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最近3Dプリンターという言葉が脚光を浴び、プリンターと聞くと反射的に血が騒いでしまう印刷業界から熱い視線が注がれている。とはいえ、3Dプリンタービジネスは3Dプリンターを買って口を開けているだけでは、仕事を集めることもできないし、実際の出力ができるわけでもない。そこは根源的な問題なのである。
「3Dデータ作成や修正ができて何ぼ」ということがいえるのだが、3D CG はオペレーションだけの習熟を考えても、相当に大変なことである。しかしその反面3D CG を習熟してしまえば、差別化は容易なのでビジネス上の大きなアドバンテージとなり得るのも確かである。
そのような中、印刷業界にとっての3Dプリンタービジネスを考えると、フォトブックの延長線上でフィギュア作成や3D POP類の作成がメインになるのではないか?と考えるのは自然な思考だ。その際に活躍するのが3Dスキャナーである。LEDを使用したものもあるが、レーザーを使用してスキャニングする3Dレーザースキャナーが現在のところは一般的である。
どのようなものかというと、意外なところでTV にも登場するなどしている。刑事モノ、それも鑑識や科捜研が出てくる刑事ドラマで死体をスキャニングしているのが3Dスキャナーなのである。これでアイドルなどをスキャニングしてフィギュアを作成することが、オタクやオタク予備軍を相手にしたビジネスとして、広く認知されている。
私の知り合いのアメリカ人で、日本の現地法人の社長を長いこと務めていたのだが、米国に帰ることになり、侍の格好のコスプレをして3Dレーザースキャニングし、侍のコスプレ姿のフィギュアをプレゼントしたところ大変喜ばれたということがあった。こんなビジネスは立派な実業であり、現実的なのである。
また印刷業界にとって3D CG ではなく、スキャニングというだけで自分でもやれる気持ちになってしまうのは自然な感情である。このようにプリプレス経験のある印刷会社にとって、スキャニングへの抵抗感は驚くほど低いので、3Dレーザースキャナーで作った3Dデータ出力は気持ちの点だけでもハードルは低い。
3Dレーザースキャナーは、レーザーによる計測対象物とセンサーの間をレーザーパルスが往復する時間を計測することで距離を計測し、同時にレーザービームを発射した方向を計測することで、計測対象点の三次元座標を取得する仕組みになっている。測定原理は、レーザーが測定対象物で反射して帰ってくるまでの時間から距離を算出し、またレーザーの移動方向角度から角度を算出し、この距離・角度情報から三次元位置情報を求める「Time of flight方式」と、数種類のレーザー波長の「位相差(干渉波)」で計測距離を算出する「フェーズシフト方式」のものがある。
測定データから付属の三次元作成ソフトを介して、3D CADデータを作成するのだが、このときにテクスチャー(表層= 表面の皮膚)の微妙な質感表現などでノウハウの差が出るというものである。世界的に3D プリンターがブームになって3 年くらいが経過し、一般的なプリンター同様に廉価版が登場したことにより、これまで一部の大企業や金型のノウハウを有している専門企業に独占されていたものづくりのプロセスをコンシューマにまで解放し、製造業に革命をもたらすといわれている。
しかし、実際には3Dプリンターだけで云々することはできないのは、前述したとおりである。専門知識を持たない素人が3Dプリンターでものづくりを行おうと思ったら、従来は三次元の設計データが公開されているサイトから、データをダウンロードしてプリントアウトするくらいが関の山であった。現在でもネットで探せば3人組の女性グループPerfumeの3Dデータなどが簡単に見つけられるはずだ。
データ作成が個人でもできること、つまり素人でも簡単に使えるレベルの3D設計ツール(ソフトウェアなど)が普及することや、既存のモノから三次元設計データを複製する3Dスキャナーが一般化することが3Dプリンターの普及には必要なのである。3Dスキャナーによって、一般個人でも容易にものづくりを行えるようになる可能性がある反面、モノの知的財産権の侵害の恐れも出てくる。
3Dスキャナーがあれば三次元設計データを簡単に作れるようになるので、アニメのフィギュアやアクセサリー、自動車や家電製品のスペアーパーツなどの三次元設計データが作成され、ネットを介して世界中に出回るかもしれない。そうなると、音楽や映像コンテンツの違法コピーの氾濫がコンテンツ市場へ影響を及ぼしたように、ものづくりの現場でも同じことが起こらないとは言い切れないのである。
(『JAGAT info』2014年3月号より)