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iPadは低価格、高解像度のネットワーク機器としてビジネス用途での利用が広がった。特にカタログやマニュアル分野では、紙では実現が難しいログの取得やデータの一斉更新ができ、運用も手軽なことから導入する企業が増えている。そこでクロスメディア研究会では、iPadの企業活用業況を知るためにスマートデバイスの動向や具体的な導入事例について話を伺った。
営業向けiPadツール等の開発を手掛けるメディアプローブの渡辺氏は、スマートフォンやタブレットがパソコンに代わる「ポストPC」の時代になったことに触れた。2013年4月度ではPCの販売台数が約30%も下落しており伸び悩むなかで、スマートフォン・タブレットの台数は伸びている状況である。特にiPadのシェアは安定して高く、40%程度を維持している。
iPadは直観的な操作性、長時間のバッテリー持続、セキュリティが高く、ウィルスに強いといったメリットがあり、シングルユーザーモードで業務専用端末として利用できる機能もあることからビジネス用途に向いていると認識されている。先ごろJR東日本がiPad mini
を7000台導入したことが話題になったが、これもiPadがビジネス分野での有効性が認められた結果であろう。
タブレットで利用されるアプリのトレンドは、2011年に開催されたLe Web 2011の講演で「App Internet」、つまりアプリとインターネットという組み合わせでこれからはユーザーが使っていくことになるだろうという講演があったように、今後はインターネット上にデータを置きアプリと組み合わせて利用するという傾向になると予測している。レイアウト・機能とデータを分離し、軽量なXMLデータだけをやりとりするという流れだ。
端末に直接インストールするネイティブアプリとHTML5ベースで開発されるアプリのどちらがよいか、という点では今のところネイティブアプリが優勢のようである。たとえばFacebookではHTML5ベースとネイティブ両方のアプリをリリースしたが、ネイティブ版のほうが反応がよく使いやすいという評価だ。さらにネイティブアプリではHTML5ベースではできないAPNs(Apple Push Notification Service)というプッシュ通知ができる機能も備えている。現状では、ネイティブアプリで提供するのがベストだが、コンテンツ部分はHTML5で作成するなどハイブリッド型も検討すべきだろう。
ウェディングプロデュースを手掛けるノバレーゼの野原氏には、実際の企業における活用事例として、自社におけるiPad導入経緯について話を伺った。
ウエディング業界は圧倒的な大手企業がおらず、上位5社を集めても10数%にしかならない。少子化のなかで婚姻件数は年々減ってきているが、単価は年々上昇している傾向にある。そのような環境において生き残るためには、新しいことにチャレンジして顧客のニーズを掴むことが不可欠である。
同社がiPadを営業ツールとして使い始めたのはは2010年。開発が不必要で導入コストが安く、iPhoneに慣れているスタッフにとって操作性が良いといったことが決め手となった。今まではウエディングドレスを花嫁が決めるとき、ハンガーにかかっている状態のドレスを見ても具体的なイメージがわかりにくいという課題があった。ドレスを実際に着たときのドレープやシルエットは並んでかかっている状態で伝えることが難しい。しかも平均2時間程度の試着時間では4点試着するのがやっとだ。そこで希望に近いドレスを見つけやすくするためにiPadで実際の着用写真や動画を見せてからドレスを選んでもらい、試着してもらうようにした。
iPadカタログの導入によって、ボディラインをよく見せるドレスなど着用イメージがわかりにくいため今まであまり試着してもらえなかったドレスの試着率が向上した。また、数値的な売り上げに劇的な変化はなかったものの、新たな販売機会の創出という点で手ごたえを感じた。ウェディングでは結婚式・ドレス・ペーパーアイテム・花・動画など結婚式に関わる全ての商材を扱う。プランナーが花嫁にドレスを案内しながらリングや花など別の商材も売るときに、いちいち商品を取りに行くという無駄な導線がなくなった。
もうひとつは販促ツールとしての活用である。特に以前から課題になっていたのが披露宴の打ち合わせであった。結婚式の準備のために行う事前打ち合わせは平均2時間が6回程度あるが、席次表や進行などに対しての確認作業が多い。手書きや口頭ベースで打ち合わせた内容をプランナーがオフィスに戻ってからPCで打ち込みし直すという作業が発生していた。
そこでウェディング情報や挙式に関する情報を入力できるシステムを開発し、打ち合わせにはiPadを使用するようにした。新郎新婦には自宅で情報を入力してもらうことで打合せ当日の確認作業が減ったほか、toDoリストや説明を載せることで、店頭や電話での問い合わせが減少した。結婚式のクレームの8割が伝達ミスとも言われるなか、システムの導入によって情報伝達ミスが減ったほか、プランナーの事務作業を削減し、本来業務である式のプランニングに専念できる環境が整った。これも打ち合わせ時にiPadを使用することを想定において開発されたものだ。
現在ではそのほかに、アンケートツールや社内の教育ツールとしてもiPadを利用している。2013年に入ってからはADPSも導入した。いずれも社内でノウハウを蓄積することでスピードを実現している。ブライダル業界は不況であってもそれほど単価が落ちない。安定したマーケットなのであぐらをかいていると生き残れないためコミュニケーションを進化させる必要がある。特にこの頃はコミュニケーションの進化は早いと感じている。
低コストで早く最新の状況にしていくことの必要性を強く感じている。
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今回の話を伺い、ノバレーゼのように自社で内製化する企業が今後増えていくと感じた。一方で、カタログを見る人に「購入したい」「利用したい」と思ってもらうために、デザインを重視し、コストをかけても専門のデザイナに依頼する企業も増えていると聞く。印刷業界が持つデザインスキルをうまくアピールしていくことが、今後のデジタルカタログ制作で受注を増やすために重要になりそうである。