本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
カメラマンをなくし記者にiPhoneで撮影させる新聞社が現れた。デジタルカメラの進化が撮影の専門家を不要にしてしまった。その結果として印刷の写真に及ぼす影響を考えてみたい。
■「米タブロイド紙〈シカゴ・サンタイムズ〉が、写真部を解散して所属カメラマンを全員解雇し、iPhoneを使った撮影研修の受講を課す。研修はiPhoneによる写真撮影術に加えて、映像の撮り方、基礎的な編集方法、ソーシャルメディアの利用法を身につけるもの」
このような記事が6月はじめに流れた。その一つの要因にデジタルカメラの性能アップが挙げられる。今までにもデジタルカメラの性能が日々上がってきた。この記事に関しては、カメラマンをはじめいろいろな業種の人からいろいろな意見が出されるであろう。その結果としてすべてカメラマンではないが、撮影の専門家が不要になったという事実がある。
■デジカメの性能アップの一つの機能として撮影の有効画素数がある。年々その数は増加している。
コンパクトカメラ 最大約2000万画素(2013年)(30万画素1995年)
デジタル一眼レフ 最大約3600万画素(2013年)(270万画素1995年)
iPhone 200万画素
iPhone5 800万画素
AQUOS PHONE EX SH-04E 1312万画素
印刷物の仕上がりサイズで必要な画素数の目安は下記の通りである。
A4サイズで約870万画素(300dpi) 約1260万画素(360dpi)
名刺サイズで約70万画素(300dpi) 約100万画素(360dpi)となる。
このようにスマートフォンでも印刷物上の仕上がりサイズを見ても十分な画素数を持っている。
従来はデジカメの画素数が足りなくてどのようにして拡大するかを考えたが、今では印刷での用途ではほぼ十分な画素数があり、反対に過分な画素数のままの入稿にどのように対応するかが課題になっている。
その他にも、オートフォーカス、HDR(high dynamic range imaging)、美肌モードなど数多くの新しい機能が搭載されるようになってきた。今まで製版のレタッチ作業を必要とされてきた処理が撮影時点で対応されてしまっている。
こうしたカメラの機能アップが今までの作業フローをなくしてしまい、さらにカメラマンという専門家まで時として不要にしてしまった。
■一方で、よく見かけることに印刷物の画像の品質の低下がある。デジカメの性能アップで、ピント、露出など適正であり、撮りっぱなしでも何とか印刷物で耐えうる(耐え難い)品質には、なっている。
但し、照明の仕方とか構図の取り方とか、かなりいい加減なものも目立ってきている。例えば、人物・顔の写真では、影を出さないとか立体感を出すなど基本的な照明さえできてなく、のっぺらとしたものがある。
食品・料理はシズル感がなく、金属製品・宝石はキャッチライトやメリハリもないものもある。
これらを何の修正もせず、単にレイアウトして並んでいる印刷物が多い。
■印刷物上での適正な画質や絵作りと言ったものが、とても疎かにされている。撮影時の照明のノウハウや製版のレタッチ作業で行われていた画像修正のノウハウが加味されてきた。
デジカメの性能アップで撮影された画質に関して自動化されて不要になった処理も数多くある。しかし、すべての画像での絵作りの処理を省いていいわけではない。
印刷物上の画像はもっとも重要なコンテンツの一つである。絵作りには拘りを持ち続け、画像での訴求効果の向上を常に求めていかなければならない。その結果は、印刷物自体の価値につながる。
(研究調査部 福原 節寿)