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「Web ファースト」とは、Webでの情報発信を先行し、その後に印刷誌面を制作・発行することの総称である。Web ファーストの制作プロセスと効果について、株式会社ハル取締役の橋本鉄也氏に聞いた。
Web ファーストとは、2005年頃から欧米の新聞業界で使われるようになった言葉で、Web版を先行して制作・配信した上で印刷誌面を制作・発行することを指す。現在では、新聞だけでなく、あらゆる紙メディアに共通する考え方になっている。どんな企業や小売店もWeb サイトを構築するようになって、Web を使ったプロモーションが当たり前になった。カタログやマニュアルを制作する企業では、まずWeb で商品情報の整理を行い、そのコンテンツを利用して印刷物を制作することがWebファーストといえる。
Web カタログの構築を先に行うことのメリットは多い。Webはコンテンツ制作から公開までの期間が短く、顧客や営業など現場からの声をフィードバックすることもできる。コンテンツの一元化により、データ流用や、最新情報を集約して印刷することも容易である。また、iPad カタログなど営業ツールの電子化にも、迅速に対応することができる。
Web ファーストを実現するために、まず必要なことは、商品情報のデータベース(DB)化を実現し、Web 上で完全な商品サイトを構築することである。紙媒体の総合カタログの発行は、Web の商品情報DB からのデータ流用によって行い、できるだけ組版を自動化する。Webの商品情報からPDF を生成し、iPad カタログとして使用することも、顧客へ配布することもできる。
総合カタログ制作の際に更新されたデータは、商品DB にフィードバックされる仕組みを作る。それには、社内の関係部門で商品情報をメンテナンスするサイクルを構築することが重要である。
なお、基幹システムや在庫管理システムとプロモーション系のDB とを連携させることは、プロジェクトが大規模で複雑になるため、実際には難しい。Webファーストは、プロモーション系に特化して考えるべきである。
ガーデニング関連商品の製造販売を行っている顧客があった。約3000 アイテム・200 ページのカタログを年1 回印刷し、発行していた。社内用の商品DB を構築して社員がWeb からアクセスできるようにし、商品情報、写真、図面、提案資料などの一元管理を行った。最新情報や営業情報、提案書、撮影写真などがあるため、開発や営業が常に商品DBにアクセスし、業務に使うようになった。そうなると、商品DBの維持管理が逐次行われないと社内クレームとなる。
このようにして商品DB の完成度が上がったために、カタログの制作も自動化することができた。商品DB からCSV を書き出してInDesign に取り込み、半自動組版で処理できた。情報がいつもクリーンで最新だと社員が認識することで、DB 活用できるようになった。
また、営業マンにはiPad が支給されている。当初、営業マンは商品情報などを各自でPDF にしていたため、手間も掛かっていた。そこで、InDesign で商品DB の情報から印刷用のPDFとは別に、iPad 用の商品カタログPDF を生成することにした。商品DB には、公開サイトのURL も含まれており、iPad 用のPDF にURL を埋め込むことで、PDF 上で簡単にWeb ページにリンクすることができる。Web の商品情報の精度を上げ、実際に使えるコンテンツを増やすことで、結果的に印刷物も増えてくる。
(『JAGAT info』2013年8月号より)