍として動画や音声のインタラクティブなアプリケーションは、具体的にはまだ取り組んでいない。今後体制を整えなければならない。

■広報ひらつか

「広報ひらつか」とのEPUB作成に関して、ローヤル企画が直接平塚市からお話をいただいたわけではない。ローヤル企画が以前から取り組んでいるケーブルテレビ関連業務のつながりでお話をいただいた。
ブログサービスの「easy my web」を一緒に企画、開発している平塚市の湘南ケーブルネットワークというケーブルテレビ局がある。そこのテレビ局とブログ以外にも図2左側の「easy pocket」というサービスを2008年からスタートしている。こちらは、平塚エリアの警察または消防署の災害防犯情報を投稿できて、市民の方にメール配信する仕組みになっている。
図2右側の「ちいき情報局」は、2010年平塚市の協働推進課と一緒に取り組んだものである。ローヤル企画で開発した「easy my web」というブログエンジンを使用し、平塚の自治会の人が簡単に地域情報を投稿できる仕組みである。こちらの開発、運営をしている。平塚市は、人口が約26万人、東京駅から約1時間の通勤圏内なので、平塚市に住みながら都内に働きに来ている人も多い。昼間人口が多く日中も賑わっている駅である。
今回の「広報ひらつか」は、もともと新聞折込という形で紙で配布していた。新聞折込だと購読率が減少しなかなか読まれないので、数年前から全戸配布をしている。
月2回、第1、3金曜日に発行している。発行部数は約11万部で、タブロイド判の新聞のようなイメージになっている。約8ページである。
この広報紙は平塚の広報・情報政策課の担当者が直接InDesignCS3で組版し、デザインやレイアウトも作成して、印刷所に納品している。
図4が実際のPDFである。紙面のイメージはタブロイド判1ページの中にかなり情報が詰まっている。項目ごとに担当課の連絡先が記載されている。盛り沢山の内容で作成されている広報紙である。
広告はあるが、今回のEPUB作成の際には広告ページはすべて排除して、必要な内容だけをピックアップして作成している。
実際の「広報ひらつか」のEPUBビューアーの画面(図4左側)だが、こちらはiPhone版のiBooksの画面である。基本的なEPUB機能で作成しているので、表紙はタブロイド判の広報紙自体の表紙を1枚画像にして貼り付けている。また項目ごとにページ分けをし、目次を作成している。文中には担当課の名前、電話番号、メールアドレスが記載されていて、リンクを設定しているので、スマートフォンなどで閲覧した場合に、直接市の担当者に電話したり、メール送信したり、動画を見ることが可能になっている。
図4右側はFirefoxのEPUBリーダーで閲覧したイメージである。広報紙の方が項目ごとにページ分けして作成しているが、デザインのイメージをそのまま活かせるものはタイトルも画像化して貼っている。
基本的に文章は全てテキストで作成しているが、細かい図版などは画像に変換して配置している。
1冊のEPUBの広報紙で2つまで動画がリンクできる。一番下に「動画を見る」というリンクがあるが、もともとiPhone、iPadで動画を埋め込んで閲覧できるものを考えていたが、アンドロイドなどビューアーによって動画が正しく見られないことが問題になったので、平塚市の公式のYouTubeのチャンネルで、YouTubeにリンクを貼るという形になっている。
動画素材は湘南ケーブル、コミュニティチャンネルで放送している動画データを加工し、それを月に2本、平塚市に送る。そして、平塚市の方でアップしてそのURLをローヤル企画でリンクする流れである。
「お問合せ」や「電話」にはすべてリングが貼られていて、クリックすると担当課や担当ページにリンクされる。電話はTELリンクが貼られているのでPCではクリックしても反応しないが、iPhoneやアンドロイドの電話機能が付いているものであれば直接電話がかけられる。
例えば博物館、青少年会館、必要事項などの文言が文中にあるが、前もって変換ケーブルを平塚市から入手している。約100件あるが、何々公民館はこのリンク先という情報はすべて一括置換をしている。
電話番号とメールアドレスは1件、1件手作業でリンクする必要があり、プログラムでの正規表現を使用し該当するメールアドレスと電話番号の形式はリンクタグを設定するという自動化で対応している。
次は紙の限界から電子書籍への検討についてであるが、平塚市の方が実際に検討して問題だと感じていた点を挙げる。
まず、1世帯1枚配布に問題があった。全戸配布していても、奥様が広報紙を見てそのまま捨ててしまい、仕事で朝から外出している他の家族の者が見ることが出来ない状況にあった。市民全員に見てもらえる広報紙にならないか。また、若い世代に市の情報を知ってもらえていない。多くの年配の方には見ていただいているが、若い人向けの情報もたくさんあるので若い方にも確実に届ける媒体が欲しいことが2点目にあった。
さらに、平塚市にお住まいではないが、市外から通勤、通学している方たちにも見てもらえる方法はないか。通勤や通学中にスマートフォンや携帯電話で閲覧するようにできれば、より若い人たち、より多くの方に見てもらえるのではないか。
配布方法だが、これまでは住民の方に「広報ひらつか」を新聞折込で配布していたが、読まれる機会が少なかったので、現在では市内全戸にポスティングしている。同時に平塚市の駅にも専用ラックを置いて配布した。また市内の公民館や体育館、公共施設や一部のコンビニエンスストアにも「広報ひらつか」を配布してより多くの方に見られるようにしている。
そういった流れの中で2010年から平塚市専用の携帯サイトで広報紙の情報を配信する取り組みをスタートした。今までは紙だけだったので若い人に見てもらう機会が少なかったが、携帯サイトへの「広報ひらつか」の情報の埋め込みを2010年の1月頃からスタートさせた。開発、管理をローヤル企画で担当した。
CMSの機能を別途構築して、毎月平塚市から広報紙の情報をFAXしてもらい、この情報をピックアップして入力している。
カテゴリーも「健康と医療」、「教育と福祉」、「防災と安全」など分かれているので、必要なカテゴリーに登録して情報発信する取り組みをした。
2011年の3月にスマートフォンでも閲覧できるようEPUB対応し、携帯サイトでの情報発信の役割は終えたので、携帯サイトでの「広報ひらつか」の情報発信はすでにクローズしている。(図2)(図3)(図4)(図5)(図6)

 

 

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▲図2
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▲図3
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▲図4
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▲図5
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▲図6

 

■電子書籍化提案

もともとは2010年の12月頃に「ちいき情報局」という自治体の情報をブログ形式で配信する仕組みを協働推進課と一緒に取り組んだ。その流れで、電子書籍もローヤル企画で対応できるのか問い合せがあった。いくつか条件があり、まず、現在の広報紙がInDesignでデータを作成しているので、そのデータを活用して電子書籍化すること。それから、多くの市民に見ていただきたいので、主な電子書籍のフォーマット、端末にも対応出来るようにすること。また、校了してからEPUBを配信するまでに制作期間が3日間しかないのでこのスケジュールで対応できるかであった。ローヤル企画からは3つの方法を提案した。
まず1つ目はPDF形式である。PDFでの配布時代はこれまでも平塚市でもやっていた。単純にPDFをそのまま印刷データから書き出して平塚市のサイトにリンクをしているだけで、ダウンロードをしてくださいというものであった。それではなかなか見てもらえるものではなく、機能的にも少しシンプル過ぎた。
2つ目はiPad、iPhoneアプリ形式。あとはEPUB形式。この3つを提案したのである。PDFについてはこれまでも配信自体を実施していること、それからiPhoneなどの小さい端末で閲覧した場合、文字が小さくなってしまって読みにくいこと、そういったことでPDFは却下になった。2つ目のiPad、iPhoneアプリ形式については、専用の環境で開発をする必要があるので、開発に時間がかかり、開発コストがかかる。iPad、iPhoneアプリの場合は、アップル社の専用端末でしか閲覧できないので、専用のベンダーに依存してしまう端末は広報紙の配布としては相応しくないのでなくなった。
最後のEPUBだが短納期で作成でき、動画やリンクの設定が可能である。最近さまざまなEPUBリーダーがでていて、PCやアドオンソフトでも閲覧できるし、iPad、iPhone、アンドロイドで閲覧できる。こういった理由からEPUBを採用することになった。
2011年の1月に提案を行い2月にEPUB形式での配信が正式に決まったのだが、まずは過去の「広報ひらつか」にてサンプル作成を行いローヤル企画から提出した。その際の問題点だが、データは平塚市からInDesignの組版データを入手し作成できるが、ビューアーによって解釈が違い、見せたいレイアウトを見せることができない。また、動画のビデオタグを埋め込んだ場合、iOSだと閲覧できるが通常のビューアーでは全く表示されない問題があった。ビューアーによってはEPUB形式を作成できないので、シンプルなフォーマットで作成している。
基本フォーマットを作成していく中で、見出しや小見出しの本文のデザインなど、スタイルシートで調整しバックナンバーという形で1月号から1、2、3月号をまとめて作成した。(図7)

 

 
 
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▲図7

 

■「広報ひらつか」制作背景

機能の一覧(図8)である。まず、目次機能がある。2番目が電話番号へのリンクが付いている。平塚市や施設に電話をかけることができる。3番目にメールアドレスを持っている課に対してはリンクを貼ってメール送信を簡単にすることが出来る。4番目は動画サイトとのリンクを平塚市の公式YouTubeサイトへ設定している。5番目が担当課、施設名に対して自動変換でリンクを貼っている。
制作のフローだが、月2回、第1、3金曜日に神奈川新聞からInDesignのデータを月曜日の夜に入稿されている。確認用も含めてPDFデータとInDesignのデータの両方を送っていただく。同時に平塚市の担当の方から毎号、作業指示書いただく。自動的に変換するリンクはローヤル企画で判断してできるが、ページごとに加工する箇所があるので、その場合は加工指示書をいただいて、火曜日から制作をスタートする。
内容は、画像をInDesignのデータからPNG形式に変換し、目次を作成する。各ページはハンドコーディングする。さらに、動画リンクを埋め込んだり、担当課名、施設名に対して一括変換でリンク設定を貼ったり、電話番号、メールアドレスに対しては正規表現で一括変換する。
火曜日と水曜日に作成して、木曜日に作成データを平塚市に送付して、内容の校正をしていただく。修正がある場合は、修正を加えたEPUBを最終的に木曜日中に納品し、木曜日の夜に平塚市の方でWebサーバーに配置し、金曜日の朝6時に自動的に配信されるという流れになっている。第1、3金曜日の朝6時にはEPUB形式の広報紙を読んでいただく体制が出来ている。
告知方法は、バックナンバーを作った上で3月末に平塚市長が記者会見という形で発表した。記者会見には朝日新聞、読売新聞、神奈川新聞、地元のタウン誌などが取材に来て、次の日に新聞に掲載された。またYahooニュースなどのWebニュースにも掲載された。そして、そのニュースをもとに電子書籍を細かくウォッチしているブロガーの方に取り上げていいただき、Twitterで話題になり、口コミ的にRTという形で広がっていった。
市民の方よりも電子書籍制作に日頃から興味を持ってニュースを集めている方や取り組んでいる方が、興味深く取り扱ってくれたという印象である。
EPUBの実際のダウンロードである(図9)。平塚市の公式サイトに「広報ひらつか」の専用ページと「広報ひらつか」の電子書籍のページである。「広報ひらつか」の概要とバックナンバーも含めてEPUB形式をリンクを貼っている。
クリックすると、PCの場合はFirefoxのEPUBリーダーで閲覧できるし、iPhoneやiPadの場合は直接iBooksが起動するので、そのままEPUB形式の広報紙を読んでいただける。
また「広報ひらつか」は、トップページではこれまで同様にPDFでも情報を配信している。紙が届かない、EPUB形式ビューアーを持っていないという方はPDFの情報も継続して配信するようになっている。
記者会見をした後にメディア掲載という形で神奈川新聞に載った内容がYahooニュースで取り上げられた。比較的この時期に平塚市のサイトにアクセスが集中してダウンロード数が増えたと聞いている。また、Yahooニュース以外にもasahi.comや読売新聞のサイトなどにも掲載された。
神奈川県の自治体が電子書籍として広報紙を配布するは初めてのことだった。他の行政では東京都板橋区や沖縄県ではいくつか広報紙をEPUB形式で配布している。しかし、ページの内部までテキスト化して作成するものではなくて、ページごとに画像で貼っていくものが多かったので、今回注目を集めたのではないか。
インターネットの反応としては、電子書籍関係のブログに取り扱っていただいた。平塚市がこんなアグレッシブなことをやるのか、リンクが貼ってあるのでブラウザが動く端末で見るには便利、ポッドキャストで配信したらいいのになど、要望も見ることが出来た。   
また、地元の広報も電子書籍版にならないかという
意見もあった。さらに、スタート後の改善点であるが、平塚市の方と協議しながら検討した。一時的に話題になったが、市民の方にはまだまだ認知されていない。または、1回興味を持ってEPUB形式の広報紙をダウンロードいただいても定期購読してもらえてないので、EPUB形式をiTunesのポッドキャストの形式での配信を2011年6月から開始した。
現在平塚市の公式サイトからポッドキャストのリンクを配置して、iTunesに登録しておくと月に2回広報紙が配信され自動的にユーザのiTunesにダウンロードされる。ダウンロードされたものをiPhoneやiPadに同期をするとiBooksに取り込まれる。ユーザは意識することなく自分が持っている端末に平塚市の広報紙を入れて購読することができる。こちらは好評をいただいている。
ここまでが「広報ひらつか」の制作背景である。
(図8)(図9)(図10)(図11)(図12)

 

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▲図8
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▲図9
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▲図10
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▲図11
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▲図12
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▲図13

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▲図14

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■「広報ひらつか」の制作上の注意点/課題

「広報ひらつか」は広報紙ということもあり、幅広い年代の方が読みやすいようにスタイルシートで行間を通常よりも少し広めに設定している。そして、EPUBファイルの容量をできるだけ軽くして、ユーザがダウンロードするときのストレスが少ないようにしている。
「広報ひらつか」の場合は紙の広報紙が8ページものに対して、EPUB版は3メガを1つの基準としている。EPUBは見るためのビューアーが複数あるのでどのビューアーからでもある程度同様に閲覧できるようにシンプルなレイアウトになるように作成している。
次は、今後の表現、技術などの課題についてである。アンドロイド端末をはじめEPUBは見るためのビューアーが複数存在し、ビューアーにより表示や操作方法が異なり、動画の埋め込みに関してもすべてのビューアーで対応していない。ビューアーごとに別のファイルを作成すると大変なので、ビューアーの解釈の違いを上手く理解して対応していくことが必要である。
EPUBは複数のファイルをZIPファイルにまとめたものなので、誰でも解凍してファイルの中身を見たり変更したりすることができる。中身を改ざんして、実際に配布されているデータとは異なる内容で流通される恐れがあるので、今後対策などを含めて検討をしていきたい。

■EPUB3への期待

今普及しているEPUB2ではまだ表現力が足りない部分があるが、今後はEPUB3が普及することによって、縦書きやルビなどの日本語独特の組版仕様が加わり表現の世界が広がったり、アクセシビリティの面でも音声読み上げができるようになる。それにより、視覚に障害を持った方にも楽める書籍が作れたり、さまざまな可能性が生まれてくる。
JavaScriptを組み込んで、クイズやパズルなどのゲーム要素を持った本もEPUBで作ることできるので、InDesignからの書き出しを含め、これからもっと作りやすい環境が整っていったら、EPUBが面白くなっていくのではないか。
今現在広報紙はEPUB2で作っているが、実際の広報紙は縦組みでルビもある。今後のEPUB3のビューアーの対応状況によっては対応をしていきたい。それによってEPUB2と同時に両方作ることになるのか、完全にEPUB3に切り替えてしまうかは検討中である。
現在3営業日で作らなくてはいけないというスケジュールの中でEPUB3の対応ができるのかも検討している段階である。
今後の電子書籍への取り組みであるが、3月に「広報ひらつか」の制作をしてから、案件が増えてきている。
例えば、今までは紙ベースで作成していた学会の資料などペーパーレス化したいときに、PDFやWebで配布するのではなくて、資料として検索性の高いEPUB形式に対応できないかを提案している。EPUBだと文章、文字の検索ができること、目次が付けられる、ビューアーによってお気に入りのページにしおりを挟むことができるので後から見直すのに便利ということ。また、中身はXHTMLなので、ページの中にTwitterの連動機能を付けたり、Webとの連動といった部分でも面白くなってくるのではないか。
書籍に関してもラスタライズ系のアプリケーションが多かったが、リフロー型のEPUBやXMDFのフォーマットも増えてきている。
ローヤル企画は制作会社、印刷会社なのでお客様の印刷物や出版物のデータからすべて一元管理している前提があるので、その中で、DTPや印刷だけをやるという形だとそこで終わってしまう。できれば電子書籍も提案できる体制にしていきたい。
この形式しか対応できないということになってしまうとお客様のニーズとマッチしないので、こういった書籍であればEPUBやXMDFまたはMCBOOKがいいですよ、または雑誌のような見せ方の場合だとラスタライズ系のWoodWingやAdobeの新しいソフトのDigital Publishingで作成したらどうですかといった対応をしていきたい。
現在、EPUB作成もWebの開発もしているITS企画開発部が担当しているが、今後はDTPオペレーターレベルでもEPUB作成ができるようにならなければいけないだろう。
一部のオペレーターはInDesignは完全に使いこなすことができ、Adobe Digital Publishingをインストールして実際の操作を習得したり、InDesignからもEPUB形式を書き出せるので、ある程度XHTMLを解釈して、書き出したデータを修正することができるように、オペレーターが対応できればいいのではないか。
今現在は手作業でコーディングをしている。今後は自動化をしていかないと効率化が図れないだろう。
ローヤル企画はもともとQuarkやInDesignとデータベースを連動して自動組版をする仕事を多かった。今後はデータベースを作成した上でEPUB、Web、書籍なり、自動組版で書籍を作成する体制を作っていきたい。
今後のローヤル企画の営業的な部分としては、「広報ひらつか」を作成したことによって行政の方には何度がお会いしているが、いきなり印刷会社、制作会社が行っても行政の方には相手にしてもらえない。
そこで、ローヤル企画はケーブルテレビ業界と付き合いがあるので、行政とつながりが深いところとチームを組んで電子書籍化やWEB開発、または制作物、印刷物のトータルの提案が出来るような体制にしていきたい。
以上が「広報ひらつか」についても取り組みと今後の課題をお話しさせていただいた。

質問:実際に「広報ひらつか」はダウンロードはされているのか。

今西氏:4月、5月はWebで話題になったのでダウンロード数は多かったが、6月になってダウンロードは減った。具体的な数値まではローヤル企画は教えていただいていない。4月にWebニュースに出たときには結構ダウンロードされていた。
しかし、住民の方が実際に見ているのかというと、どちらかと言えば電子書籍に取り組んでいる業者の方がダウンロードしている印象である。

質問:では、今後どうやって認知してもらうように考えているのか。

今西氏:紙の広報紙も月に2回発行しているので、その中で、スマートフォンで閲覧できるEPUB形式で配布をしていることをもう少し大々的に主張していった方がいいと平塚市の人も話している。
今現在、広告的なことは行政もやっていない。例えば、湘南ケーブルのコミュニティチャンネルで放送したり、バスや新聞の中吊り広告で広報紙がスマートフォンで閲覧できますという宣伝をしていくというお話しをされていた。

質問:制作は何人くらいでしているのか。

今西氏:基本的には1人で制作をしている。今は4月に入った新人が1人で作っている形になっている。

質問:費用的には。

今西氏:費用はそんなに高くいただけていない、取れるものではないと思っている。数万円くらいである。

質問:5月くらいのものをダウンロードしてみたら、すごく読みやすかった。著作権のことであるが、16ページのデータ改ざんへの対応。今後対応していくということであるが、DRMについてはお客様から話題とかお話しあったのか。
今後は著作権管理をどう対応していくのか。

今西氏:DRMの話は最初にあった。広報紙という性質上、平塚市の人はどんどんコピーして色々な人に配ってもらうことは構わないということであった。しかし、金額の面等、内容を一部改ざんしたものを配布されてしまう問題なので、そこを専用のDRMの仕組みを導入して専用サーバーを設けて配信するといったことも話題にはなったのである。
しかし、そこまでする必要があるかどうかはしばらく運用してから決めることになっている。よく分からないようなレベルで改ざんをして配布されてしまって、例えば問い合わせがあったらそのイベントはやっていなかったとか、そういった問題になったときには検討をしていくというレベルである。
今現在大幅な費用を入れて専用サーバーを立ててDRM配信をしようというところまではいっていない。

質問:学会の方に営業をするということだが、学会であれば特許などを発表する場もあるが、改ざんされるということを心配するお客様もいると思うがどういう営業をされるのか。

今西氏:学会はお客様の方からお話をいただいた。公には発表されていないものが学会の資料としてあり、この資料で第1弾の発表をするので、広報紙よりも気を使っていらっしゃった。
もしやる場合は、まずEPUB自体専用の会員サイトを作り会員登録をしてもらい誰がどのデータをダウンロードをしたのかを確認してからダウンロードさせるということが1点ある。
それから、専用のビューアーを決めてDRMに対応したビューアーで閲覧できるようにするものである。広報紙のようにより多くの人に見てもらうというものではないので、学会資料を見る人はこのビューアーを使ってくださいということで決め、うちのビューアーで閲覧させてもいいのではないかという議論があった。

質問:9ページの中で、EPUBの校正を出したら返ってくるとおっしゃっていたが、どういうふうに返ってくるのか。

今西氏:今はメールと電話である。双方で確認出来るような校正ツールを使っているわけではない。何ページも修正が入るものではなく、この文言や施設名に対してリンクを張ってくださいというレベルである。メールで、ここを修正してくだいというレベルである。

質問:PDFも公開されている。EPUBも公開されている。両方をダウンロードしてみたが、もちろんEPUBの方が見やすい。PDFとEPUBを比較したときのアクセスは。

今西氏:具体的な数字はお聞きしていない。PDFはもともとあまりダウンロードされていないと言っていた。紙面の内容をそのまま変換して載せているというレベルなので、行政としては情報が載っていないと言われることが一番まずいらしく、「ここに掲載してあるんですよ」というレベルなのである。
だから、PDFではリンク設定もしていないし、手の込んだものではなくとりあえず掲載しているレベルである。あまり閲覧はされていないと思う。
EPUBの方は順調に閲覧されていると思うのである。

質問:電子書籍の取り組みでさまざまなフォーマットやシステムを検証されているが、最後の課題として、効率化とか自動化と謳っているが、実際の制作体制はシステムを使っているというよりはハンドコーディングが主なのか。

今西氏:EPUBに関してはハンドコーディングである。WoodWingやAdobe Digital Publishingはツールなので、データレベルやるものだと思っているが、EPUBはWEB制作と同じようにWEBの知識を持ったも人間がハンドコーディングする。そこをいかに効率化するかという部分の自動化である。他のMCBOOKとかXMDFとかWoodWinの自動化というよりはEPUBに関して自動化していきたい。
質問:今回は湘南ケーブルとのお付き合いでやられているということである。他の広報紙さん、市からの問い合せとか、具体的あるのか。

今西氏:今現在はない。

質問:新聞紙面の広報とEPUB版のコンテンツはイコールか。
今西氏:まったく同じである。広告的な部分がないだけである。情報に関してはすべて掲載している。逆に、動画が追加されているので紙の広報紙よりもプラスαで動画機能があるということが違いになっている。

千葉:最初にPDFとアプリ形式とEPUBを提案されたということだが、MCBOOKは検討しなかったのか。

今西氏:検討しなかった。図版、画像などが多く含まれることとEPUB自体がローヤル企画が作りやすいという部分もあった。そのときの選択肢に入らなかった。

千葉:今後、EPUB3も検討しているということであったが、平塚市側で縦組みにして欲しいという要望はあるのか。

今西氏:今のところ平塚市から縦組みにしたいとかルビを付けたいということはない。今は横組みだが、ルビに関しては漢字の後にはカッコ付きで、ルビの情報は落とさないで入れて欲しいということはある。
そこがローヤル企画にとっては手間になるので、もっと上手い見せ方が出来るのであれば逆に提案していきたいと考えている。

千葉:縦組みに対してのこだわりはなさそうなのか。

今西氏:ない。情報が読みやすく見られるのならいいというレベルである。

千葉:印刷物と同じにしたいというこだわりはあまりないということか。

今西氏:逆にシンプルな方がいいという要望である。

2011年7月12日T&G研究会「印刷とEPUB、ハイブリッド出版の進展と課題」より(文責編集)

(C) Japan Association of Graphic Arts Technology