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「チーム構想力と分析力」が目標管理の優劣を決める時代 先行企業から学ぶ100%目標達成の目標管理の秘訣 vol.5

掲載日: 2013年10月15日

日本企業の現状を見ると、2000年頃から多くの大企業が「選択と集中」「成果主義」「株主価値の最大化」などの経営手法を導入してきた。一方、社員を育成する余裕が失われ、強みだった社員の忠誠心や団結力、チームワーク、地域社会への貢献などは劣化してしまった。企業内部には数値で計測できる指標があふれ、それらを基に意思決定される風潮が広がってきている。その結果、日本企業には味気ない経営計画過多、コンプライアンス過多という状況に陥ってはいないだろうか?

全員が全力でベクトルを合わせ最優先課題に向かう企業へ
現在の企業間格差は、社員個人の能力格差よりも、組織・チームの運動能力格差によるものといえる。元をたどれば経営トップ層の情報発信力の格差に起因している。したがって、これからの目標管理において社員にどのような能力を伸ばしてほしいかといえば、それはリーダーが一つの目標を明示したら、全員が一丸となってそれに向かって動ける行動力である。
神田通信機株式会社(ジャスダック市場上場・社員約240名)は、今までの固定電話などの通信保守サービスに新たな情報システムサービスをシナジー化させて顧客のソリューション【課題解決】事業で成長を遂げている。同社では急速に変化する顧客や市場のニーズ・ウオンツを現場のラインと本社・本部のスタッフと、部門間にまたがる諸課題に高速かつテンポ良く取り組み、顧客サービスの質とスピードを高めることを狙いに「今までのやらされる目標管理」から「自分たちの現場で役立つ目標管理」へと大きく舵を切り替えている。

現場の構想力と分析力を重視し新たな現場リーダーを育てる仕組みづくりへ
同社での目標管理の展開の歴史は古く、今までは中期経営計画から毎年の事業計画への現場へのブレークダウンに部門長を中核とした標準的な目標管理を展開してきた。期初には各部門の責任者から「部門目標コミットメント発表会」などでチャレンジングな目標が発表され、各現場はリーダーが示した目標に向かって努力をするという目標管理が繰り返されてきた。一定の成果は上がるものの、部門間格差が固定化してきて、「2:6:2の法則」で目標未達の部門や中間層の部門などにマンネリ感や形式主義の弊害が見られるようになってきていた。

今年度に入り、2期目を迎えた経営者から新たな提案が出された。「今までの部門長中心の目標管理ではPDCAマネジメントサイクルの展開方法に固定化が目立ち、新たな市場・顧客・事業創造への大きな期待が持ちにくい。急速に変化し続ける現場の状況判断と行動を優先して現場力を強化するために、各部門の若手リーダー・マネジャーを急いで育てたい。ついては外部の専門家にその仕組みづくり、プログラム開発をお願いしたい」というものであった。

そこで我々外部の専門家と総務人事部門、社内での人材育成委員会や経験者でプロジェクトチームを立ち上げ、今までの目標管理・人材育成・組織編成などの問題・課題を整理して、これからの当社のビジョン・進むべき方向性と求められるリーダー・マネジャー像を再確認・共有化した。この課題解決に向けて、ワイガヤミーティングで今後の当社において求められるリーダー・マネジャー像を徹底的に議論し合った過程で仮説ストーリーを作り上げたことがその後の育成の仕組みづくり、プログラムの展開過程での効果を高める大きな要因につながった。

最重要優先マトリクスで「短期の成果」から最優先課題は「リーダーの行動重視」へ
その後、プロジェクトチームと各部門から約65名の若手リーダーが選抜され、3グループに別れて、3回のワークショップが7月、8月、9月に開催された。今のPDCAマネジメントサイクルの中では、リーダー・マネジャーの役割として「つなぐ役割」が強く求められている。

チーム内のタテ・ヨコ・ナナメや部門間、顧客・市場、およびあらゆる課題をつなぐ役割である。「つなぐこと」は人と人、環境とのダイナミックな関係の中でつくり出される。つなぐ思いが強くないといろいろな関係を強くつなぐことはできない。現在はつなぐ過程にイノベーション(革新)の芽が潜んでいる。組織が競争優位性を高めるには、「つなぐこと」を不断に続ける必要がある。それには組織に動的な関係性が生じる「場」があるかどうかがカギであり、場をつくり出すリーダー・マネジャーが欠かせない。こうしたリーダー・マネジャーに不可欠な能力は①チームの使命・ビジョン・戦略・目標を明示できる能力、②つなぐ場をタイムリーに創る能力、③今の現場・現実・現物をありのままに直観する能力、④直観の本質を物語る能力、⑤物語を実現する行動力、⑥実践知を組織化するコミュニケーション能力である。

そこで同社ではコンサルタントを交えて「今、リーダー、マネジャーとして何を最優先して何に注力すべきなのか」についての認識をワークショップの場で整理して、リーダーのみならず各メンバーと共有する仕組みを考えた。先月号でも説明した「時間管理のマトリクス」を用いて、コミュニケーションの3層の強化策、具体策を考え抜いた。このマトリクスは、本来、時間をかけてやるべき最重要優先業務とは何か、今どんな業務に時間をとられているのか、コミュニケーション能力(聴くチカラと伝えるチカラ)の重要性を各自に気づかせてくれる貴重なものである。

リーダーは月次から週次で『達成感重視のマネジメント』を実現し目標達成する仕組み
つなぐ役割を重要視する各部門のリーダー達はこの時間管理のマトリクスを今までの月次管理から週次管理に活用し始め、結果管理からリーダーとして求められる行動管理に焦点を絞り、目標達成率を向上させている。
特に顕著なのは制御照明事業部の部門である。開発グループと営業グループのつながり方、ほかの事業部・地方支店とのつながり方、なかでもお客様の課題・問題とのつながり方が今までよりも深く、テンポ良く、スピードが上がってきた。具体的な成果も、ホテル・旅館業界、新築の物件や病院・大学関係など、新しいお客様とつながるコンサルティングサービスへの創意と工夫の事例が素早く関係者で共有化されて、顧客サービスの実行力は着実に高まり始めている。

やはり若い人材を育てるには研修だけでなく、「質の高い経験」が重要だ。行動経験なくして新たな関係性はつくれない。固定的な「制度人事」を超えて、機動的な「個別人事」を行い、適時適切な人材配置によって、実践のただ中でリーダーを育成する、もっと若手社員に権限を与えて任せること、修羅場や小さな失敗の経験を積ませることが必要だ。今、日本企業に求められているのは、構想力と分析力に溢れ、新たな発想・行動がとれる新たな人材なのである。 
                                                                       現代マネジメント研究会 小松勝

                  

小松 勝 株式会社エムデーシー取締役 
(現代マネジメント研究会 経営人事エキスパートコンサルタント)


都市銀行から信用金庫に至る金融機関、製造業全般、百貨店・専門店などの小売業から出版社、病院、私立大学、生協関係、広告代理業とあらゆる業種・業態の人事考課制度から賃金制度、目標管理制度を中心とする企業改革、個人のキャリア開発の支援に従事。 ◆主な著書:『日本型経営システムの構造転換』(中央大学出版部)、『担当者が独力でできるこれからの賃金・人事考課・退職金制度』(政経研究所)『業種別・職種別人事考課表実例集』(日本法令)など。

 

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「新しい目標管理」が企業の競争力を強化する」

先行企業から学ぶ100%目標達成の目標管理の秘訣vol.2
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先行企業から学ぶ100%目標達成の目標管理の秘訣vol.4
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