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量より質の人口減少時代ビジネス 記事No.#1586

掲載日: 2009年03月09日

新入社員の季節を迎えた。リーマンショック以降、突然の世界同時不況で売り手市場から一挙に就職難に転換してしまった。こん な極端な変化はあまり例がない。ただ、長期的には若年人口の減少が基調にあることは間違いない。この人口減少の影響を大きく受けているのが学校・教育産業 である。小学校から高校まで学校数、生徒数とも漸減している。

 

小中高だけでなく短大、専門学校も減少している。短期大学は1995年ごろをピークに減り続け2007年では約3分の1近く まで減少。専修学校も2003年ごろをピークに毎年漸減し、5年間で約100校が姿を消した。各種学校においてはもっと変化が激しく、1975年当時 120~130万人も在籍した生徒が、現在は15万人弱まで減少した。ところが大学・大学院だけが増え続けている。1990年に507校(国公私立)で あったものが2007年には756校にまで増えている。学生数も1975年から2003年までで100万人以上増えている。また1995年ごろから大学院 への進学が増え、ことに2004年ごろから大学院大学・専門職大学といった社会人への門戸開放によって従来とは違った大学院の位置づけができつつある。

一方減少に歯止めが掛からない短期大学や専門学校の中には大学への昇格によって活路を見出している学校も多い。人口動態から考えると一見矛盾しているが、大学進学率の向上による学生数の増加が背景にあるようだ。
新生学部や定員増などによって入学者数を伸ばしてきたが、どうやら平成20年度の学校基本調査(文科省)によると大学(学部)進学率は過去最高 (45.9%)だったにもかかわらず、入学者数は1.1%減となった。少子化の影響である。ただ大学(学部)の学生数について見ると、前年度より5500 人増の252万人と依然増え続けている。

このように学校を取り巻く大きな環境の変化は、印刷同様、量から質への急速な変化をみせている。例えば、私大では当たり前の 「学校案内」だが、5年前まで東京大学には受験説明パンフである受験要項はあったが学校案内なるものはなった。どうやら旧七帝大には「学校案内」による PRという発想はなく、まさに親方日の丸体質であった。昨今は国立公立でも学校案内だけでなく「学部案内」もあるようだ。ホームページには電子カタログも 掲載されている。ある関西の印刷会社では、学校ビジネスを徹底分析して企画提案した私大の学校案内やPRツールが功を奏して受験者が増えたと評価されたと いう。きれいな写真、美しいデザインの印刷を求めているのではなく、受験者を惹きつける魅力ある学校案内という発想が必要だと話してくれた。

大学案内や願書の発送代行業をしている会社社長は、受験生からの資料請求にいち早くこたえる大切さを説き、すべての国公立大 学と発送代行の業務提携に成功したという。情報を届けるにはネットが便利だが、ネットで選んでくれた受験生の思いにすぐにこたえるには、印刷物の「学校案 内」を2~3日で届ける必要がある。受験したいという思いを熟成させるのが印刷物としての大学案内の役割であるという。「願書請求」の場合、近い将来、 ネットへ移行するであろうと予測している。なぜなら願書は事務手続きなので簡便さが第一であるからだ。
学校案内は学校の「思い」と受験生の「思い」を相互に交流させるツールであって簡便さが第一ではない。各学校ともホームページ、携帯電話、電子 カタログ、印刷カタログなどさまざまなメディアを駆使しているが、それぞれの役割が違うことを認識をすることが大切であり、その違いによる連携が受験生へ のサービスと受験促進につながるという。
教育環境の変化によって、従来の量をベースにした「試験と偏差値」という物差しだけの時代は大きく変わろうとしている。これからは高校と大学が 質・量ともに深めていくことを求められており、そのための仕組み作りを既に始めているという。実現へのプロセスを考えていくと印刷の役割が結構重要である ことをいくつも再発見したという。

人口の増減は経済活動の基本であり経済力の大きな指標であることは確かであるが、人口減少という量的な側面だけで結果を考えるのではなく、量より質で捉え直しをすることがこれからのビジネスである。

 

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