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日本的経営とCSR シリーズ『印刷白書2013』

掲載日: 2013年11月06日

「利害関係者との調和」を重視する日本的経営とCSRの親和性は高い。地域密着型の中小印刷業界では特にCSRへの取組みが重要性をもつ。

日本におけるCSR(企業の社会的責任)元年は、相次ぐ企業の不祥事によって、コンプライアンス(法令遵守)、アカウンタビリティー(説明責任)、ディスクロージャー(情報開示)などの言葉が一般化しつつあった2003年といわれている。

「会社は誰のものか」といえば、経営者を含む従業員、株主、仕入先、顧客、地域社会、さらに地球環境を含めたステークホルダーすべてのものである。また、利害関係の有無にかかわらず、誰かに何らかの不利益を与えて不満をもたれること自体が、経営上のリスクになる。
それゆえ日本的経営では、「従業員を大事にして士気の高揚を図り、公平な利益配分を行い、長期的な研究開発への投資を優先し、剰余分を配当に回す。事業を通じて金を稼ぎ、その金を使って何らかの形で公益に貢献する」という好循環を維持することを最優先してきた。
日本企業が特に重視してきたのは「利害関係者との調和」である。その基本には、近江商人の「三方よし」以来の伝統がある。商行為の基礎に社会の一員としての役割を強調する「売り手よし、買い手よし、世間よし」の精神は、利害関係が複雑になっている現代だからこそ、より重要性を増している。
「利害関係者との調和」を重視する日本的経営とCSRの親和性は高く、環境対応を機軸に取り組みを開示する企業が増え、印刷業界でも環境対応製品や社会貢献が多くの実績を上げている。

地域密着型の中小印刷業界においては特にCSRへの取り組みが重要性をもつとの認識から、全日本印刷工業組合連合会(全印工連) が、2012年度にCSR推進専門委員会を新設し、CSRの普及・啓発活動を開始した。2013年6月25日にCSR認定制度による第1期ワンスター認定企業として40社を認定、9月26日には第2期となる20社を認定し、計60社が認定企業となった。
全印工連は、小規模企業にも取り組みやすいようにCSRを体系的にまとめたガイドライン(①コンプライアンス、②環境、③情報セキュリティ、④品質、⑤雇用・労働安全、⑥財務・業績、⑦社会貢献・地域志向、⑧情報開示・コミュニケーションという8つの領域に分けられる)の各項目において、必要とされる取り組みをチェックリスト形式で列挙している。

これまで上場印刷企業の取り組みが先行していたが、今後は中小印刷企業への広がりも期待される。もちろん、企業の究極の目的は利益を上げ社会に貢献すること、そして存続することに尽きる。製品・サービスを社会に提供し、適正な利益を生み出し、税金などの形で社会に還元していくことが、基本的なCSRの実践になるだろう。
東日本大震災では、多額の寄付を行うと発表する企業が話題となった。企業単位、地域単位、また個人でも何かできないかと立ち上がる動きが目立った。社会貢献が当たり前のこととして社会に根づき始めている。会社の利益は、株主への還元、社員への還元、会社の持ち分と配分されるのが一般的だが、これからは地域や社会への還元も、今まで以上に配慮されることになるだろう。
例えば、毎年利益の一定の割合を寄付すること、ボランティア休暇の奨励などが、当たり前のものになっていくかもしれない。

JAGAT CS1部 吉村マチ子
 

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『印刷白書2013』では「印刷産業の経営課題」として、ドメインから印刷通販、知的財産権、差別化戦略、人材など、様々な課題を取り上げています。コラムでは、韓国クロスメディア、CSR、環境、コミュニケーションなどをまとめています。ぜひご一読ください。
 

 

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