本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
・今日が2014年の仕事始めという企業が多いと思いますが、今年一年のなすべきことを述べてみます。6年後の東京オリンピック/パラリンピック開催に向かって首都圏には明るい話題もあり、民間の調査機関によるとインフラ整備も含めると20兆円の経済効果があるとされていますが、消費増税や円安による資材価格への影響など不安定な課題も多くあります。発注者も印刷会社も未曾有の大変化に自社がどう対応していくか悩みは尽きませんが、景気変動だけでなく少子化・高齢化、IT(情報技術)の進歩が自社に及ぼす影響、メディアの特性(紙、電子)と取り組みなど、印刷会社には取り組むべきさまざまな課題があるでしょう。
・しかし印刷会社が行くべき方向は見えていて、商業印刷では単なる印刷物製造業から脱しコミュニケーション支援企業へと事業ドメインを再定義すること、自社で生産し提供している印刷物やクロスメディアサービスに、どのような役割を持たせどのような結果を出させるのかを発注者に語り、実際に提供することあります。出版印刷物については各出版社の意向に沿った商品作りが、パッケージなど素材系印刷物についても発注者に要望に合わせた物作りが求められます。物流に欠かせないシール・ラベルには安全・安心などを担うための機能がさらに求められるでしょう。ITによるきめ細かな顧客対応を武器にしたワンストップサービス展開や、印刷が今まで培ってきた色や製本の技術を生かしたフォトビジネス分野への展開など、印刷会社には多様な生存分野が存在します。
・何でも印刷しますと言って専門化していない印刷会社が未だありますが、これでは顧客へのサービスも焦点が絞れないために、設備投資や人材投資もマーケット志向にならないことになります。顧客が求める製品やサービスも提供できないし、激しい価格競争にも勝てないことになるでしょう。中小の印刷会社にとって専門分野を持つことは容易なことではないかもしれませんが、経営者がそうした意識を持つこと、小さなものも大きなものもあって良いので、No.1ビジネスをいくつでも積み重ねることによって、顧客にとって代えがたい取引先と見なされ、新しい顧客接点の展開が広がってくるのです。
・好業績の印刷会社には必ずNo.1ビジネスがあります。中小印刷会社が経営を強くするには自社の競走力を明確にし、磨いて磨いてその分野でNo.1を育てる努力を行なっています。No.1ビジネスとは努力に努力を重ねて作り上げた自社の生存分野のことを言っています。国内には420万社の企業があるとされていて、そのすべてが印刷会社のお客様でしょうが、提供されている印刷物やサービスに満足しているかどうかは分かりません。ここにNO.1戦略の品目が提案できればビジネスチャンスが拡大するのです。刻々と変る環境変化に適応する努力を惜しまずに、No.1の分野を創ることが重要で、日本でのNo.1でなくてもよく、地域でNo.1、ある分野でNo.1、ある顧客の特定の仕事でNo.1で良いのです。環境変化に適応する企業努力を積み重ねる企業風土を醸成して、社内でさまざまなNo.1戦略を生み出す下地つくりが経営者の役割でしょう。そうでない下請け的な仕事も当然あるでしょうが、収益力のあるビジネスになっていないと担当者も現場も下請け体質になり、そこから抜けられなくなります。
・印刷技術やデジタルメディアは限りなく多品種になっていますが、そこにソリューションを組合せれば多様性(ダイバシティ)は一層広がることになります。技術や製品が多様になれば、印刷会社も多様になり専門性の中で棲み分けできるのです。 一般の製造業と異なり印刷会社には多様な顧客と提供品目があるので、会社の皆が努力することによって小さくても良いので、いくつものNo.1戦略を立てることができるはずです。一つ一つは小さくても良いのでコツコツとたくさんにNo.1戦略を遂行することで自社の生存分野が明確になるでしょう。当然、NO.1戦略は印刷会社により異なります。No.1のビジネスは顧客から見てもパートナーと映っているはずです。そして、芽が出たNo.1ビジネスを大き大きく育てていくことが大事です。
・自社の競争力を理解していない印刷企業もあります。自社は顧客にどのように評価されていて、なぜ、指名発注してもらえるのか。逆になぜ、他社が指名発注を受けるのか。NO.1戦略を進めるには差別化による競争力が重要です。自社は競合他社と何が違うのか。どこが優れているのか。その強みに永続性はあるのかを分析し、自問自答することも大切です。顧客の笑顔が続くようなビジネスの好循環など、ユニークな優位性を一つでも多く所有して事業のアイデンティティを確立すべきで、そのようなところに経営資源を集中的に投入していくことを心がけてください。
・既存の競争のルールを守っている限り、競争要因は変わりません。市場の常識を覆すルールによるビジネスモデルを構築することで競争要因が変わるのです。NO.1戦略を積み重ねることによって、ルールキーパー(ルールを守るだけの企業)から、ルールメーカー(新しいルールを作り、市場を創造できる企業)になれることを目指してください。そのためには、常識を疑う習慣を養ってみるのも一つの方法です。競争力の強化がポイントで、「このような前例はありません」「競合他社もやっていますので」という理由が、戦略決定の決め手になっていては利益を確保する機会を失い、市場での存在感も得られずに細く短くという運命をたどることになります。
・競争力の要素としてCSR(企業の社会的責任)を忘れてはなりません。環境問題、コンプライアンス、社会文化貢献活動など社会との関わりは日に日に増えています。一人一人の社員や企業は、社会に活かされてこそ初めて競争のスタート台に立てるのだという意識を持つことが、これからますます大切になります。
・最後に印刷会社の利益に直結する印刷物生産におけるミス・ロスの低減についてとデジタル印刷機について触れましょう。オフセット印刷機やインキ、用紙、資材などの資機材は印刷業界運動として取り組んだ活版からオフセットへの大転換から40年の歴史の中でメーカーの努力により成熟化し安定化してきました。しかし、インキと水を使うオフセット印刷の原理は変わっていないため、印刷技術はスキルフルなのです。「検査装置を導入し、改めて今年は印刷の基礎・基本を全社で見直し会社の土台を強くする」(JAGAT会員)という声があるように、苦労してソリューション提案で得た利益が印刷の刷り直しで消えてしまっては元も子もありません。そしてデジタル印刷機については、生産機にできるような機種が揃ってきました。しかし、機械もインクも用紙もまだまだ発展途上です。40年前に未熟な資機材で苦労したオフセット印刷技術の歴史を、デジタル印刷機も繰り返していると理解してください。今の完成したオフセット印刷機と異なり、似たようなスペックのデジタル印刷機であっても機能や性能は大きく違うということを前提にして、検討や導入をされるようにしてください。
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JAGATは印刷業界唯一のシンクタンクとして、未来を示す「情報」・企業価値を創造する「教育プログラム」・コレボレーションの「場」の提供という3つの機能により広く皆様に役立つように努めてまいります。2014年2月5~7日に東京・池袋で開催するpage2014はこの3つの機能の総合イベントです。また、初めての試みとして前日2月4日17:30からはJAGAT会員限定イベントも企画しています。多数の皆様のご来場をお待ちいたします。