本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
GW最後に分光の話というか、色再現調子再現ビジネスについて述べさせていただく。
連休はいかがだっただろうか?それぞれに有意義な時間を過ごされたことと思う。私は「家に居るに限る」を毎年実践しているのだが、たった一日だけ親子で上野の国立博物館で開かれている阿修羅展を観に出かけた。
阿修羅展はもちろんすばらしかったのだが、例によって混んでいたため時間調整も兼ねてT印刷プレゼンツ(言葉は正しくはないが、イメージはこんな感じ)のバーチャルリアリティシアターを拝見してきた。ウチの娘にはむしろこちらの方が好評だったようで、ファミコン世代の感性は大げさな3Dが向いているのかもしれない。最も娘には「T印刷」がバーチャルリアリティコンテンツを作っているところが興味を惹かれたのかもしれないが、NHKなどではなく印刷会社がコンテンツを作っている事に対しての違和感も無いようである。
ルーブルのD印刷、全印工連(両社ともにコンテンツ制作)など、多くのコンテンツに印刷業界は絡んでいるが、もっともっと深く入り込んでおかしくない文化的位置に居るはずなのである。「そりゃ大手さんや余裕のあるところは」という反論が聞こえてくるようだが、HexachromeやKaleidoなどの広色域印刷、特に多色の広色域印刷など大手が中心になってやるとは思えない。外注してしまえば済むのだから。。。
分光色再現でJAGATと協力関係にある株式会社NTTデータだって画像処理という分野では他の光学メーカーに比べたらマイナーに過ぎない。NTTデータ担当者の腰の軽さ(これは最重要)やマインドにシンパシーを感じてやってみようということで始まったに過ぎないのである。最初はなかなか芽が出なかったが、2008年後半から日本中からオファーが沸き起こっている。医療分野で「胆道閉鎖症チェックのためのカラーカード制作 」や患部の献体/病巣の写真など非常に多くの可能性がある。文化財のアーカイブは常識的に予想されたが、日本刀の刃紋を残したいというオファーには正直驚いた。光らせないように正確に刃紋を記録したいというのである。江戸京都奈良という文化財だけではなく、東北の曼荼羅や九州など日本全国からの問い合わせになっている。これも電塾に紹介したことが一つの引き金になって、口伝てで分光アーカイブの重要性が関係方面に宣伝されたことが大きい。
こんなことでNHKにも分光色再現が取り上げられることも多くなってきた。
2009年4月5日(日)18:45~NHK BS Hiビジョン「アインシュタインの眼 」にて山梨県立美術館所蔵のミレー「落ち穂拾い 夏」「無原罪の聖母」をマルチスペクトルカメラ、赤外カメラ、X線などで撮影した結果が放送された。
残念ながら再放送の予定は決まっていないので、Uチューブにでもアップしてみようかとも思うのだが、実物に触れて感動するのも文化だが、最新科学技術で見えるものを勉強し、大昔の人が感動できなかったものに感動するのも文化だと思う。それだけ最新技術というのはすばらしいものである。ミレーの場合なら、心の中まで迫れるような気がする。私は仏像が好きなのだが、そのきっかけになったのが、中学の修学旅行前に観た岩波映画の「仏像の世界」だった。法隆寺の涅槃仏の映像は本物とは別次元ですばらしいものだった。
印刷関係者には、いままで芸術作品のアーカイブを仕事でやってきた方も多いと思うが、ほとんどの方は勘と経験で調子を造ったりしてきたはずである。キレイにし過ぎて失敗した経験もお持ちだと思う。分光撮影は本来の色、色の作り出す調子を正確に再現するので、学術的な価値はRGB(CMYK)とは一線を画すものである。
ミレーの方は放送済みだが、もう一つ浮世絵は再放送分が残っている。興味のある方は是非ご覧いただきたい。
☆ハイビジョン特集「幻の色 よみがえる浮世絵」
☆ワンダー×ワンダー「浮世絵ロマン(仮)」
最後に一言、
これから技術が進歩して分光、それを利用した立体画像(6分光なら半分に視差情報を乗せる)が普及しても、その基礎になるのはXYZ値やLab、標準色域で定義されたRGB情報でやりとりをすれば問題はない。基本さえしっかり理解しておけばどんな状況になっても問題ない。
ただし、理屈抜きに「これくらいの網点(点付き)にしておけば印刷で大丈夫だ」などと信じていてもCTPになったら点付きが良いので全く状況が異なってしまったこと、DTPになって「文字に迫力がない」と文句を言っていたこと、これは全て理屈を無視していたことによって起こるトラブルだった。理屈を理解している会社は「ウチなら大丈夫」と仕事を優先的に持って行ってしまったものだ。職人的な経験よりも理屈の方がビジネスになる時代に生きているということである。(文責:郡司秀明)