JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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当たり前のニーズをどう実現するか 記事No.#1582

掲載日: 2009年02月09日

PAGE2009は昨年の入場者数を10%近く上回る盛況の中、閉幕することができました。厚く御礼申し上げます。
コンセプトのゼロリセットに相応しく刺激的であったとの感想も多く聞かれた一方、展示やコンファレンス、セミナーのテーマの幅が広く捉え難いものもあった ようだ。時間軸と広範囲な水平視野が同時に必要なときだけに、会社によっては担当者総動員で参加しているところも見受けられた。ゼロリセットとは言うもの の、先入観、固定観念を排除し、ゼロにして新しい知識や動向を受け止めることは結構難しいことである。

 

別の言い方をするとネットに対する投資は「広告ビジネス」ではなく、ビジネスそのものに向かうだろう。人が多く行き来すると ころは広告の場であることは変わりないが、広告とビジネスはセットのようになる。売り上げを誘導するのは広告代理店に依頼する広告や販促が主ではなく、自 社サイト内での他の商品の広告でクロスセル・アップセルが基本になる。それは誰かに考えてもらうべきようなものではなく、そもそもその会社の販売戦略・戦 術を踏襲するものだからだ。

景気もさることながらもっと厳しい状況は覚悟しなければならない。その覚悟とは経済につきものの景気変動のことではなく、着 実に変化しているメディアの環境によって、台風一過とはいかないかもしれない、ということである。夜が明けない日はないのと同じで、必ず景気は好転する。 そのときに印刷も好転できるように変化していなければ取り残されてしまう。つまり、不況という台風が通り過ぎるのを待つのではなく、風雨にさらされながら も行動を起こさなければならないときである。

何をするのか。大金や設備の前に、知識と知恵を使うことである。そのヒントはPAGEでもいろいろな形で、提案、展示されて いた。今一度、持ち帰った多くのパンフレット、資料、レジュメにじっくりと目を通していただきたい。最先端への目配りだけでなく、いろいろな分野のサービ スや商品、情報を水平に組み合わせる創造性を駆使して欲しい。これからの中小印刷業の中で重要なことは、自社の強みをさらに強くするために上下左右とのコ ラボレーション展開をすることである。新しい印刷の役割や価値も、顧客の視点、違った機能の組み合わせで新たな発見や役立ちを見つけることができる。「脱 印刷」という言葉があるが、額面どおりの戦略も間違いではないが、印刷にこだわらない考え方が重要であって、止めることではないと思う。いま、四大マスメ ディアの広告が苦しんでいるのも印刷と同じで、完成されたビジネスモデルがじゃまをして、それぞれのメディアの足枷から逃れられないでいる。この足枷をク ロスメディアによって突破したいと考えているようだが、メディアごとの長い歴史・習慣から解き放たれるには時間が掛かりそうだ。

試行錯誤はクライアントも同じである。ある中堅の外食産業のマーケティング本部解散という衝撃的な話を聞いた。同社のマーケ ティング本部もどこでもあるように戦略、販促、広告などを一手に握り、毎年多くの宣伝費を投入していたという。しかし、次第に400以上ある店舗と本部と の乖離が大きくなり、各店舗は販促・広告のすべてを本部に頼り、成否は本部の責任とされた。本来の店舗ごとの販売努力が弱くなり、非効率になった結果、原 点に戻すための英断として本部を解散、店舗ごとに地域の特性などを生かしPR、商品の品質向上、こだわりなど根本的な戦略転換をした。「綺麗で完成度の高 いポスターが必ずしも、私たちの要求ではない」「一緒に考えていただく知恵が欲しい」という。

クライアントのニーズは、「安くて、効果があって、品質が良い」。いまさらながらと言ってもいいかもしれない。しかし、この 当たり前のニーズを実現できないことにクライアントの不満と広告関係者の危機感がある。この状況はそのまま印刷にも当てはまると言ってよい。メディア環境 の変化を背景にこの当たり前のニーズを実現するには、単一メディア、技術で応えられる時代ではない。メディアの役割と価値の再構築のためにあらゆる可能性 へのチャレンジを惜しむときではない。

 

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