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オンデマンド・プリンティングを軸に新ビジネスモデル

掲載日: 2009年04月10日

オンデマンド事業が、ビジネスとして成り立っている背景には、「単価が設定されれば、出力する枚数に比例した金額で費用請求するのがオンデマンドの特長」ということがある。

オンデマンド印刷機普及の足枷

オンデマンド印刷はメーカーから当初「小ロット印刷物に迅速に対応するもの」として、訴求された。アメリカなどでは瞬く間に浸透し、ひとつの業態を形作るまでに成長した。しかしながら、日本ではその歩みは遅々たるものだった。

その原因は、多々語られているが、最も説得力のあるものは、軽印刷という業態の存在だろう。簡易な製版、印刷システムで極めて安価に小ロット印刷をこなす企業が万を超えて存在したのは、明らかにオンデマンドの普及にとって高いハードルであったことは間違いない。

その一方で、小型コンピューターの企業内での浸透、安価なプリンター、コピー機、素人でも使える簡易印刷機などの普及もある。数十部程度は、外注するよりも社内で制作した方が早い、という事情もある。
運用方法にもよるが、恐らくは100〜数百部という極めて狭い範囲でしか、運用ができないオンデマンド印刷機は、その活躍の場をなかなか得ることができないのだろう。

内制化手段か軽印刷代替システムか

現状では、それでも以下の3用途がマーケットとして浮上している。
(1)即応性の高い企業内の印刷システム
(2)軽印刷代替システム
(3)オフィスサービスの一部

(1)は、当然考えられる用途だが、一般企業で即応性が高いことでは同意できても、オフィスプリンターなどに比べ、はるかに高額なオンデマンド印刷機を導入して、採算が合うか、それほど即応性を求められる印刷物があるか、相当緻密な分析が必要になる。
(2)に関しては、少々説明が必要だ。従来の軽印刷という業態は徐々に消滅しつつある。小規模印刷会社が印刷という事業からの撤退を余儀なくされているだけでなく、生き残っている企業も、より付加価値を求めてカラーのオフセット印刷機などを導入し、中堅印刷会社の仕事を侵食しつつある。つまり、中堅以下の企業が「小ロットだから」と気軽に外注することが難しくなっているのである。そのため、体力のある企業では、オンデマンド印刷機を導入し、外注よりも即応性の高い仕組みとして、顧客にアピールするツールに利用するケースもある。
(3)は、キンコーズなどに代表されるビジネスである。オフィスサービスとしては、量の多い印刷物は従来は印刷会社に外注されていたが、やはり即応性を重視して、需要の多い店舗で導入している。

いずれも導入例はあるものの、導入したことにより飛躍的に効率化した、あるいは生産性が向上したという話は、あまり伝わってはこない。いずれの場合も、オフセット印刷とどのように共存するかなど、実務面で課題を抱えているからである。

大幅なコストダウンに成功

上記のような情勢にありながら、三菱電機エンジニアリングは大量のオンデマンド印刷機を導入し、成果を上げている。オンデマンド事業は、同社が従来から行ってきたドキュメント制作システム/体制の上に築かれている。上記(1)〜(3)のいずれとも異なる立ち上がり方をした。強いて言えば(1)に近いが、根本的に異なるところは、コンテンツ制作から製版、印刷、製本までを一貫して行う事業部として始まったことである。ただの高速プリンターとして利用しているわけではないのだ。

最近同社が企画し、実行して、顧客の印刷コストを劇的に低減した例を紹介しよう。このサービスの名称を同社では「販促ドキュメント・オンデマンドサービス」と呼んでいる。

このサービスの核となる部分は以下の通りだ。
(1)同社と物流企業が連携する。
(2)物流企業が抱える顧客の印刷物在庫のうち、版改定の多いものをオンデマンドに切り替える。

物流企業が預かる印刷物の多くはオフセット印刷により制作されている。顧客からの注文により、物流企業は在庫から要求された印刷物をピッキング(抽出)し、梱包、発送する。

オフセット印刷で大量に制作したものをピッキングし、発送すれば確かに迅速に対応はできるが、問題は版改定の多いものだ。改定が必要なものは、顧客自身が印刷会社に発注しなければならず、入手に時間がかかる。また、改定前の印刷物については、無用なものに倉庫代がかかることになる。

そこで、同社がコンサルティングを行い、版改定が多く、かつ、部数の少ないものを分析、選び出す。
これらについては、あらかじめ物流企業のデータベース(在庫管理システム)にフラグ(データベース上のマーク)を立てておく。

顧客から物流企業に注文があった場合、オンデマンドの対象となる印刷物に関しては、自動的に同社の顧客データベースにその生産情報が送られてくる。それによって、同社ではオンデマンドを行い、製本、加工、梱包を行い、物流企業に納品する。物流企業では、オンデマンド印刷物の到着とともに、オフセット印刷物と合わせてピッキングを行い、顧客に向けて発送する。

これにより、顧客の側では倉庫代、印刷代を大幅に低減させることができる。同社のこのサービスを利用することにより、ある製薬企業では、1年間に在庫としてもつドキュメントの種類を約半数に減らし、倉庫代負担を減少させるとともに、印刷コストも22%削減させることに成功している。

優位性は価格設定と顧客との関係にある

三菱電機エンジニアリングのオンデマンド事業が、ビジネスとして成り立っている背景には、「単価が設定されれば、出力する枚数に比例した金額で費用請求するのがオンデマンドの特長」(同社・畑尾氏)ということがある。これは一般のビジネスでは当然のことだが、印刷業界ではそうではなかった。極論すれば、オフセットでの印刷代のみしか価格として設定してこなかった、あるいはできなかった。印刷の前後で当然発生する費用(制作、製版、製本など)が、あまり勘案されてこなかったのである。

従来は、印刷物のロットがある程度確保できれば、その利益幅が大きいので、他の費用は吸収できた。しかし、今日全体的なロットの低減化傾向のなかで、こうしたビジネスモデルは破綻に瀕している。

顧客側は、印刷費はもちろん、印刷前後の費用もさらに低減を求めてくる。印刷会社は、全体としてほとんど利益の出ない仕事を引き受けざるを得ないのが現状だ。この点で、合理的な価格設定ができる同社は、ビジネスとして確立していく面で、印刷会社よりも優位にあると言える。

(『プリバリ印』創刊号 ソリューション・リポートより一部抜粋)

関連情報

『プリバリ印』2009年4月号 4月10日発売
http://www.jagat.jp/content/view/351/192/

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