本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
「経営者は小事は情をもって処すも、大事は理でもって処す必要がある」という言葉がある。これは、感情、人情が将来にわたっ て影響を及ぼすような大きな決定、判断に介入することを戒める一方で、いま・ここの場面では感情豊かで情に厚い経営者という姿が会社組織を強くするという ことを表している。
あんなにいつも周りに気を使ってにこにこしていたトップが、まるで手のひらを返したかのような冷淡で厳しい決定をする。なん であんなに鬼のようなことをするのだろうかと現場が首をかしげる判断をすることがあるが、大抵はこの情と理の境目を超えた決定だったのである。そしてその 類の決定は、後になって振り返ってみるとなるほどそういう判断のタイミングだったのだと、組織的な納得が得られるものなのである。
だがそれに反して、この情と理が曖昧に混じりあった形で経営マネジメントが行われると、組織の一体感は失われ不信感が蔓延していく。
そして、資本と経営が完全には分離し難い同族経営の中小企業が多い印刷業界のような会社では、より自覚的に意図的にならないと、この情と理の分別
は難しいのであり、得てしてこの「情」や「理」が自分たち独自のローカルな「情」や「理」となってしまっていることも多いのである。
年初のこのエッセイの中で印刷会社が取りまとめ役となる地域経済、ビジネスの再構築について語った。そのキーワードとしてグ
ローカルという言葉を提示し、その概念を「閉ざされた地域としての地方ではなく」「地域特性を武器に世界に開かれ、十分に世界とコミュニケーションできる
ところまで鍛えた地域」であると述べた。
それを実現するための手順として、まず最初に「印刷会社である自社がグローカル化を目指す」、そのためのチェンジマネジメントに取り掛かる必要があるということをここに付け加えたい。
産業の中の一業種、一業態としてのローカルを、グローカルにすること。
日本の中の一地域、一地方としてのローカルを、グローカルにすること。
この両者を一気に実現するためのチェンジマネジメントを、この先行きが全く予測のつかない今という時期だからこそ、着手しようじゃないかと考えるのである。
業界の常識は世間の非常識。このフレーズが印刷のみならず、日本のさまざまな「業界」で改めるべきこととして、近年語られ続けている。では自社の中でその非常識が蔓延していないかどうかの発見がその第一歩になる。
例えば馴染み客だけで成り立っている喫茶店や飲み屋を思い浮かべればいい。これが閉ざされた地域の中のローカルビジネスであり、ムラ社会という独
自のローカルな「情」や「理」、コミュニケーションの手法を生み出すのである。そしてこういう馴染み客だけで成り立っている店にたまたま運悪く立ち寄って
しまったときに、客の全員がこちらを振り向き、うさんくさげに眺め、しかも店員もじろじろ様子をうかがうような対応をすることで、居心地の悪い思いをした
ことがある人も多いだろう。このような外の人間に居心地の悪さ、違和感を感じさせるビジネスは、グローカルなビジネスとは言えないのである。
あるいは「強み/弱み/機会/脅威」を書き表すSWOT分析を行ってみるといい。強みとして描いたものが、将来にわたって継続性を持つものであ
るのか否や。弱みとして描いたものが、克服でき得ないものなのか否や。機会、脅威に客観的裏づけが含まれているのか否や。本当にそうなのか、何度でも繰り
返し議論をしていくことが印刷会社のグローカル化への第一歩になると考える。
漫然とローカルだからマイナーであり、だから弱みなのだろうと考え、思い込んでいた部分が、このグローカルの観点では強みになるかもしれない、という自分に対する再発見が、ローカルからグローカルにシフトする大きなステップとなる。
かつて地域格差を生み出す大きな要因であった物流上の弱みや情報調達上の弱みは今の社会ではどんどん薄れてきている。ビジネ スのヒントは至るところに転がっている。外的な環境与件は大きく変化をしてきている。しかし、グローカル戦略を実現するための「強み」は、外部にはなく、 ほかならぬ自分自身の中に眠っているのである。まずそれを、特定しようではないか。