本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
森裕司のデジタル未来塾(18)
Adobe CCへのバージョンアップでは、64-bit対応以外に目玉と呼べる新機能が見当たらないInDesign だが、EPUB 書き出しに関する機能は着実に進化している。そもそもInDesignは、バージョンCS3からEPUB書き出しが可能だった。当時はほとんど知られることのない機能で、機能名もEPUBではなく、Digital Editions 用へ書き出す機能となっていた。
この機能が脚光を浴びたのが、2010年1 月にiPad が発売されてからだ。iPadの登場により、にわかに電子書籍が話題となり、これに伴いInDesignのEPUB書き出しも注目を浴びるようになった。とはいっても、その頃のInDesign はバージョンCS4。まだまだEPUB書き出しの機能も弱く、きちんとしたEPUBを作成するにはかなり手間が掛かった。
それが今ではバージョンもCC となり、EPUB 書き出し機能もかなり向上している。特にCS5.5からは、アドビもEPUB書き出しの機能強化に力を入れており、PhotoshopやIllustrator にはCS5.5が存在しないにもかかわらず、InDesignのみCS5.5がリリースされた。このバージョンは、ほぼEPUB関連の機能強化のみともいえるバージョンで、アドビもかなりEPUBに力を入れているのがうかがえる。
InDesign CC のEPUB 書き出しでは、目次ストーリーや索引ストーリー、さらにはオブジェクトスタイルもサポートされた。細かな改善点も多く見られ、オーバーライドクラスに用途を反映する名前が付けられるようになり、さらに任意のスタイルのみ、CSSに含めない設定も可能だ。また、iBooks Reader のフォント埋め込みにも対応し、指定したフォントでEPUBを表示させることが可能となった。すでに実現している機能と合わせ、ずいぶんと高機能になってきているのが分かる。まだ試したことのない方は、ぜひ一度試していただきたいと思う。できればできるだけ新しいバージョンでの作業がお勧めだ。
実際の作業では、InDesign で作成したドキュメントから、ただ単にEPUBを書き出せばそれで終わりというわけではない。きちんとしたEPUBを書き出せるようInDesign 上で行っておくべき作業や注意しなければならないポイントは多々ある。ここでは、作業の流れを簡単に解説しておこう。
InDesign からEPUB を書き出す上でもっとも重要なのは、『構造化』だ。ドキュメント内のすべてのテキストに対して、「ここは大見出し」「ここは小見出し」といったように、きちんと意味付けをする必要がある。これができていないと、あとあとの作業が大変なものとなり、EPUB のコントロールも難しくなる。EPUB 書き出しを想定した場合に、もっとも重要な作業といえる。
次に重要なのが『構造化』したテキストに対して、きちんと目的に合ったスタイルを適用しておくということ。ドキュメント内のすべてのテキストに対して、もれなく段落スタイルを適用しておこう。この作業は、EPUB を作成する場合に限った話ではない。印刷物制作においても重要なポイントなので、必ず行っておこう。そして各スタイルに対して、タグやクラスの指定を行う。例えば大見出しであれば「h1」、本文であれば「p」といったようにダイアログのポップアップメニューから指定できる。もちろん、任意のタグを直接入力してもかまわない。この作業を行うことで、各スタイルはそれぞれCSS ファイルに書き出されるため、EPUB 書き出し後にCSS を編集してEPUBの見栄えを調整しやすくなるのだ。
また、圏点や縦中横といった機能にも注意が必要。これらの機能を使用している場合には、必ず文字スタイルとして設定を行っておく。つまり、段落内で部分的に書式が異なる場合には、必ず文字スタイルとして登録し、「span」や「em」「strong」といったタグ、およびクラスを指定する必要があるのだ。ただし、ルビは文字スタイルを設定しなくても大丈夫だ。そのままEPUBに反映させることができるが、複数の親文字に対してモノルビを設定している場合は注意が必要。ルビの区切り文字として使用したスペースも書き出されてしまうからだ。グループルビ、あるいは一文字単位でモノルビをふるなどして対処しよう。
(『JAGAT info 』 2013年9月号より 一部抜粋。※記載情報は誌面掲載当時のものです。)
森 裕司[もり・ゆうじ]
名古屋で活動するフリーランスのデザイナー。
ウェブサイト「InDesignの勉強部屋」(http://study-room.info/id/ )や、名古屋で活動するDTP 関連のデザイナーやオペレーターなどを対象にスキルアップや交流を目的とした勉強会・懇親会を行う「DTPの勉強部屋」を主催。DTP やInDesign に関する著書も多数。アドビの『AdobeInDesign CS4 入門ガイドBack to Basic』の執筆も担当している。