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混沌としている電子書籍端末の動向
2012年は国内でも数多くの電子書籍端末の新製品が発売された。7月には楽天がモノクロ電子ペーパー方式のkobo touchを低価格で発売し、かなりの反響を呼ぶことに成功した。
その後、同様の方式にてBookLiveからLideo、アマゾンからはKindle Paperwhiteが発売されており、人気を呼んでいる。
電子ペーパーは、白紙に印刷されたインクと同様に反射光を利用する方式である。そのため、長時間の読書でも眼精疲労が少ないと言われている。また、カラー液晶に比べてバッテリーの消費量が少なく、一回の充電で数週間使用することができるなど読書専用端末としての評価が高い。
それに対して、カラー液晶は常にバックライトを注視し続けるため、長時間の読書には適していないと評価されることもある。スマートフォンやタブレットPCは、Webの閲覧程度なら問題ないが、読書端末として利用するのは適していない、と言う人もいる。
しかし、このような評価は、ほとんどの場合、印象的、感覚的な面からの評価であり、実証的な研究もあまり見かけることができないのが実状である。
解像度の違いもあることから、同じ条件での比較が困難という側面もある。
「電子ペーパー方式は目に優しい」は、ある意味で都市伝説のようなものだとも言える。
2013年3月28日の日経新聞電子版 によると、世界の電子書籍専用端末(電子ペーパー方式)の出荷台数は2011年の2300万台をピークに急減し、2016年には1/3程度になると予測されている。タブレットPCやスマートフォンの利用者が増えることで専用端末の意義は小さくなり、読書マニア向けの需要を満たすだけの存在になりつつあるようだ。
つまり、初期の電子書籍コンテンツは文芸書や実用書など文字中心の書籍であり、解像度が低くモノクロの電子パーパー方式でも不具合は少なかったということだろう。
数年たって、世界中でタブレットPCやスマートフォンが急速に普及した。Webページや動画などフルカラーで構成されたコンテンツを高精細なカラー液晶で表示し、閲覧されることが当たり前となった。
国内でも、ようやく電子書籍コンテンツが増えつつある。文芸書や実用書だけでなく、電子コミックや電子雑誌も増えてきており、これらは高精細カラー液晶表示を前提に制作されている場合が多い。
現在、国内で発売されている電子パーパー方式端末の解像度は、Kindle Paperwhite(758×1024)や「kobo glo」(758×1024)を除くと、600×800が主流である。文字中心の文芸書には適していても、雑誌やコミック、実用書に適しているとは言い難い。
目に優しいかどうかを問う以前に、表現力、再現性に制約があることから電子書籍のプラットフォームはタブレットPCやスマートフォンに移行していくことは間違いないと言える。電子ペーパーかカラー液晶の二者択一ではなく、進化の過程と言える。
2012年は、国内でもEPUB電子書籍の制作が急増したようだ。EPUB3規格が策定され、徐々に制作環境が整備されたこと、前述のように有力な電子書籍ストアが続々と開設され、EPUB電子書籍の需要が増えていること、タブレットPCやスマートフォンの普及に伴い、電子書籍コンテンツの需要も増えていることがその理由である。
DTPで制作されたコンテンツをEPUB電子書籍に加工する工程は、ほとんどの印刷・制作会社にとって、未体験の作業であり、手探りで取り組んだことだろう。
実際には、制作環境は十分とは言えず、定番ツールがあるわけでもない。効率よく高品質なデータ制作をおこなうには、経験を積み上げることと、互いにノウハウや問題点、対策を共有することしかないだろう。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)
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