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最近、「紙」の辞書が話題になっている。NHKをはじめ複数のマスコミでも取り上げられた。『「紙」の辞書』とわざわざ強調しなければならないほど、電子辞書が当たり前の昨今、何がニュースになったのかというと、この当たり前になった電子辞書の世界に、かつての「紙の辞書」が復権しはじめ、部数が伸びているという。
最近、「紙」の辞書が話題になっている。NHKをはじめ複数のマスコミでも取り上げられた。『「紙」の辞書』とわざわざ強調しなければならないほど、電子辞書が当たり前の昨今、何がニュースになったのかというと、この当たり前になった電子辞書の世界に、かつての「紙の辞書」が復権しはじめ、部数が伸びているという。先日、辞書の印刷で有名な印刷会社の社長からも「小学生の辞書が伸びている」という話をうかがった。その理由は付箋を利用した辞書引き学習法というのが人気を呼んで、小学校を中心に「紙」の辞書を利用する学校が広まっているという。各学参出版社でも軽量化、耐久化で対応、部数も伸びているそうだ。
付箋による辞書引き学習とは、常時、机上に辞書を置いてあらゆる教科の時間にわからない言葉があると辞書で確認をし、確認をした言葉に付箋を付けるという単純なことである。チェックした言葉に付箋を付けて増やしていくアナログ行為が子供たちの励みになるというのだ。付箋の数が自分の頑張りであり、その頑張りを友だちにも先生にも見てもらえるのが本人のモチベーションに結び付いているようだ。言ってみればただそれだけのことではあるが、教育面からみると「知的好奇心を身に付けるのに役立ち、遊び感覚でやる気を引き出すことができる」というのがこれを考案した京都の小学校の校長先生の弁である。
教育的見地からは、デジタル教材かアナログ教材かではなく、どのように楽しく利用、活用できるかが、モチベーションを左右するもので、たまたま今回はアナログの紙の辞書に軍配が上がったといえよう。電子辞書より紙の辞書が優れているということではない。しかし、電子辞書にはできない行為が紙の印刷の需要増という大きな効果に結びついたことをよく知るべきで、これは印刷の良さの再発見あるいは再認識である。大切なことは、利用者側からの視点の効果、便利さをもっと追求することが必要である、ということだ。どう作るかでなく、どう利用しているか、どう届いているかを実はもっと知るべきであるが、もしかすると、避けている、とまでは言わないが「面倒だ」「そこまでは自分達のテリトリーではない」と考えてしまっているのではないだろうか。それでは新たしい機能、新しい使い方の発見にはならない。
ある地方の印刷会社で伺った、観光ポスターの話である。顧客は毎年ポスターを作っているが、いつも貼り場所がないと困っていて、たまに物産展があると、パンフレット、ポスターを持ち込んではいるが、多く在庫を抱えてしまい、結局破棄することもよくあるのだという。このようなことを繰り返していれば、そう遠くない日にポスターが姿を消すことは明らかだ。作ることが目的になり、メディアとしての見られ方、伝わり方、伝達場所といったポスター効果にはほとんど関心が払われていない。ポスターが貼られていないという現状を知りつつ、経費削減を嘆いている。
このような典型的な無責任受注の例は少ないにしろ、作ることだけを考える時代は過去のことで、今では作った後のことを考えることが大切で、利用のされ方、流通の仕方、効果、破棄のされ方…という、刷る側とは直接関係がないように思えることが、根本的な作り方に大きな影響を与えることも少なくない。ポスターという単品企画では、価格勝負になる。本来の目的を確認し、それをどう果たせるかを考え、印刷で完結させないで、メディア連携が可能になればそこではじめて印刷が生きてくる。
印刷の持つ機能や強みを生かすには、徹底した利用者視点で印刷を見直すことである。それには発注者、利用者からの情報収集が必須である。そのことが利用製品の改善になり製造制作の合理化にもつながる。顧客側へ躊躇することなく踏み込んでみよう。新たな発見があれば、それはビジネスのタネになる。印刷の作りかたはプロであっても使い方はシロウト。謙虚に学び、印刷をもっともっと役立つメディアにしたいものである。