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FUJIFILM JetPress720の技術 インクジェットの最新技術 (PAGE2009コンファレンス報告)

掲載日: 2009年05月15日

JetPress720は、多様な印刷用紙にオフセットレベルの高画質を再現することを目標に作ったインクジェットデジタルプレスである。

PAGE2009グラフィックストラックでは、drupa2008でも注目されていた「FUJIFILM JetPress720の技術」について、富士フイルム株式会社アドバンストマーキング研究所の 前野裕氏に話を伺った。 

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アドバンストマーキング研究所は、富士フイルムの中のマーキングを研究していた部門やインクジェットを研究していた部門を統合し、インクジェットのマーキング技術のR&Dを行うということで設立された。神奈川県の開成町にある先進研究所の中に、他のいろいろな基礎研究部門と一緒に入っている。

富士フイルム本体だけでインクジェットをやっているのではない。FUJIFILM Dimatix社は旧スペクトラというヘッドの会社であり、イギリスのFUJIFILM SericolというのはUVと溶剤の非水系のインクジェットインクの会社である。
FUJIFILM Imaging Colorantsは旧アビシアといっていたメーカーで、水性インクジェット用の染料のメーカーである。それから富士ゼロックスということで、合わせて5社で共同してインクジェットのR&Dをやっている。

そういう形なので、富士フイルムのインクジェット事業は結構幅広く、インクはSericolとImaging Colorantsと富士フイルムがやっているし、メディアは画彩というブランドでインクジェットのペーパーを富士フイルム本体でやっている。ヘッドは富士フイルムとDimatixで共同してやっている。さらに、全体のシステムについては富士ゼロックスと一緒にやっている。

インクジェットデジタルプレスは、多様な印刷用紙にオフセットレベルの高画質を再現することを目標に作ったシステムで、ヘッドがDimatix、インクは富士フイルム、システムの設計とか構成は富士ゼロックスという、3社のジョイントでやっているプロジェクトである。

■JetPress 720の商品コンセプト

特徴は、様々な仕事に対応可能なB2サイズ、即ち菊半裁である。最大720~520mmの幅の紙に印刷ができるというのが特徴である。従来の電子写真方式では、A3ノビくらいまでのサイズが主流だったので、そこに対してB2ができるということで、普通の印刷に対応できる。小型のオフセット印刷とほぼ同等の仕事に対応できるというのが特徴である。
1200dpiと4階調のグレースケールヘッドで、これもオフセット印刷並みの画質が出せるということと、シングルパス方式による高生産性ということで、毎時2,700枚くらいが出ている。これらを総合的に合わせて2,000部以下で時間的・コスト的に従来のオフセット印刷より早い、効率的な運用が可能ということを目指している。

また、富士フイルム独自の水性顔料インク技術による汎用紙、即ちインクジェット専用紙ではない紙に対応できる。それから、印刷機の紙搬送方式をそのまま流用して、高い印字精度を実現している。デジタル機なので、当然、バリアブルということも考えている。

これらのコンセプトはどこから来ているかというと、オフセット印刷の特徴である多様な印刷適性、高画質、印字位置精度、後加工適性ということと、従来の電子写真方式デジタル印刷の特徴である前準備時間が短い、損紙が少ない、操作が簡単、バリアブルができる、この両方を実現するということを狙ったものである。

商業印刷の分野は短納期と小ロット化がどんどん進んでいる。我々が調べた結果、2010年でどういうロットサイズの分布になっているかというと、2,000部以下のロットが約40%になるという話があり、印刷会社としては困っているところだと思う。
これを、時間を短縮するというコンセプトで、2,000部までの小ロットを効率化しようと考えている。1,000部のジョブを想定して、オフセット印刷とJetPressの作業を比較してみる。オフセット印刷は、普通、機長と助手の2名でやっており、本刷りのところよりも前準備の時間が倍くらいかかっている。それがJetPressだと、本刷りの時間はオフセット印刷よりも遅いので倍くらいかかってしまうが、前準備時間をうんと短くできるため効率化することができる。

また、小ロット印刷の場合、コスト低減には損紙を減らすことが効果が大きい。我々が調べたところでは、オフセット印刷で4色カラーの場合、200~300枚ロスしている。印刷の損紙が材料原価に占める割合を計算すると28%(約3割)になるということで、ここを減らすというのは非常に効果的である。
現行の電子写真方式のA3のPODだと、オフセット印刷にランニングコストで対抗できるのは500枚から1,000枚くらいだが、我々はそれを2,000枚まで伸ばそうということを目指して、いろいろなところを作っている。

これができれば、工程の短縮ができ、従来のオフセット印刷機、CTPとか刷版のところを除くことができ、中間消費材を削減できる。また、ロット数に応じてオフセット印刷を使ったりJetPressを使ったり、機動的に使い分けることができる。ほぼ同じように、シームレスに使えるということを目指している。オフセット印刷の小ロットのところを置き換えることを目指し、同じように使えることを狙っている。

■JetPress 720の技術

JetPressはシングルパス方式である。シングルパスは、ページ幅ヘッド、ラインヘッドで、ワンスキャンで印字する方式なので、これで革新的な高速化が可能である。我々はプロダクション印刷、いわゆるオフセット印刷に対抗できる印刷方式はシングルパスのインクジェットだと考えている。

ただ、これを実現するためには、ブレークスルーが必要である。例えばヘッドの高密度化、高精度化、いろいろなノズル不良によるムラをどう補正するのか。それから、液滴が普通のシャトル方式のシリアル方式だと、ミリセコンド単位で隣にドットが落ちてくるのに対して、マイクロセックに近いところでドットが隣に落ちてくるので、そのドットの干渉をどう防止するのか。また、スピードを上げれば上げるほど早く乾燥させなければいけないということで、このあたりにブレークスルーが必要である。

JetPressの技術の主要な部分を説明する。枚葉オフセット印刷機を置き換えられる高速・高画質のIJプリンタということをやろうとすると、当たり前だが、オフセット印刷レベルの画質と画像強度を実現しなければいけない。また、オフセット印刷レベルの紙のサイズ・精度を実現しなければいけない。それから、小ロットでオフセット印刷より低コスト、高生産性ということと、プロダクションとしては、生産機としての耐久性とか信頼性を確保しなくてはいけないということがある。

まず、にじみがないということで、画質を取るために、高速凝集、インクを高速に凝集させるという技術を開発した。これはインクの材料とプレコートが主要な技術になる。また、JetPressは水系のインクを使うので、用紙の変形との戦いになる。これを抑制するために、低カール化、水によるカールを減らすということで、溶剤の選択とか、そのために顔料分散技術、それから早く乾燥させるということがポイントである。

さらに、オフセットレベルの画像強度に関しては、バインダーの設計が重要になる。それから熱による定着ということをやっている。ヘッドも、オフセット並みとなると、1200dpiは欲しい。幅も、シングルパスなので720mm必要になる。
それから、高画質を狙えば狙うほど、紙の搬送についても高い精度が必要なので、オフセット印刷と同じ、圧胴の紙搬送方式を使っている。さらに、1つの胴に4色のヘッドを載せることで、色ズレを防いでいる。

画像的には、ムラの補正が必要になる。シングルパスだと全てのノズルを全部理想的なときに出せないので、それに対してどういうふうにリペアしていくかということを、画像処理とか設計でやっている。ヘッドは、Dimatixと共同で開発したヘッドで、DimatixはSAMBAと名前を付けている。シングルパス用の、ピエゾのDODのヘッドである。解像度は、物理解像度が1200dpiある。マトリックス方式にノズルを並べた方式である。ドロップサイズは2plで3段階のグレースケール、0を入れて4階調である。吐出周波数は、バイナリで100キロヘルツまで出る。安定性を高めるために、独自のインク目詰まり防止技術を採用している。

これを並べて、SAMBAヘッドバーという形にしている。720mm幅まで今作っているが、一応スケーラブルで、用途によっていろいろ長さの変更は可能だし、コンパクトということで各色のヘッド間隔を50mm以下にまでできる。
SAMBAのモジュールは、これ1つが1200dpiで2048ノズル持っている。これを一直線に並べて、ヘッドバー、プリントバーを作っている。
これまでスペクトラとか、従来の我々のヘッドでも、個別のヘッドで1200dpiを達成しようとすると、非常にたくさん並べなければいけないが、コンパクトにできるということで、システムの自由度としては非常に高い。圧胴に4色同時に並べられるというのが、このコンパクトネスが効いている。

シリコンウェハーに半導体プロセスで全ての流路構造を作ってしまうということで、幾何学的な構成とか、例えばノズルの位置精度や形状精度が非常に良いというのが1つの特徴である。着弾位置精度、1つのモジュールに2048ノズルあるが、その精度を揃えて狙ったところに落とすというためには、こういう、非常に幾何学的にも精度の高い構造が効いている。

我々はマーキングプロセスと呼んでいるが、インクを打って絵を作るまでのプロセスである。まず紙に凝集剤を含むプレコートを塗布する。その上にインクをジェッティングして、高速で凝集させてそれを止めるということで、ドットの干渉とかにじみを止めて、高画質を実現している。これを高速で乾燥させて定着させるというプロセスでやっている。
このプロセスを実現するためには、吐出精度とか、信頼性をどう確保するか、高速凝集性を確保する方法、紙変形を抑制する方法、高い画像強度を実現する方法ということで、非常に多岐にわたる技術分野について同時にすり合わせて開発する必要がある。
この点、我々は材料技術とか、スペクトラのヘッド技術とか、富士ゼロックスのシステム技術等、広範囲に技術を持っており、我々の得意とする分野である。

紙変形抑制のために、インクによるカールを調べる実験で、短冊状の紙にインクを塗って、片側を固定して、どれくらい曲がるかを調べた。一般的に作っているインクでは、かなりのカールがあるが、溶媒を選択することによって、このカールをうんと減らすことができる。ただ、低カールになるような溶媒を実用化しようとすると、顔料分散とか、そういうところも調整しなくてはいけないので、このあたりは我々の総合力というところで実現している。

具体的な構造としては、まず給紙側から入って、プレコート、ドラムで紙が搬送されて描画部がある。ドラムの上に4色のヘッドが乗っている。その後、乾燥・定着があって、最後にインラインセンサーという検査機が付いている。

Jet Pressの画像といろいろなプリント方式を比較する。オフセットに比べると少し落ちるが、他の方式に比べれば数ランク上だと考えている。これはインクジェットで、高速凝集という技術で、にじまずに、きれいなドット形状が作れているということが効いている。

ムラ補正技術についてだが、シングルパス方式はノズルの数が非常に多い。たしか、1色あたり3万ちょっとのノズルがあるはずである。それを全て理想的に出すのはまず不可能で、位置ばらつきとか体積ばらつきとか、不吐出ということもあり得るので、それを補正していかなくてはいけない。それを、独自のアルゴリズムで画像の補正をかけている。

さらに、検査機を搭載していて、不吐出のパターンを印字中に打って、またムラ検知パターンを打って、それをインラインセンサーで読み込むことで、不吐出ノズルを検知したり、濃度ムラを検知して、それを補正するということをやっている。

■今後

JetPressで1つの技術プラットフォームを作ったと思っている。この技術をベースに今後、いろいろな分野に進出していきたいと考えている。さらに、技術プラットフォームとして、より高速なタイプというふうに進化させていくことを考えている。

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