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メディアの原点として、むしろコミュニケーションの促進という視点で印刷物も、他メディアも見直すべきである。
ここ数年でTVやマスメディアの広告が落ち込んでいる。新聞や雑誌の広告は「減った」というよりも、すっかり「抜け落ちた」感があるほど、ある分野のクライアントからはスルーされるようになってしまった。その「ある分野」には、自前のWebサイトで何十万人オーダーの顧客層・ファン層とコミュニケーションがとれるようになった会社がある。だからといって永遠にマスメディアが使われなくなるということではなく、まだ誰も知らない新製品が出る時の告知としてはマスに到達力のあるメディアは最適の方法である。
印刷も似たようなところがある。放送系は決められた時間に伝達するものであるし、新聞雑誌はある程度ターゲットされた対象に対して、一定期間に伝達するものである。しかし商業印刷物は、最も露出期間の制約がなく、活用に際しての自由度が高い。2000年以降に縮んでいった印刷物が多い中でも商業印刷が伸びたのは自由度が高いという特徴による。そのためにいろいろな利用局面を考慮してマキシマムに部数を決定しがちである。その結果として使い残しや、効果があるかないかグレイな対象にも配布してしまうことがある。
ネットを使ったデジタルメディアも自由度が高く、クロスメディアの発達につながっているが、印刷物であれ他の情報伝達メディアであれ、自由度が高いメディアは管理が緩いことになりがちで、効果が把握でき難い面がある。つまり印刷に金を掛ければ掛けるほど売上げが上がるのかというと、「タブロイドのチラシをB4ペラに変えても効果は変わらなかった」ような、そうではないという経験をした人も多いだろう。要するに管理が甘いと水ぶくれ・太りすぎに陥りやすい、という自戒が必要である。
今はそういった太りすぎた印刷のダイエットをする時代に入りつつある。2008年の景気後退以前から、毎週あったチラシを隔週にするとか、10種類あったパンフレットの内容を見直して7種類に整理した、というような見直しによる印刷経費のコストダウンが現在進行形である。しかし印刷物を減らすことは容易であるが、結果として売上げが下がるなどビジネスにとってマイナスになることは防がなければならない。一般にプリントマネジメントというと、個別の印刷物の発注金額を下げる価格競争のことと解釈されることが多いが、個別の発注金額が同じでも、頻度が減ったり点数が減ることはどう考えたらいいのだろうか。
発注側にとってはいずれにせよ印刷コストダウンなのである。しかし受注する側からは価格競争以外のところについて、どのような打つ手があるのか考えてもらいたい。それがないと価格競争だけを問題にしても仕事は減っていくからだ。メディア作りの指標は「効果」につきる。費用対効果の高いものが勝つ世界なのであって、安いものが勝つわけではない。電子メールはタダであるが管理コストを考えると必ずしも安いことにはならない。印刷が高くなってしまうなら高い効果を提案するしかないだろう。
電子メディアであっても「効果」如何で淘汰される時代に入り、広告モデルのネットビジネスの成立は次第に難しくなっている。メディアの原点として、むしろコミュニケーションの促進という視点で印刷物も、他メディアも見直すべきである。水ぶくれした印刷の現状維持を考えるのは、資源・環境といった視点から考えても反社会的なことになり、当然発注者にも受け入れられなくなる。さあ、印刷の本当の価値は何かを真剣に考えよう。
印刷のカタログ・DM・パンフレットが今後も人の心を揺り動かすものではあるが、販売促進の世界はもうクロスメディアの進展によって過去に経験したこともない時代になってしまったのである。カタログ通信販売がWebやメールを活用せざるを得なかったように、従来の紙メディアだけの時代ではなくなったので、Webやメールが存在することを前提に、それらと共存できるような紙メディア作りに切り替えなければならない。印刷(プリント)の価値(バリュー)を現代に問い直すことを目的に、JAGATは「プリバリ印[イン] 」という月刊誌を創刊した。
すでに印刷物を活用して先進的かつ意欲的にビジネス改善に取り組まれているところが印刷のバリューチェーンの中には多くあるので、今までの工程ごとのビジネスの利害ではなく、印刷物の企画から制作・印刷・加工までの全工程を通しての今日の課題の把握と、受発注の双方での課題解決を、いろいろな事例を通じて伝えるのがプリバリ印[イン]の狙いである。
また印刷物の活用には、表示、個人情報、知財権その他コンプライアンス上の考慮点も多くなってきた。しかしIT・情報管理と密につながったデジタル印刷によるソリューションも可能になりつつあるので、古い印刷関連知識から新しい知識に置き換えることもこの雑誌の使命である。
プリバリ印[イン]は印刷の技術誌ではなく、印刷企画や発注にかかわる方にも判る視点で編集されていて読みやすく、受発注双方に関わる方々が自然に多彩で広い視野を身につけられて、時代に合った印刷作りができるようになり、また印刷受発注の効率化にも役立てていただけるものです。
関連情報
・プリバリ印[イン]
2009年4月号 【特集】安全・安心を印刷する
・良い印刷物を作りたい!! <発注者の声> (アンケート集計結果)