JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

先行企業から学ぶ100%目標達成の目標管理の秘訣 Vol1. 「新しい目標管理」が企業の競争力を強化する

掲載日: 2013年06月04日


日本企業を取り巻く経営環境が20年ぶりに劇的に変化しようとしている。―――先進国では異例の長期間に及ぶデフレ経済下に苦しみながら、特に2008年のリーマンショック以降、日本の産業界には円高、混迷するエネルギー政策などのいわゆる「6重苦」が圧し掛かり、厳しい局面が続いてきた。しかし脱デフレを政権の主軸に置く安倍内閣の登場と「3本の矢」に象徴される新経済政策「アベノミクス」の展開や、黒田東彦日銀総裁の異次元の金融緩和策が今までの閉塞感に風穴を開けて、日本経済・日本企業に千載一遇の好機が訪れようとしている。
実際に政権交代後の経営環境の変化には目を見張るものがある。昨年11月中旬に衆議院解散が決まってから株高・円安が始まり、実質的な「アベノミクス相場」の約5カ月で株価上昇率は何と4割に達している。2%の物価上昇率目標など、海外投資家にも分かりやすい政策で経済再生に市場の期待が高まっている。

「人事評価直結型目標管理」の誤った認識
今回の歴史的な金融緩和策などの経済政策がもたらす絶好の機会を、日本企業は再成長の足掛かりにできるのだろうか?その成否のカギを握るのは「経営手法としての事業成長型目標管理」の運用と定着だと考えて、経営人事コンサルティングに全力投球している。バブル経済崩壊以降の20数年、デフレ・円高などの定着で、多くの日本企業はコスト削減に邁進し、投資は控え、万が一に備えバランスシートの現金重視の経営へと舵を切ってきた。この過程で各社の賃金、人件費もコスト削減の対象にならざるを得なかった。
図1の国税庁資料を見ると、日本の給与所得者の平均年収は1997年(山一證券廃業の年)の約467万円をピークに、以降16年間下がり続け、2011年には約409万円とこの間に約60万円も落ち込んでいる。このような継続的な年収の下落は世界的にも珍しい現象といえよう。この間、多くの社員は企業が好業績を記録しているというニュースを聞いても、自分たちの生活は一向に改善しないことに不安や不満を感じ続けていたのではなかろうか。
edu_kyuyo.jpg
本来の目標管理は、P・ドラッカーが提唱したように、顧客・市場創造への経営手法として位置づけられ、①組織目標と個人目標の達成すべきゴールへのベクトル合わせ、②PDCAサイクルをベースにしたマネジメント革新、③社員の能力開発(学習する職場づくり)、④プロフェッショナルとしての自己実現(意欲づけ)、⑤成果を公正に評価して処遇に反映させるもの、などの幅広い導入目的を持ったものである。ところが多くの日本企業では、デフレ経済下の影響で、⑤の人事評価と処遇の人事手法ツールという狭い理解と認識、運用にシフトし過ぎてしまい、結果的に各社の賃金、人件費削減に貢献するものに位置付けられ、管理者や社員の支持を失いがちという残念な傾向が目立ってしまった。

「事業成長型目標管理」の新しいPDCAサイクル
改めて言うまでもなく、20年ぶりの景気回復の好機を捉え、再成長への軌道に乗せるために日本企業に今、求められているのは、今までの「人事評価直結型目標管理」から本来の「事業成長型目標管理」への転換である。
新しい「事業成長型目標管理」のマネジメントサイクルと運用の要となる管理者の役割変化について、先行企業で展開されている事例から、いくつかのヒントを挙げてみよう。
創業80周年という伝統を誇る地方百貨店I社では、今までの「人事評価直結型目標管理」から「人を育て新3カ年中期経営計画を必達するための100%目標達成への目標管理」に新年度からマネジメントチェンジのスピードを速めている。日本の百貨店業界は前述の年収推移カーブと全く同様に、過去16年間前年比売上高を落ち込ませてきた。I社を含めて業界では、特に既存店の不振は深刻そのものだったが、昨年度はようやく16年ぶりに前年比売り上げプラスになった。高額商品の販売が堅調に推移したことに加え、各社各店の工夫を重ねた販促と顧客サービスの努力がようやく実り始めたようだ。だが1996年以来の前年比プラスというものの、伸び率は微増であり、「他の商業施設との競争がますます激しくなるなど、とても楽観できる状況ではない」とI社の経営幹部は語っている。
このような状況の下で、I社は人事制度の全面的見直しのなかで、従来の目標管理のPDCAマネジメントサイクルの回し方を、部門長・課長層・係長層を中心に「100%目標達成へのマネジメントガイドブック」を自社独自のオリジナル版を開発し、役職別・店別(4店)に15名程度のワークショップを展開している。ワークショップは3カ月ごとに年4回予定されている。第1回目は3月と4月に今年度の目標設定に焦点を絞り、企業ビジョン・店長方針を受けて、事業・職場方針の作り方、メンバーへの伝え方、管理者層としての管理者目標の作り方、部下・メンバーへの落とし込み方などを演習を交えて全員が受講している。

100%目標達成へのPDCAサイクルの再認識
I社のミドル層は全員が新しいPDCAサイクルの回し方をワークショップにて100%再認識できるように様々な工夫を加えている。(図2参照)
edu_cycle.jpg
新しい目標管理での目標必達への重要5大条件
I社のミドル層が今期から、徹底的に実行を求められている重要5大条件は次の5点である。①新しいPDCAサイクルで確実な成果を上げる秘訣はコミュニケーション!コミュニケーション!コミュニケーションだ。ミドル層は聴くチカラと伝えるチカラを磨き上げよう。②顧客満足から顧客感動を実現しよう。③今期はスピードが命―モバイル・ソーシャル・クラウドを使い倒そう。④PDCAサイクルの「C」の際にSee(事実をよく見てビッグデータを分析する)とThink(考えて考えて考え抜く)を必ず追加しよう。⑤コミット(約束)する、そしてロック(鍵)して、言い訳を言わない組織文化を創り上げよう。
次回はPDCAサイクルの段階毎に、新しい目標管理の定着・成功へのヒント・秘訣を具体的事例でリポートする。

                                 現代マネジメント研究会 小松勝

 

小松 勝 株式会社エムデーシー取締役 
(現代マネジメント研究会 経営人事エキスパートコンサルタント)


都市銀行から信用金庫に至る金融機関、製造業全般、百貨店・専門店などの小売業から出版社、病院、私立大学、生協関係、広告代理業とあらゆる業種・業態の人事考課制度から賃金制度、目標管理制度を中心とする企業改革、個人のキャリア開発の支援に従事。 ◆主な著書:『日本型経営システムの構造転換』(中央大学出版部)、『担当者が独力でできるこれからの賃金・人事考課・退職金制度』(政経研究所)『業種別・職種別人事考課表実例集』(日本法令)など。

■関連情報

JAGATでは、小松勝氏を講師として招聘し、業績向上の好機に恵まれている印刷企業に、今までの人事手法型による目標管理から競争力強化に直結する経営手法型目標管理へのモデルチェンジとその活用の方法・具体的なノウハウの実践的な指導を目的とした下記講座を開催いたします。

印刷業のための競争力強化セミナー
「先行企業から学ぶ100%目標達成の目標管理の進め方」
2013年8月20日(火) 10:00~17:00

 

(C) Japan Association of Graphic Arts Technology