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今、岐路に立たされている印刷物制作。受発注双方が手を取り合って乗り越えていけたら…。
現代では誰もが毎日の生活の中で相当数の印刷物を見ていることになるが、見る人にとってそこにある情報のインパクトや意味は印象に残っても、その印刷物がどのようなものであったのか、どのように作られたかをいちいち気にしている人はいない。最近はデジタル印刷のカラーであっても、パッと見はオフセット印刷と区別がつかないこともある。しかし印刷物の製造側では、設備ごとの出来栄えを気にするあまり、印刷の方法の良し悪しの議論を、情報のインパクトや意味よりも優先してしまいがちだ。
昔の印刷技術が未熟であった時代、あるいは品質が職人の腕によって左右された時代には、印刷方法や印刷現場の良し悪しは発注者にとって重要な問題であったかもしれないが、今日では印刷方法よりも印刷されるコンテンツを優先的に考えないと、印刷物の役割を誤ってしまう。別記事で自画自賛で滅びる話 (Techno Focus・要登録(無料) )を書いたことがあるが、印刷制作の受注側は印刷発注者の目線で発想するようになれないと、前向きなビジネス展開はでき難い。
特に昨今のような大きな景気変動にみまわれる時は、平時には言い難いこともいえるようになり、業務関係もリセットされることが増えるので、発注者と受注者の意識のギャップは埋めていかないとお互いにスムースな印刷制作ができなくなる。印刷は手間やコストがかかるメディアであり、それに見合う効果がないと、印刷物は次第に回避されることになろう。つまり印刷物も物的価値ではなくメディアとしての価値とか効果を追求するように、受発注ともにもっとフォーカスすべきである。
通販でも新規顧客の獲得に放送を主体にしていたり、またWebを主体にしていたところも、ある程度顧客が飽和してくると、リピート受注を重視して紙のカタログを制作するようになる例が多い。これは紙メディアの方がプッシュの能力が高いからであるが、逆にプッシュが嫌がられるところには送らないような、マイナスを避ける管理方法がなければうまく紙メディアを使えないことでもある。つまり効果を上げられそうなところにフォーカスすると紙メディアの特質が活きる。
過去のモデルである印刷万能的な発想から脱却して、デジタルメディアを含めてさまざまなメディアが棲み分けをする状況を考えて、そのひとつとして印刷には印刷に適した使い方ができるようにならなければならない。これには一般論はなく、例えば販促であれば、どのような商品をどのような人に、どんな局面で伝えるかなど、ビジネスと密着したメディア戦略が必要になる。受発注ともにフォーカスすべきことというのは、こういった試行錯誤をあまり費用がかからないように上手に繰り返して、ビジネスそのものを育てることであろう。
すでにPAGE展来場者の半数近くは発注者や川上の分野の方々であり、JAGATにも印刷物制作をどのように改善すべきかという問合せが頻繁に来るようになった。このような時代だからJAGATとしては受発注双方が印刷物の制作や利用を今日的に見直して、発注者側とともに印刷革新を進めることを目的に、新雑誌「プリバリ印[イン] 」を発行して受発注が2つに分かれていた世界をブリッジする情報提供を始めた。
だからプリバリ印[イン]は、デザイン誌でもないしDTP誌でもない。当然印刷の業界誌紙でもない。それぞれの発注者のビジネスの目的にかなった印刷設計ができるように、印刷物を使うビジネスを改善できるように、今日的な変革するためのヒントを掲載し、今まで以上に印刷の価値が高められて費用対効果が向上することを狙っている。
印刷の価値は今日的には非常に多岐にわたる問題である。コンプライアンス、環境、知財権などについては、印刷物によってそれを作る人の姿勢があらわれてしまう。また印刷物を作る業務にとっては、発注業務の効率化、経済メリットがでる発注の改善が望まれる。印刷物を企画編集する立場では印刷によるコミュニケーションをする能力を向上し、印刷物を見る人へ適切なアピールができる必要がある。
つまりプリバリ印[イン]では、世に印刷物を出すについては知っておかねばならないことや、経済性の向上、コンテンツの向上という3つが大きなテーマであり、しかもこれらのことを楽しく読みながら身につけていただけるように紙面作成を工夫している。なかなか雑誌1冊だけ取り出しても評価はし難いのかもしれないが、ビジネスマンが経済紙を日々読むように、印刷制作に携わる方が定期購読しているうちに、自然に今日の問題に向きあえるようになるものだと考えていただきたい。
『プリバリ印 』
毎月10日発売・5月号発売中