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「NFC」とは、ソニーとフィリップス(現NXP セミコンダクターズ)が共同開発し、国際標準規格として承認された近距離無線通信技術(規格)である。
日本国内やアジアの一部で普及しているFeliCaや、世界中に普及しているMIFARE などの非接触IC カードの上位互換(共有可能)であること、さらにはNFC の通信規格を搭載している機器同士が双方向に通信可能なため、今後幅広い活用が見込める(と考えられている)。
特徴としてはNFC(Near Field Communication)= 近距離通信の名前が示すとおり、通信距離は10cm 程度に限定され、その最も特徴的な機能はカードを「かざす」だけで、簡単にデータ通信が可能になる。
良いことずくめのように思われるが、一時は技術的優位性を持っていたFeliCaがガラケーのごとく世界的には取り残され、またもや規格標準化競争に敗れそうという危機的状況にあるのを忘れてはならない。
もっとも逆説的に説明すれば、国際標準化に敗れたFeliCa陣営がNFC で巻き返しをしようとしているとも取れるのだが?この辺の説明をする前に簡単にICカードの再整理をしておく。
ICカードとはプラスチック製のカードにICチップが埋め込まれ、情報を記録できるようにしたカードである。ICカードは、従来の磁気式カードに比べ100 倍近いデータを記録でき、データの暗号化も可能なため偽造にも強いなどの特徴がNFCある。またIC カードには方式で「接触型」と「非接触型」に分けられている。
「接触型」は銀行のICキャッシュカードに代表されるタイプだが、ここではNFCに関係した「非接触型」に絞って説明する。非接触型IC カードカード内部にアンテナが内蔵されており、非接触型IC カード用リーダー/ ライター端末にカードをかざすと必要な電源も端末の磁界が起こす誘導起電力から賄え、データの送受信ができるカードを非接触型IC カードと呼ぶ。
端末にかざすだけで処理が可能なため、高速処理が必要な「定期券(Suica・Icoca 等)」や「電子マネー(Edy 等)」「おサイフケータイ」などで幅広く利用されている。非接触型ICカードは方式の違いにより分類されており、代表例として以下の3 つが挙げられる。
オランダのフィリップスで開発されたカードシステム「Mifare(マイフェア)」に代表され、世界に広く普及しているISO 規格である。CPUが搭載されているものと、メモリーのみでCPU が搭載されていないタイプがあり、後者は低コストで生産できるため全世界に普及した。日本ではIC テレフォンカードやタバコのTaspo がMifare としては有名である。セキュリティのための鍵長がFeliCaに対しても短かいなど悪い点も目立つが、世界シェアを取ってしまったのは厳然たる事実である。(FeliCa が2.5 億枚に対してMifareは12 億枚)
米国モトローラ社によって開発されたシステムであり、ISO 規格である。CPU搭載が必須となっているのが最大の特徴である。日本ではセキュリティレベルが高いため、住基カードやIC 運転免許証、パスポート等で使われている。金融サービスではこのタイプが使われることが多いようだ。
ソニーが開発したシステムであり、処理速度の速さ(0.1 秒以内の処理)が最大の特徴だ。この特徴を生かし、交通機関の乗車券(Suica・ICOCA など)や電子マネーカードなどで使用されている。現在、日本で普及されている非接触型ICカードの8 割以上がこのタイプだが、世界的には香港やシンガポール以外はMifareより普及度が低いのが現状である。残念ながらISO ではなく、独自規格である。
NFCはこんなバラバラな状況を改善しようと、ソニーとNXPセミコンダクターズが共同で開発した規格で、FeliCa とMifare(TypeA)双方の無線部分での互換性を持つ。この規格は「ISO/IEC 18092(NFCIP-1)」という形で策定され、さらに2005 年にはType Bとの互換性も持つ「NFCIP-2(ISO/IEC21481)」が策定された。
FeliCaサイドから見れば、NFCによってガラパゴスから定期便を持つ伊豆七島くらいになったイメージだが、この先どうなっていくかは何とも言えない。互換性を持つといえハード的なものが主なので、そのままFeliCa が世界的に通用できるという訳ではない。
しかし、これからのキラーアプリ、コンテンツはスマートフォン中心に展開していくことは間違いがないので、Android やiPhone がNFC をサポートすることから、NFCからは目を離せないことは間違いがない。何としても日本のハイテク技術をマヤ文明にしてはいけない。
(『JAGAT info』2012年4月号より)