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DM会社であるアテナがデジタル印刷機を導入、印刷事業に乗り出した理由を探る。
アテナはメーリング事業を中心としたダイレクトマーケティング(DM)サービスを提供する会社だ。この分野における老舗と言える存在だが、デジタル印刷機を導入してオンデマンドでのDMサービスを行っている。DM 会社がデジタル印刷機を導入するメリットはどこにあるのか。同社が印刷事業に乗り出した理由を探る。
アテナはその名のとおり、宛名書きの“あてな”であり、1968年の創業以来、DM(ダイレクトメール)の企画制作から発送代行まで行うダイレクトメーリング事業を中心に、在庫管理と梱包加工を独自のシステムで運用するロジスティック・マネージメント事業、フルフィルメント事業と、総合的にマーケティングサービス事業を展開してきた。とりわけ、同社の業務を特徴づけるキーワードがフルフィルメント(Fulfillment)だ。
フルフィルメントとはあまり聞き慣れない言葉だが、英語では(義務や職務の)履行、遂行、または(約束や条件、命令などの)実行、実践と訳される。一般にフルフィルメント・サービスとは、企業のビジネスにおいて不可欠な受注管理や情報管理などの基幹業務をサポートすることで、企業がコアコンピタンス(競合他社にはできない独自の事業や技術)に集中する手助けをするサービスを意味する。
同社が行っているフルフィルメント事業は、ダイレクトマーケティングにおける、情報の入口(商品受注窓口)から、データベースの管理・分析、商品の保管・発送ならびに代金回収に至るまでの、いわゆるバックオフィス業務のすべてや、キャンペーン、通信販売、資料請求、イベントのサポートなどのアウトソースを請け負うもの。とりわけこうした業務をシームレスなワークフローで“ワンストップ”で提供できるのが大きな特徴だ。ダイレクトマーケティングの分野においてフルフィルメント・ソリューションが提供できるのは、同社の最大の強みである。
このほか、ロジスティック・マネージメント事業、情報処理サービスとしてデータ入力センターやコールセンターの運営、データベース構築や各種業務システムの開発運用に至るまで、ダイレクトマーケティングのトータルアウトソーシングを広範囲な内容で受託している。こうした入口から出口までの処理を、約8,000坪もの本社社屋内で一括一元管理している。本社が東京都江戸川区にあるのは、隣接する物流ハブ(トラックターミナル)を有効活用するためだ。本社物流ハブは、千葉県船橋市にある約8,600坪の新東京物流センターと大阪府大阪市の関西物流センターと連携しており、この2つの最新鋭の物流センターを通じて、日本全国に当日もしくは翌日配送を実現している。
また、個人情報保護の面において、同社では創業以来セキュリティを重視しており、徹底的、継続的に取り組んでいる。2001年には業界に先駆けて「Pマーク」(プライバシーマーク)と「ISO9001」(品質マネジメントシステム)の認証を併せて取得し、データを取り扱う部署ではIDカードによる入退出管理を行うなど、徹底している。
DMサービスの会社である同社がデジタル印刷機を導入し、オンデマンドでの印刷サービスを開始したのは2007年4月。これにより、モノクロでの対応だった印刷工程にカラーを導入することができるようになった。
封入封緘が行える同社は、大手企業や大手印刷会社からの発注によって守られ、DM 業界では老舗と位置づけられてきた。しかし社会環境が変わるとともに、印刷会社と配送会社がDMに着手するようになり、同社は「(印刷会社と配送会社に挟まれ)ちょうどあんこのような状態」(オンデマンド事業部室長の古賀則男氏)になってしまった。
そうした状況のなかで、同社営業第一部プランニングマネージャーの佐々木務氏は「印刷物に限らず、オンデマンドでのサービス提供を模索していた」と言う。その考えに同調するように、前職の印刷会社でオンデマンド事業を手がけてきた、現・オンデマンド事業部部長の高部謙司氏が加わり、約1年の準備期間にカラー・オンデマンドの検討が進められ、デジタル印刷機が導入された。
高部氏は「フルフィルメントでやっている会社はアテナしかありませんでした。印刷会社でオンデマンドやバリアブルを行うには、封入封緘や発送の部分が足りませんでした。そして、需要のバランスではカラーのオンデマンドの需要も上がってきており、(アテナに)欠けていたカラー印刷が加われば理想型に近いと考えました」と同社とカラー・オンデマンドの相性の良さを強調する。
「それまで印刷物は支給されるものと認識していましたが、(印刷も)やらなければならなくなり、実際に印刷機が導入されると社員の認識も変わり、営業活動も本格化しました」と古賀氏は語っている。
「時代の流れでエコロジー(もったいない)という発想も大事でした」とオンデマンドによって、無駄な紙を出さないという姿勢も確立していると高部氏は語る。同社のひとつの社屋で、移動せずにすべての工程が行えるのもひとつのエコと言えるだろう。
「印刷会社になろうと考えているわけでもありません。わたしたちはそもそも印刷会社でありませんが、デジタル印刷の導入でどう変われるのか」(佐々木氏)。同社は、ほかの業種がすぐにまねできない封入封緘のノウハウを持ち、なおかつ個人情報である宛名の扱いができるセキュアな環境を持っている。そうした強みを持つ同社が、印刷を導入することで何ができるか。デジタル印刷によって開かれる新しい展望への期待を持っているようだ。
バリアブル印刷では、セキュリティ対策が不可欠な個人情報などのデータを扱わなければならない。
こうしたデータ管理や可変情報など、フロントエンドのデータ処理には高いノウハウが必要となる。「(オンデマンドサービスを行うには)ココが弱いとなかなか大変です」(高部氏)。つまり、オンデマンドサービスのコアにあるのはプリンティングではなくコンテンツであり、データ処理の部分が重要と言えるのだ。
「印刷工程はPDFのワークフローが確立されていますので、そういう意味では、オンデマンド印刷はあくまでプリンターとしての位置づけということになります」(同氏)。
「無在庫でやれればいいという考え方がありますが、もうひとつは、最低ロットをオフセットで刷っておいて、あとはオンデマンドで刷るというやり方。全部、オンデマンドという話ではないんです」と佐々木氏は語る。
製品のサイクルを考えると、立ち上げ時期と終息時期では必要になる部数は異なる。最初はオフセットで、終息時期にはオンデマンドが走るのが通常のスタイルだ。しかし、その時になってオンデマンドのデータを作るのでは遅い。
「無在庫にするのではなく、本当はミニマムロットで在庫量を調整しながら、余裕のある時に刷る。全くの無在庫は、注文されてから作るラーメン屋さんのようなもので、最適なのはコンビニエンスストアの冷蔵食品型で、暇がある時に補充するのがいい。
無在庫とは言っていても実際はミニマムロットが理想なんです」と高部氏。
同社のオンデマンド事業の位置づけは、“オンデマンド”であって、“オンデマンド印刷”ではない。というのは、オンデマンドは印刷だけとは考えておらず、様々なデータ、メディアに出力することを前提としているからだ。「そういう意味では、私どもの掲げるのは、オンデマンド・プリントではなく、オンデマンド・パブリッシングということになります」と高部氏。
「だからと言って、印刷会社を排除するのがデジタル印刷機を導入した目的ではありません。これまで同様、印刷会社との協業は十分考えられます。
それぞれの役割を果たす、という意味では印刷会社と協業できるところがまだまだあると思います」と佐々木氏は語る。
今や企業の業務はイントラネットでウェブベースになっており、ビジネスにウェブやITは切っても切り離せないものになっている。業務のアウトソースを請け負う同社としては、顧客のニーズに応じた業務サポートを組み立てられなければならない。
たとえば、ウェブ to プリントを使っての印刷発注や、ウェブでのオーダーは当たり前のものになってきている。だからと言って、すべての印刷会社がそうした対応をしなければならないかと言えば、必ずしもそうではない。
「そういう時は私どもが窓口になれればいいと考えています」と佐々木氏は語る。担当する業務を組み合わせることで、顧客の都合に合わせた印刷物を使ったサービスが行える。アウトソースの形が変化してきているのだ。そういう意味では、業界の垣根が大きく変わりつつあると言える。
「極端な話かもしれませんが、倉庫の中にオンデマンド機を入れる研究をしています。これは倉庫会社ではできません。印刷会社に機材を持ち込んでいただく形での協業が、いちばんいいのかもしれません」(佐々木氏)
こうした協業を実現するのは、同社のみの使命ではない。DM 業と印刷業が協力して、新たな業態を生み出すということなのではないだろうか。
今までの業務サービスに対する取り組みを進める一方で、同社では2008年10月に新しいスタイルのB to Cの写真プリントサービス「ClipChip」(クリップチップ)を(株)レゾロジック社と共同開発して発表した。
撮影した写真データをClipChipのサイトに上げると、フォトカードとして印刷され、注文者の手元に届くという仕組みだ。カードの裏面を広告にも利用できるので、その広告費によって無料で制作することもできる。このように、新たな印刷メディアの創出に力を入れることで、オンデマンドのさらなる可能性も探っている。
(『プリバリ印』2009年4月号より抜粋)