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Webマーケティングの本当の価値とは

掲載日: 2009年03月14日

Webマーケティングの本当の価値は、場所や時間などの制約からコミュニケーションを解放し、その結果として、企業と消費者のコミュニケーションコストを下げることにある。

 

クロスメディア研究会では、宣伝・広告界に特化した総合人材サービス会社のマスメディアンを講師に、Webマーケティング業界のトレンドと各企業の戦略、および新興企業について、今後のWebマーケティングの潮流の概要を把握し、人材活用、実践、戦略を模索した。
本稿では、インターネット広告の伸びとその背景を中心に、Webマーケティングの新しい価値を概説した。

高い伸びが続くインターネット広告費
インターネット広告費は非常に高い成長を続けている。電通「日本の広告費」によれば、常に120%成長を続けるインターネット広告費に相対して、マスメディア広告費は下降を続けている。
2007年のインターネット広告費は6003億円(前年比124.4%)、そのうち媒体費は4591億円で、中でもモバイル広告費と検索連動広告費が大きく伸びており、モバイル広告費は621億円、検索連動広告費は1282億円までになっている。

情報量が大量にあって、情報の供給が需要より上回っていて、購買意欲を持つ活性化層に対して、購買意欲を促進するようなコミュニケーション手段が、なかなか今取りにくい状況である。そのような中で、検索連動広告は、実際に購買意欲を持っている活性化層が自ら探し出してリーチするという手段であるため、そういった点も含めて非常に伸びているのではないか。

ブロードバンドの普及とCGMの台頭
インターネット広告費が伸びている理由としては、まずメディアの変化がある。総務省「通信利用動向調査」によれば、2007年末の日本のインターネット人口は8811万人に達し、そのうちモバイルからの利用者は7287万人まで伸びている。特に若い人たちは、小さい時からインターネットに親しんでいることもあり、ただ見るだけでなく、使い方も変わってきている。自宅でのインターネット利用者のブロードバンド比率が79.6%という事実もこの現象を後押ししている。

CGM(Consumer Generated Media)が台頭し、いわゆる消費者側が情報を作っていくメディアがここ数年で非常に普及している。総務省情報通信政策研究所「ブログの実態に関する調査研究」によれば国内ブログの総数は約1690万(2008年1月現在)で、Technoratiの調査によると2006年7月末で世界では5000万件を突破し、言語別では日本語が3分の1を占めている。

一方SNSでは、mixi(ミクシィ)の登録ユーザーが2007年5月に1000万人を突破した。ブログはそろそろ頭打ちだが、SNSは情報を共有できるという部分があるため、今後も伸びていくのではないか。野村総合研究所では、2011年度にブログサイト数は1800万、SNS登録者数は5100万人を超えると予測している。
CGMが伸びている理由の一つは、SEO(検索エンジン最適化)効果が高いことで、GoogleやYahoo!などでキーワードを検索した際、大体上位に4つ5つはブログやSNSが出てくるという特性がある。

クチコミを参考にした失敗しない買い物
メディアへの接触時間も変化している。インターネットと携帯端末の接触時間が拡大し、新聞購読率が著しく低下している(特に20代~30代)。その代わりに、インターネットでニュースサイトをいろいろザッピングしながら情報を拾っていくという形態が非常に増えている。視聴のスタイルも変化し、マルチタスキング、つまり「テレビを見ながら、膝にはノートPCを開けて、右手にはモバイルを持って」というような、スクリーンを2つ3つ立ち上げながら見ている人が増加している。

いろいろな情報を挙げながら、自分が欲しい情報がどれなのかを即座に判断して選んでいくという、いわゆるメディアリテラシーがますます向上しているのではないか。自分で選んだ情報をインターネットでクチコミとして発信することで、いろいろな人にシェアされる。消費者の3人に2人は、クチコミを参考にして購買しているというデータもあり、インターネットの使い方が非常に大きく変わってきている。

高価な商品であるほど買い物に失敗したくないと考えて、クチコミが盛んに利用される。例えば物の価格を比較する媒体や、女性の化粧品を紹介しているサイトなど、そこでクチコミのデータを参照しながら、慎重に物を買っていくようになっていると思われる。そのことから、Webマーケティング自体も流れが変わってきている。

従って、企業側も変化せざるを得ない状況になっており、マスメディアで良い情報だけを発信することはできなくなっている。消費者の評価にさらされる、いわゆる「企業が丸裸にされる時代」で、商品力で差別化しにくい時代において、いかに消費者の感性に訴えるためのストーリーを作るかが大きなポイントになる。そのためにWeb広告やWebマーケティングに取り組み、サービスを広げていく側面がここ数年非常に強くなっている。

企業のマーケティングの新しい価値
制約を取り払うことによって、企業のマーケティングや広告にも新しい価値が生まれているのではないか。消費者との距離を縮めて、より深いコミュニケーションを可能にする手段としてインターネットがあり、こういった価値が企業のマーケティングの中で生まれてきている。

これまでインターネットは、現実社会でのコミュニケーションを、場所や時間などの制約を解決する手段として進化してきたが、これらは、あえて一つでなく複数の制約を受け入れることによって、新しい価値が生まれていく。それは、時間や場の共有による一体感、ライブだからこその盛り上がり、あるいはリアルタイムだからこそできるコミュニケーション、つまりその場での質問や回答、さらにインターネットの特長として、ユーザー同士の会話をすることもできたりなど、インターネットを取り入れることによって、本当の意味で消費者側にストーリー性を喚起させて、コミュニケーションを取ってモノやサービスを提供することができることで、インターネットの新しい価値が生まれる。

ネットに新しい価値が生まれる
Webマーケティングの本当の価値とは現実に存在している制約から解放することであり、その結果として、企業と消費者のコミュニケーションコストを下げることに価値がある。
また、動画配信(受信)の一般化と、リアルタイム・コミュニケーションへの回帰も押さえておくべき事象であり、企業のコミュニケーションツールは、メルマガやブログのように、「時間がある時に、いつでも良いから読んでほしい」というような、時間の制約の解放というところでなく、さらに一歩踏み込んで、「同じ時間を共有しよう」という側面まで踏み込んでいるのが、現状のインターネットの価値と言える。モバイルメディアも進化しており、このような状況は続いていくのではないか。

常に進化しているメディアにかかわりのある、Webやクロスメディアの実務経験のある人材にとっては、Web広告企業の業務拡大、他業種のWebマーケティングへの進出、年齢層が高くても知識ある人を採用したいというニーズにより、活躍の場は今後ますます広がっていくだろう。
 

関連:クロスメディア研究会11月拡大ミーティング「これからはじめるWebマーケティング 」

(Ji2月号・周辺情報 より)

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