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PAGE2009コンファレンスE3セッション「ハンドメイド/オーダーメイドによるJDF対応」ではユーザーの視点からJDF導入の課題を問題提起するとともに自社開発でJDF対応を行った先進事例を紹介した。
仙台市に本社を置く中堅印刷会社の株式会社ユーメディアの三浦進氏からは、独自開発のMISとJDFの接点、JDF導入の課題についてお話いただいた。
ユーメディアでは、1989年に基幹システム'Kon太'の運用を開始した。Kon太システムは工程管理、営業支援(見積り積算、売上計画、実績集計)、販売管理、購買管理(外注・資材)などの機能を備えた統合システムとなっている。特色として、はじめに見積りありきのシステムで見積りから請求までワークフローに即したシステムである。仕様設計を自社で行い、社内に保守要員もいるので機能拡張や操作性の向上など進化を続けている。また、外部システムとのインターフェイスが容易に取れプリプレスの生産管理システム等との連携を行っている。
また、各拠点間はインターネットVPNで結ばれ、顧客情報の共有などイントラネットの仕組みも構築している。
1999年に品質ISO認証を取得したのを皮切りに環境ISO認証、プライバシーマークなど各種マネジメントシステムの認証を取得している。導入当初は作業の標準化が図れ、業務改善にも大きな効果が得られたが、継続するにつれマンネリ化し形骸化するという弊害がでてきたため、ISO認証は返上し、身軽な独自のマネジメントシステムへ変換している。
受注環境が厳しさをますなかで営業支援部という新しい組織を設立している。利益よりも売上を追求しがちな営業をサポートし、利益を残せる企業体質にしていくこと、印刷物の仕様設計、製造設計のプロとして全社コントロールタワーとしての機能をもつこと、マーケティング志向の営業体制への転換を目指すといったことが設立目的である。
また、JDFの導入効果として挙げられている進捗管理、実績管理、原価管理についての現状の基幹システムの対応を以下に記す。
進捗管理
基幹システムから各工程別に予定表を出力している。リアルタイムの進捗把握についてはアナログ的なコミュニケーションで対応している。
実績管理
作業終了後、基幹システムに対し完了登録をする。さらに別建てで日報入力し実績値を生産指数として管理している。
原価管理
月次の部門損益管理を実施しているが、物件毎の原価管理までは行っていない。
以上が当初の状況である。そのうえでJDF導入の課題について整理してみた。
全体最適というJDFのコンセプトに異論はないが、会社にとって儲かる仕組みとならなければ導入には至らない。JDF導入の課題を以下に挙げる。
製造の効率化/自動化について
作業指示のデジタル化について
独自開発のMISとの融合について
このようなことからJDF導入の費用対効果が見えないというのが現状の正直なところである。
一方で、JDF導入のメリットとしては次のようなものがある。
これまでは自社の環境が整わないこともあり、JDF導入に関しては「食わず嫌い」の面もあったが、今後、将来をにらんだMIS再構築にあたり、効果の出るところから部分的にでも導入していきたい。投資効果を得ながら進化させていくことが重要だと考えている。
東京都東大和市に本社を置く株式会社ニシカワはオフ輪を主体とした商業印刷を中心とする印刷会社である。同社の兼田克史氏からは、自社開発のJDFツール「JDFコンバーター」の開発経緯と機能についてお話いただいた。
ニシカワグループは、グループ会社の統括と販売および企画・制作を行う(株)ニシカワ、オフ輪印刷の西川印刷(株)と関東印刷(株)の体制で、9台のB縦半裁と新たに導入したA縦全判の計10台のオフ輪が稼動している。
当社の基幹業務システムは、オフコンのシステムを2000年問題対応でクライアントサーバ方式のシステムに移行し現在に至っている。
業務システムの機能概要は次のようなものである。
営業部門:見積り作成、受注入力、与信管理、売上・原価確定
業務部門:印刷予定組み、作業指示、外注発注
生産部門:実績入力
管理部門:入金、支払入力
またサブシステムとして以下のようなものがある。
・TCM(Task and Cost Management
Sysetem)
制作部門の管理システム。作業実績入力、分解指示、出力依頼
・プロレコ(印刷機稼動記録計)
作業日報や稼動実績を入出力
・Nweb(イントラネット)
全社の情報伝達・共有を行う。売上情報、顧客情報の照会、工場稼動予定の照会など
・JDF_Converter(JDF生成ソフト)
進行部門:業務システムと連動し、製版処理に必要となる指示を入出力
刷版部門:業務システムと連動し、CTP出力に必要となる指示を入出力
いずれのサブシステムと業務システムと連携している。
2007年12月に竣工した西川印刷の笹井プラントは、拠点統合による生産性向上と高付加価値化を狙ったもので、「ニシカワグループの戦略的拠点」として位置づけられている。そのため従来のワークフローではなく、次世代の戦略拠点に相応しい新しいワークフローを実現することが大命題であった。そこで、これから主流になるであろうJDFに着目した。
JDFを研究していく過程で「グループ内の各拠点はもとより、お客様や協力印刷会社、協力外注会社などとの印刷ワークフローをシームレスにつなぎ合わせる為のツールとして使用できるのでは?」という考えに至り、採用に向けて以下の課題を抽出した。
(1)基幹業務システムと生産現場の連携
JDFのジョブチケット作成には基幹業務システムの情報に生産現場で必要となる情報を追加する必要がある。ワークフローのどのタイミングでジョブチケットを発行するか検討した結果、デジタルデータが最初に処理されるプリプレス工程が適当であると判断し、そのタイミングで業務システムの情報を取り込む必要があった。
(2)工程管理の一極集中化
各拠点(本社・新宿事業所)及び外部(協力外注・お客様)からの入出稿や生産2拠点のCTP稼動を含めた工程管理を一極集中で管理したい。拠点ごとの独立システムではなく共通の仕組みが必要。
今後予定される印刷工程や加工工程との連動(作業指示や稼動実績収集)を考慮すると、まずはCTP環境がJDF対応となることが必然。
上記の課題をクリアするためには次のような処置が必要となった。
(1)基幹業務システムの情報を吸い上げ、JDF化する仕組み
(2)生産機器(CTP)への作業指示(主として製版パラメーター)をJDF化する仕組み
(3)JDFに対応した生産機器の導入
(1)と(2)の対応には、基幹業務システムをJDF対応するという選択肢もあったが、現行機能および開発力では限界(関連する機器との整合性やバージョンアップ対応など)があり、費用対効果が見込めないと判断した。
また、現場特有のルールやCTPの設定なども情報として取り込む必要性があった為にシステムとして使い勝手が悪くなる危険性があった。そこで、自社独自でJDFツール(JDF
Converter)を開発することとなった。
(3)のJDF対応機器として、AGFA社のWeb対応プリプレスワークフローシステム「:APOGEE Portal」を導入した。
:APOGEE
Portalの採用理由は次のようなものである。
・Webサーバ型プロダクション管理機能
-インターネット環境からデータの入稿や進捗状況の把握ができる
-各データに対するプリフライト結果の通知や網点プルーフ(画面)の校正が可能
-RIP処理済みのハードプルーフ用PDFの提供ができる
・各拠点で運用している:ApogeeX(RIPシステム)の一括管理機能
-:APOGEE
Portalの自動リンク機能で各拠点にある:ApogeeXのリモートオペレーションが可能
-処理内容を指示することでCTP出力の自動処理が可能
-エラー発生時にはメッセージを:ApogeeXから自動取得して通知されるため状況把握が容易に行える。
・JDFベースで各機能やプロダクション指示が可能
-:APOGEE
Portalへのジョブ登録や処理内容の指示をJDFで一括処理できる。
-変更内容や再処理などもJDFによる指示で対応可能
-面付け指示や複雑なCTP内部処理のワークフロー設定も外部からJDFで指示可能
自社開発したJDF
Converterの機能は次のようなものである。
(1)データベース機能
基幹システムにある受注情報を自動取得し独自にデータベース化
すでに発行したJDF(発行済み)情報もデータベース化
(2)製版、刷版出力指示
JDF内に詳細な出力指示を含めることが可能(線数、網角、オーバープリントなど)
(3)面付け処理
既存面付けソフトで生成したテンプレート情報を取得、JDF内に指示
(4)製品仕様情報のJDFへの埋め込み
基幹システムから取得した製品仕様情報(サイズ、頁数、担当会社など)をJDF化するとともに:APOGEE
Portalの該当ジョブのアドレスへの担当者別アクセス権の設定を行う。
(5)JDFの連続複製機能
チラシ特有の差し替え数にあわせJDFを自動発番(連番処理)にて生成
現状のJDFワークフローを下図に示す。
進行グループによる製版指示用のJDF発行フローと刷版課によるCTP出力指示用のJDF発行フローがある。
●進行グループによる製版指示用のJDF発行フロー
●刷版課によるCTP出力指示用のJDF発行フロー
株式会社メタテクノは、デジタルイメージングおよびネットワーク機器向けの制御ソフトウェア、ドライバ、関連アプリケーションの提供を中心に事業展開してきた企業である。2005年より商業印刷業をターゲットとしたJDFソリューションの研究開発を始め、2007年にJDFアプリケーションの販売を開始するに至っている。
同社の是永有里氏からユーザーがJDFに取り組む上でのポイントをお話いただいた。
メタテクノでは、印刷会社のJDF対応を容易にするためのソリューションとして、PrintStreetと名付けた製品群を提供している。BackStreetは、MISから作業指示情報を受け取りJDFに変換して、プリプレス/プレス/ポストプレスの各機器にJDF/JMFを送信する機能を持つ。またデジタル印刷機とのJDF接続も可能である。JDFワークフローを導入するにはJDF対応MISの導入が必須であったが、MISがJDF非対応であってもJDF導入が可能となる。
FrontStreetは、JDF非対応の生産機器をJDF対応にするインターフェースモジュールである。MISなどの外部からのJMF/JDF(作業指示情報)を受け付けて機器向けのプロトコルに変換する機能を持つ。また、稼動実績データをJMF/JDFデータに変換して外部に送信する機能をもつ。JDF非対応の生産機器をいかにスムーズにJDFワークフローに組み込むかという課題に対するソリューションとなる。
まずJDF導入のメリットを改めて整理すると大きくは以下の3点である。
(1)省力化・効率改善
プリセット情報のやりとり
(2)生産・製造記録
JMFによる人の手を介さない記録
(3)生産情報の共有
データとして残り、共有可能となる
一方でJDF導入への疑問点としてよく聞かれるのが次の5点である。
(1)実際の業務に本当に使えるのか
(2)保有設備にJDF対応機器が少ない
(3)JDF仕様書が英語で難解
(4)JDFの仕様がバージョンアップを続け、確定しない
(5)自動化が進むと人間の役割がなくなるのではないか
これらの疑問点についてひとつずつ述べていきたい。
(1)実際の業務に本当に使えるのか
JDFを利用するユーザーが増えるにしたがい実運用上の要望が多く寄せられるようになっている。JDF規格はそれらの要望に応えるように進化を続けており、具体的には以下のような仕様が策定されつつある。
このようにより現実に即した形で進化を続けており、ユーザーは出来上がった仕様を利用するだけでなく、仕様への要望をCIP4に伝えることも大事である。
(2)保有設備にJDF対応機器が少ない
JDF対応したシステムがひとつもないのでは、始まらないが全てを一気に揃える必要はない。いくつかのステップに分けて対応することが現実的である。
(3)JDF仕様書が英語で難解
JDF1.4の仕様書は1000ページを超えるもので、そのボリュームに圧倒されるが最初から最後まで読む必要はない。JDFのサブ規格としてICS(相互運用性適合仕様:Interoperability
Conformance
Specification)というものが定義されている。これは、例えばMISとオフセット枚葉印刷など使用目的に応じて最低限データ交換すべき項目が定義されているものであり、2009年2月現在で13種類のICSが規定されている(JDF1.3ベース)。
また、CIP4ではJDFの普及・啓蒙に向けてさまざまな活動をしている。日本のユーザー向けに日本語で議論できる場としてCIP4日本語ユーザーフォーラムがCIP4のサイト内に開設されている。また、日本固有の事情をJDFの仕様に反映させたり、日本での相互接続テスト(InterOp)を実施するJapan
Technical Working Groupと日本でのJDF普及活動を行うJapan Business Networking
Groupが昨年10月に発足している。
JDFに取り組むにあたり活用してもらいたい。なお、基本的に費用はかからない。
(4)JDFの仕様がバージョンアップを続け、確定しない
JDFはバージョンアップを続け、最新バージョンは2008年11月にリリースされた1.4である。基本的な部分はほとんど変わっておらず、機能を拡張する方向で改訂が続いている。例えば、JDF1.4ではデジタル印刷を考慮した仕様追加が多く盛り込まれている。例としてバリアブル印刷を見越した自動面付け機能や、多機能デジタル印刷機をJDF制御するための仕様定義などである。
(5)自動化が進むと人間の役割がなくなるのではないか
JDF導入はあくまでも無駄な部分の自動化であり、仕事を流すのは人間である。仕事の流れをスムーズにしてミスやロスを減らすことが主たる目的である。そして効率化された結果、次のステップへ進むあるいは新しい分野へ展開するというのが望ましい業務改善のスパイラルであろう。
まとめとして、JDF導入には新規設備導入とは異なる知識とノウハウ、そして取組みが必要となる。自社の業務手順、あるいは業務自体の見直しが求められる。現状の無駄を洗い出し、それが標準化できるかどうか、そしてシステム化できるかどうかという検討をすることになる。決して楽な道ではないが、印刷業界に限らずIT化は避けて通れない。何もしなければ、何も変わらないということで、是非、積極的にチャレンジしていただきたい。