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印刷業の経営では、売上だけを追いかけていれば利益が読めるということはない。収益状況を見える化(共有)するためにはどのような管理がよいのだろうか。
経営分析で利用されることの多い損益分岐点分析とは、原価を固定費と変動費に分解し、売上高をどのくらい上げれば、もしくは商品を何個販売すれば利益を獲得できるのかを、原価(Cost)、売上高(Volume)、利益(Profi t)の関係から分析するものである。それぞれの頭文字を取ってCVP分析ともいう。損益分岐点の売上高とは、損失も利益もでないときの売上高のことである。
ここまでは、よく目にする話しであるが、実は損益分岐点分析が成立するには以下の5 つの前提条件が必要である(図1)。
(1)費用が正確に固定費と変動費に分けられること
(2)固定費が一定である。つまり販売量に左右されないこと
(3)変動費は販売量に比例していること
(4)製品価格が一定であること
(5)複数製品の場合、販売量または売上高の構成比が一定であること
これらの前提条件を印刷業に当てはめたときに、(1)と(2)については大体当てはまりそうである。問題は(3)(4)(5)の条件である。まず、変動費と販売量が比例するかどうかであるが、用紙の品種/銘柄で単価が異なるし、用紙は重量単価なので、厚さによっても1 枚当たりの単価は異なる。また、インキ代にしても絵柄の重さや特色の有無、さらには社内でできない製本加工や特殊加工の有無などにも大きく左右される。そして、外注利用は繁忙期と閑散期でも差がでる。
次に製品価格が一定であることであるが、競合との兼ね合いもあるし、その前に積算見積もりの標準化もできているとは言い難い(同じ仕様の印刷物でも担当者によって積算結果が同じにならない)。さらに、事前の積算条件と実際の仕事の内容が変わってしまうことも少なくない。また、設備の稼働率を確保するために値段を下げてでも仕事を取りにいかざるを得ない場面もあるだろう。(5)については、個別受注生産の印刷業(一部例外もあるだろうが)では、そもそも成立しない。
こうしてみると、印刷業の経営は勘と経験に頼らざるを得ないのではないかとさえ思えてくる。少なくとも売り上げだけを追いかけていれば利益が読めるということはない。競争環境が厳しくなってくると余計にシビアな管理が求められる。
では、どのようにするかといったときに、ひとつは加工高(=売り上げ-材料費-外注加工費)での判断がある。
加工高と固定費を比較して損益判断を行うというものであるが、加工高と固定費を比較して、加工高が固定費を上回れば黒字で下回れば赤字となる。売り上げだけでなく月次の加工高目標を設定して、日々の加工高を積み上げて管理をしている印刷会社の例もある(図2)。
教育コンサルティング 花房 賢
(『JAGAT info』2013年12月号より)
関連情報
印刷業のための利益管理システムのご紹介
http://www.jagat.jp/content/view/964/352/