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Illustratorの使い方を考える

掲載日: 2014年05月07日

森裕司のデジタル未来塾(19)

さまざまな使われ方をしているIllustrator

DTPを行う上で欠かせないアプリの一つがAdobe Illustrator だ。基本的には、ペンツールなどを用いて、イラストや図などベクトルオブジェクトを描画するツールなのだが、デザイナーの手にしっくりと馴染むツールであったことから、日本ではDTPにおける中心的な役割を担っている。

欧米では、印刷物を制作する際のパーツを作成するアプリとして使われており、作成したパーツをInDesignなどのレイアウトソフトに配置して仕上げるといった使い方が一般的である。しかし、日本では何でもかんでもIllustrator で仕上げてしまう人も多く、作業者によってさまざまな使われ方をしているアプリでもある(本来、ページ物をIllustrator で組むのはあまり好ましくない)。今回は、Illustrator を快適に使いこなすために覚えておいてほしい幾つかのことを取り上げてみたい。

Illustrator を使いこなす

Illustrator もCC で17 番目のバージョンとなり、さまざまな機能が追加されてきた。例えばバージョン9 では内部的な処理をPostScript からPDFに変更したことで、『透明』機能が使えるようになり、さらにCS ではテキストエンジンもまったく新しく作り変えられた。また、CS4では一つのドキュメント内に複数のアートボードを作成できるようになったり、CS5では原点が左下から左上に変更されたりと、使い勝手の改善はもちろん、以前では手間の掛かっていた作業もバージョンが上がるごとに効率的に作業できるようになってきている。

ただ、新機能を使うことでこれまでよりも効率的に作業できるはずなのだが、意外と新機能を使っていないユーザーが多いのも事実。この傾向は、特に古くから使用しているユーザーに多く見受けられる。ついついこれまでの慣れた使い方で操作してしまうからだと思うが、積極的に新しい機能を覚えていかないと宝の持ち腐れだ。使ってほしい機能はたくさんあるが、ここでは「アピアランス」「グラフィックスタイル」「段落スタイル」の3 つについて紹介しておきたい。

まずは「アピアランス」。「アピアランス」はバージョン9 から搭載されている機能で、塗りや線、効果といったオブジェクトの外観に関する設定を、[アピアランス]パネルを用いて行う。基本的な使い方としてよく取り上げられるのはフチ文字だ。フチ文字を実現する場合、以前であればテキストオブジェクトを重ねて実現していたが、テキストに修正が入ると、重ねたオブジェクトも修正しなくてはならず手間が掛かっていた。アピアランスを使用すれば、1 つのオブジェクトに複数の塗りや線を追加できるため、テキストは1つでOK だ。もちろん修正も一度で済む。さらに、アピアランスを使いこなせば、伸縮する囲み文字や編集可能な矢印や吹き出しなんかも作成できる。

細かな手順はとてもページ内では説明しきれないので、Webなどの情報を確認して欲しいが、使い方を覚えれば操作に関する世界観が変わるはずだ。次は「グラフィックスタイル」。グラフィックスタイルとは、アピアランス属性をスタイルとして登録しておくことで、ほかのオブジェクトにも同じ属性を素早く適用できる機能だ。

ただ単に同じ見栄えのオブジェクトを作成するケースだけでなく、option(Windowsはalt)キーを押しながらグラフィックスタイルをクリックすれば、オブジェクトにそのスタイル属性を追加するといった使い方もできる。例えば異なるカラーの複数のオブジェクトに同じ値の角丸の効果をワンクリックで適用するといったことができるため、オブジェクトの属性を素早くコントロールできる。使わなければ、かなり作業時間をロスしているといっても過言ではない機能だ。アピアランスと併せて使用すれば、かなり高度な運用も可能だ。

最後は「段落スタイル」。テキストの書式属性をスタイルとして登録することで、同じ書式を素早くほかのテキストにも適用できる機能。さらに、書式を修正しなければならなくなった場合でも、スタイルの内容を変更さえすれば、そのスタイルが適用された複数のテキストの書式を一瞬で修正できる。テキストのコントロールには必須ともいえる機能だ。ほかにも使って欲しい機能はたくさんあるが、今回紹介した機能は特に使って欲しい機能だ。筆者はセミナーで全国を回ることが多いが、その時に聞いてみると、これらの機能を使いこなしているユーザーが本当に少ないのにビックリする。作業効率が劇的に改善されるので、ぜひとも使っていただきたい。

(『JAGAT info 』 2013年10月号より 一部抜粋。※記載情報は誌面掲載当時のものです。)


森 裕司[もり・ゆうじ]

名古屋で活動するフリーランスのデザイナー。
ウェブサイト「InDesignの勉強部屋」(http://study-room.info/id/ )や、名古屋で活動するDTP 関連のデザイナーやオペレーターなどを対象にスキルアップや交流を目的とした勉強会・懇親会を行う「DTPの勉強部屋」を主催。DTP やInDesign に関する著書も多数。アドビの『AdobeInDesign CS4 入門ガイドBack to Basic』の執筆も担当している。

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