JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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50部からの小ロットを可能にするデジタル印刷

掲載日: 2013年09月12日

「デジタル印刷はバリアブルが可能だ」といっても、1点1点準備して印刷・製本しているようでは、グーテンベルグ時代と同じである。IT技術をフルに活用するのが、現代の職人だ。

■page2013カンファレンスで一番集客の多かったのは「PPO!オンデマンドソリューションが拓く新しいビジネスモデル 」だった。電通が何かやるらしい?という興味本位もあっただろうが、実は印刷の未来を指し示す重要なベクトルだったのだ。

page2013から半年が経ち、PPOの実例が動きだし、実績を出し始めている。
PPOの目的には色々あるのだが、一つの目的は「これからの印刷物が小ロットになるのは間違いない。小ロットになるのだったら、小ロットをたくさん集めれば、中ロットになり大ロットになるだろう」という発想で、上手くやれば利益も大きくなるという考え方を実践したことだ。
また、会員サービス業のようにたくさん会員を集めれば、入会金や手数料だけでも金額がまとまり、大ロットで印刷機をガンガン回すよりも効率が良いという逆説的、且つ合理的な考え方にも成り立っている。

■そんな考え方に沿った仕事が日本ケアサプライの福祉用品(介護)カタログの仕事である。福祉用具とは介護用のベッドや車いすを指している。各市町村の補助率が異なるため、料金がバラバラになる典型的な多品種小ロット印刷物となっている。全国には600を超える事業者が存在するということだ。

実際にこの仕事の生産拠点になっている印刷会社は、大阪を拠点に活躍している研文社なのだが、最初はデジタル印刷の品質等で色々あり、値段以外をオフセット印刷で行い、値段だけデジタル印刷で追い刷りするという離れ業が行われていた。しかし、デジタル印刷側の準備が出来て、page2013以降はデジタル印刷による小ロット印刷とJDF連携された製本機で小ロット生産されている。

■最小発注単位は50部に設定されているため、アナログでこの授受をやったら手間ばっかりかかってミスが多くなり、儲けどころではなくなるので、ITの力をフル活用して効率を最大限上げようとしたのがこの事例である。

ここでポイントになってくるのが、PPOで使用されるDOP(Dentsu Ondemand Platform)と呼ばれるWeb発注システムだ。いわゆるWeb to Printシステムなのだが、ベースデザインや値付けの基本デザインは電通側(PPO側)が責任を持って作りこむのだが、個別デザインに関しては、日本ケアサプライが責任を持ってデザインするという仕組みになっている。
日本語Web to Printシステムでは、縦組みとか組版機能ばかりが語られるが、大事なのは「責任所在の明確化」や「基本デザインの完成度」にあるように感じる。

DOPを使うことで最少発注ロットを50部にしても何とか採算ラインをキープできるのだが、印刷通販が市民権を得て以降、アナログ印刷でも100部が発注単位として定着してしまったため、デジタル印刷では、それを何としても下回らないといけない苦しい事情も存在する。

アナログ印刷の場合はギャンギングすることでコストをドラスティックに落とせるので、100部のロットを実現できたのだが、デジタル印刷の場合はWeb to Printを活用することで、効率を上げることが出来る。

分かり易く言うと、バリアブルが可能なデジタル印刷では、PPOの仕事を50部、そのすぐ後にまとまったマニュアルの仕事を1,000部、そしてPPO200部、・・・というように、ごった煮的に仕事が入ると効率がガクンと落ちてしまう。同じ50部でもまとまって100事業所分の仕事が入れば、同系統の仕事だったら、ワンJobにまとめてバリアブル印刷した方が効率アップになるということである。
PPO向けに製作ラインをまとまった時間当てられれば効率がアップするわけである。工務的に考えれば機械取りの考え方だ。

これはデジタルもアナログも同じことで、DOPを使うことで印刷通販的に浅く広く集めることが可能で、結果的に2,000~3,000部くらいの仕事量として製作していくことが出来るのだ。PPOに充当する時間が確定すれば、あとはバリアブルでもOne to oneでも、何でもゴザレがデジタル印刷のメリットである。

DOPでこの仕事を始めた時には対象事業社数が100社を切る数だったのが150社、250社と増え、現在では400社、600社を狙えるところにいるらしい。印刷のシステム構築というとコストを絞ることばかりに目が行ってしまうが、このようにPPOが日本ケアサプライの取り扱い事業社アップに繋がるというのはPPOの効果といえる。しかし社数が倍になったとはいえ、売上数字が倍になる訳ではないが、売上額がアップすることは確かだ。

■ネットで構築されたPPOの生産拠点である研文社として、絶対にやらなくてはいけないことは、生産物の品質が一定以上であることはいうまではないが、各事業所に納品日に確実に最終生成物を届けることである。
この命題に取り組むために、研文社ではオンデマンド部という新部署を立ち上げ、入稿からロジスティック部分まで一部門で責任を任せたのである。この一年間ハイブリッド印刷でカタログをやってきたのだが、一回もミスなくやって来られたのは、ワンストップでオンデマンド部が全責任を持つ生産システムが、功を奏したといえる。プラス、先ほどのWeb to Printシステムの中に、各受注先ごとに確実に印刷物が届いているか?確認する機能(トラッキング機能も)も含まれている。

■インキジェットは紙によって滲みやすく、どうしてもシャープな品質は得られずじまいだった(滲まないと今度は乾燥性が悪いし…)。ところが三菱製紙のSWORD iJETが出てきて状況は一変した。紙によって仕上がりが天と地ほど違うのである。SWORD iJETはコート紙なので、品質は良いのだが、コストはその分高くなるのはやむを得ない。そこで新たに探したのがトリートメントした後に高圧をかけて光沢を出したトリ-テッドの非塗工紙であるオランダCVG社のCROWN Digital Silkをテストしたところ、大変良い結果が得られ、価格も安いので、このPPOの仕事はCROWN Digital Silkで行くことに決定したのである。当然、これからもっと良い紙が出てくればどんどん乗り換えていけばよい。

インキジェットの場合、印刷品質が紙とインキに左右され、良い紙が常に良いというわけではないのが難しいところだ。コート紙の場合はもともと滲みにくいので、滲みにくいインキだとかえってマイナスになったりすることもあり、現在のところ材料や目的により用紙を選択している状態である。思い返せば、ドットゲインで悩んでいたオフセットと全く同じ状況である。オフセット印刷も用紙が揃って印刷品質が上がってきた経緯があるが、安くて良い紙が出そろってくるとインキジェットに軍配が上がる可能性も現実のものとなってきた。
インキジェットに合う紙の出現は画期的だ。

■このようにこの日本ケアサプライの事例は、活版がオフセット印刷に変わった時のような、大きな変革を感じさせるものである。最後にデジタル印刷における研文社のポイントを箇条書きにまとめておく。

1.DOP(Web to Printシステム)で、小ロットをまとめて受注し、中ロットくらいの量にして効率をアップ。いわゆる時間的ギャンギングというか、複数JobをワンJobにまとめてバリアブル印刷にするということだ。

2.オンデマンド製品に関しては、従来の工務ではなくワンストップの部署、オンデマンド部を新設して入稿からデリバーまで責任を持つ。

3.オフセットもハイブリッド化して、オンデマンド工場の実現。パウダレスなのでワンフロアでデジタル印刷機もポストプレス機も設置可能。

4.ロットの多いものは、デジタルに固執せず、ハイブリッドでやってしまう。1,500部がボーダー。

5.ビジネスのポイントはロジスティックにあり、研文社はここに早くから注目していたのが大きい。社内体制とDOP(Web to Printシステム)の相乗効果でノーミスを実現。

このような内容を1時間半に収めたセミナーをJGAS会場で開催する。どんな印刷会社にも必ず役に立つ話だと思うので、みなさん是非ご参加ください。

(JAGAT 研究調査部 部長 郡司 秀明)

関連セミナー

50部からの小ロットデジタル印刷を可能にする Web発注-PPOでワンストップサービス-【JGAS2013セミナー】

2013年10月02日(水) 15:00~16:30
東京ビッグサイト 東館(JGAS2013会場内)
参加費:5000円(税込) 

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