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PAGE2009 デジタルメディアトラックでは、デジタルサイネージをテーマとしたセッションが開催された。ここでは、その中からJR東日本企画の山本孝氏の講演内容を一部紹介する。
ジェイアール東日本企画は媒体管理会社と代理店が一緒になっている会社で、JR東日本やゆりかもめ、臨海高速鉄道、つくばエクスプレス等の広告媒体を一手に管理している。
交通広告は大きく言うと、駅メディアと車両メディアに分かれており、用途も特性も異なる。
駅メディアとは、サインボード、ポスター、スポットメディアを指す。サインボードは長期に掲示する看板のことで、近年LEDバックライト、エッジライトに変わってきており省エネ化、省電力化が進んでいる。紙ポスターは相変わらず定番商品である。特に大型連貼りに人気があり1週間単位の掲示となっている。
スポットメディアとは、床に貼ってあるフロアシートや自動改札に貼ってあるステッカー、横断幕、バナーのほか、駅イベントもスポットメディアに入る。
駅で言うと、看板、ポスター、スポットメディアを組み合わせてクライアントに広告の計画をしてもらいプロモーション計画を立てていくのが基本的な流れである。
一方、車両メディアはユニットごとに名称があり、エリアによって販売期間や販売方法が異なる。大別して中吊り、窓上、ドア脇に集中するステッカーのほか、売り方として、車両メディアジャックとしてのアドトレインがある。これは昔は広告貸し切り電車と呼ばれ、1クライアントで山手線1本分の広告を販売するようなものである。
また2001年に屋外広告条令等をクリアして始まった車体広告もある。山手線から始まって、今は京浜・中央・埼京・京葉・武蔵野線と、各線で車体広告もラインナップしている。
マス媒体と比較した交通広告のメリットとしては、まず、任意のエリアで展開できる点である。これは逆にローカルならではのメリットとして活用されている。次に、特にわが社は山手線を中心に首都圏のエリアをカバーしているので、高いリーチが獲得できる。
3番目が他のメディアと明らかに違うところで、強制視認、反復接触性を交通広告は持っている。
これは、「とりあえず目に入ってしまう、意識してはいないが見てしまう」、ということである。例えば電車通勤のサラリーマンであれば、朝改札やホームで見て、電車で中吊り広告を、降りるときには改札で見て、夕方また改札で見る、というように、生活者の動線に沿って繰り返し露出することにより、ある種刷り込みができるというのが交通広告の特徴である。
また、他メディアの広告想起率が高いことも特徴である。例えば朝電車に乗り、缶コーヒーの広告を見たとき、「そういえば今朝テレビでもこれを見た」、「新聞の広告にも載っていた」など他メディアとの連動が極めて容易である。
そのほかにも、リーセンシー効果として売場の近くで広告が出せるため、コーヒーやお菓子、例えば新製品が出たらとりあえず駅のコンビニで買っていこうといったように売場との連携が強いという特徴がある。
デジタルを使うことのメリットは、既存メディア、即ち紙メディアとのシナジー効果が容易に得られることと、デジタルなのでネットワークメディア間での連携が比較的簡単にできるというメリットがある。
デジタルサイネージの特性は、基本的には4つある。まず一元管理、一括配信ができるという点、次に時間帯で情報をシェアできるタイムシェアリング、またエリア毎に異なるコンテンツを表示できるエリアセレクトという点、それに、MPEG、JPEG、Flash、HTML等の多様なメディアに対応できる点である。
デジタルサイネージがこの3年くらいでなぜ拡大したか、我々なりに、5つポイントを挙げてみた。
1つは、表示装置、つまりモニターのフラットパネルが大型化・スリム化・高精細化して低価格化してきたことである。今、大きく言うと、LCDとPDPがメインになっているが、大型のものだとLEDビジョン、屋内だとプロジェクターなどもジャンルに入ってくる。
2つ目に、配信システムが低価格化してきたことである。従来、この手のものはカスタマイズするアプリケーションだったが、スカラー社や松下のNN等の汎用の配信ソフトがかなりこなれた値段で出てきた。それから、セットトップボックスのCPUが高性能化してきたということも挙がってくると思う。
3つ目に、それらの機器の低価格化に加え、ネットワーク環境が整備されてきた。ブロードバンドエリア、光ファイバー、ADSL、HSDPAなど、また今年の夏からはWiMAXが用途に応じて使い分けられる。コストもみな違う。あとは、特にインストア系などではイントラネットを使い、ほぼコストをかけずにネットワーク化することもできるようになっている。
4つ目は、配信コストの低価格化である。配信というのは、そもそも専門的なスキルと手間、人件費がかかる。そこで配信専門会社を各メーカーが立ち上げ安価なパッケージを提供しているので、間口がどんどん広くなっている。特に流通系や銀行等は、自社でコンテンツを作って流そうという動きもある。
最後は安価なコンテンツの普及である。例えば動画にしてもノンリニア編集が簡単にできるようになり、スタジオ編集などのコストが落ちている。あとはWebコンテンツを流用したり、既存のデジタルデータを加工することもある。
交通広告における可能性としては、まさにユーザーニーズの裏返しとしてターゲットを意識した広告展開ができる。またネットワークを活用して状況に応じていろいろな配信ができる、様々なコンテンツに対応している、またデバイスも使い分けられるなど多様である。
既存メディアとの親和性が今後の課題だが、今までのメディアとちゃんと共存してシナジー効果を出せるように狙っている。