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Web構築ビジネスの知識を再確認する【クロスメディア研究会セミナー】
Web構築(1) ブランディング、顧客視点、企画・提案力について
クライアントに求められるWeb制作会社とは
株式会社キノトロープ
取締役 福井 幸子 氏
福井氏:
リーマンショック後、私たちの業界も印刷業界同様、とても辛い状況です。広告費、宣伝費が削減され、各企業もWebサイトの重要性は分かってもそこに投資できず、予算を引き出すのが非常に難しい状態です。
さらに、価格崩壊も起きています。Webサイトページ1枚の最低金額ですが、1万円以下、というところもあります。これでは利益はほとんど出ず、企業として生き残れません。そこで本日は、これからどのようにWebサイト制作に取り組めばいいのか、少しでもお伝えできればと思っています。
現在、全国Web制作会社リストに登録されているWeb制作会社は約1900社あり、弊社ではそれらを大きく3つに分類しています。
1つ目は、毎日の情報更新を代行する会社です。これは、印刷会社からWeb業界に進出した場合が多く、会社案内を作成しているのでWebサイトの更新も請負い、文字や画像の修正をしているパターンです。
2つ目は、キャンペーンサイトを得意とする会社です。クリエイティブに強く、代理店と協力し、各種メディアと連携を持たせたような提案ができる会社です。
3つ目は、システムと連携したような大規模なWebサイト全体のリニューアルなど、Webサイトをビジネスとしてどう使うのかという戦略を作ることに強みを発揮する会社です。
弊社はこの3つ目にあたります。
最近ではクライアントがWebサイトにかける予算も少なくなり、Webサイトの使われ方も変わってきました。少し前まで、Webサイトを設けることが目的でしたが、現在は、Webサイトをビジネスにどう活用するのかを一番に考えるところがほとんどです。たとえば、Webサイト経由で問い合わせが何件取れるかということが重要で、「カッコ良いWebサイトを作りましょう」と提案しても、ほとんど響かず、クライアントからは、はっきりとした成果を求められます。それくらい緊迫した状況なのです。
Webサイトをどう使うかと、どう作るかはクロスオーバーしています。多くのWebサイトはトップページからユーザが入って来ることが大前提で作られています。これは、紙の世界では本を頭から読むことが当たり前であるように、Webサイトも頭から見ていく、という発想だからです。
(図1)
しかし、実際そのように使っている人はいません。まず、Google、Yahoo!のページを立ち上げ、検索窓に好きなキーワードを入れ、ヒットしたところから入っていきます。つまり、そのページがユーザにとっての入口になるのです。要するに、ユーザにとってのトップページは検索で刺さった先になるわけですから、そこからどうやって目的のページへと誘導するのか、分かりやすいサイト構造になっていなければ、目的のページには行けないということになります。
ところが、企業側ではトップページを起点に、下位ページへ下りてくることを前提に作っているので、違う階層から入ってきたユーザを誘導できるサイト構造になっていません。これが、ユーザが検索をしていてストレスが溜まる原因になっています。何度も戻るボタンをクリックしなければならず、これを解消しなければビジネスに繋がるWebサイト構築にはなりません。
Webサイトがメディアの1つであることは確かですが、他メディアと大きく違うところがあります。本来、広告は意図して見るものではありません。CMを見たいからTVを見るわけでも、広告を見るために雑誌を買うわけでもありません。しかし、Webサイトだけは違います。検索窓に情報を入れなければ、必要なページに行くことができないのです。ユーザは何らかの問題やニーズを持ってWebサイトに来ています。そのため、制作側はそれに対してベストな答えを出してあげるサイト構築をしなければならないのです。
つまり、Webサイト自体を巨大な百科事典として考えていかなくてはなりません。これが、Webサイトを捉えるときの基本的な考え方です。問題を抱えて検索してくる人に、問題解決ができるコンテンツやベストアンサーを出してあげれば、ユーザは満足します。こんな良い情報を提供してくれた会社は良い会社、ということになってブックマークをしたり、印刷したり、またサイトに来ようと思ってくれます。その会社のブランドイメージを構築しやすくなるのです。
まず、企業とユーザの接点を全て洗い出します。それはもちろん1つではなく、バーチャルだけでもありません。例えば、私個人という営業も接点の1つです。Webサイト、紙1枚でも接点ですし、会社案内もそうです。それらユーザとの繫がりを整理していく必要があります。しかし、その1つの接点でビジネスが完結することはありません。例えば私のセミナーを聞き、キノトロープがいいなと思ってくださっても、それですぐに仕事を頼む人はいません。BtoBサービスの場合、ワンアクションで発注することはほぼあり得ないのです。
ECの場合も商品が届く際は宅配便の人と接し、返品の際にはコールセンターの方と接します。つまり、ユーザにとってはビジネスが完結するまでが1つの企業なので、どの接点でも同じようなレベルのサービス、ソリューションを提供しなければ、不満やストレスを与えてしまいます。そのため、まずは1つ1つの接点を洗い直し、それぞれの役割を考え直す必要があります。つまり、Webサイトだけの戦略を作ってもダメだということです。
自分たちの範疇以外の仕事に手を出すのが怖い、という方がいますが、それでは絶対に成果は出ません。Webサイトがどんなに立派でもリアルの部分に問題があれば成果は出ないし、その逆も然りです。
クライアントがおっしゃることは、本当に成し得たいことの1つでしかありません。100個ある中の1つなのです。例えば、キャンペーンサイトを作りたいと言っても本当にやりたいことは売上げを上げることで、その手法の1つがキャンペーンサイトを作ることだと思っているのです。つまり、クライアントの本来のゴールがどこかを見極めて、そこに導いてあげることこそが大切なのです。そして、そのゴールはほぼ100%売上げを上げることです。クライアントに、本当の目的は売上げを上げることだと認識してもらい、そのための手法を提案します。そうすると案件も拡大しやすく、必要性を理解していただけるため予算も出やすくなります。
では、キノトロープが17年間行なっているWebサイト構築手法をご紹介します。まず、ターゲットの洗い出しを行ないます。ペルソナ(象徴的なユーザモデル)や、属性の洗い出しを思い浮かべる方が多いかも知れませんが、弊社の手法はあくまでもユーザのニーズを洗い出すことであり、属性はあまり関係ありません。
例えば私は20代女性ですが、社内の他の40、50代の社員と、ニーズは意外にも似ていることが多く、考えていることや欲しいものも似ています。しかし、性別、年代、育ってきた環境、使えるお金など、属性は全く違います。ところが、ニーズは同じなのです。つまり、どんなニーズを持った人がユーザか、どんな問題を抱えた人がユーザか、そのようなことを洗い出していくのです。それが私達の言う、「ターゲットの洗い出し」になります。
そして、その問題に対してどう解決していくのか。Webサイト、またはWebサイト以外でどう表現していけばよいのか。構築すべきWebサイトはどうなるのか、というように話を進めていきます。これは優秀な営業のフローと同じで、自分たちのソリューションはどんなユーザにマッチングするかを考えていく工程が必要になるということです。
そこで、ユーザシナリオを活用します。
(図2)
まず、ユーザが宣伝、広告、Webサイト、テレアポなどのどこかで、クライアントのサービスや製品を認知します。そして、関連するキーワードでサイトに入ってきます。最後に、資料請求や問い合せ、購入といったサイトの「おち」があります。この一連の洗い出しのためには、クライアントのWebサイト担当者、広報や経営戦略の担当者のみと話していてはダメです。その先にいる営業の方と話してください。その企業が一番受注できるパターンの営業フローを聞くべきだからです。
リアルのビジネスで行なわれていることとWebサイトに掲載されている情報は本来イコールでなくてはなりません。ところがここに乖離があり、Webサイトの情報量が少ない、あるいはリアルで伝えていないことが書いてあるなど、その差異に担当者は不安や不満、問題を感じます。これを埋めていくことがWebサイトの戦略になります。
そのためにリアルのビジネスでどのようにものを売っているのかを把握する必要があるのです。ものを売るという行為に媒体の差はないのです。Webサイト特有の売り方などは架空論で、結局は商店街のような、ワン・ツー・ワン・マーケティングなのです。
Amazonも魚屋さんも同じです。「何とかさんいらっしゃい」から始まり、その人がどれくらい魚をさばけるかというリテラシーも知っているわけです。そして、購入したら、他の魚を薦めてくれ(レコメンド)、そういえばお宅の息子さんが近所でたばこを吸っていたと、という付加情報までくれます。これが日本に昔からあったワン・ツー・ワン・マーケティングです。これをいち早く展開して大成功したのがAmazonなのです。
このリアルなサービスをどこまでWebサイトに持ってこられるか。お店とWebサイトという媒体をどれだけイコールにできるか、これが大切なのです。そして、そこにWebサイトとしての戦略が必要になるわけです。
営業やお店のおじさんには必ず戦略があります。営業戦略のない会社なんて聞いたことがありません。魚屋さんだってちゃんとあります。それなのに、今まではWebサイトだけ戦略がなかったのです。だから、特別なものとか、特別な人だけが使うものと思われていたのです。
もう少し細分化したものが(図3)です。
(図3)
左がユーザの動きで、会社のサービスを認知し、どういう情報を取得して商談を申し込み、購入したかというフローです。そして、その時々に発生するユーザのニーズを書き出します。このニーズの情報を持っているのがコールセンターの方々や営業です。
ここで、それならユーザ調査やアンケートをとった方が良いのではないかと言う方がいますが、実は、アンケートの声は偏っていることが多いのです。ですから、まんべんなく色々なユーザに接している人から情報を吸い上げた方が、生の声をたくさんもらえます。そこからユーザニーズを洗い出した方が、バランスが良いのです。
そして、ニーズに対して出すべき情報を書き出していきます。ここで注意することは、Webサイトで完結するビジネスはないのですから、リアルでやるべきこととWebサイトで出すべき情報を分けるということです。一緒にしてしまうとクライアントの担当者が困ることになります。
例えば、サポートはWebサイトでは完結しませんので、コールセンターの電話対応が必要です。Webサイトで返品の申し込みがあった人への対応はリアルで決めてもらうことになりますし、返品の仕方や手続きはWebサイトでできます。つまり、これが切り分けです。Webサイトとリアルそれぞれの「ToDo」をしっかり分けて書いていくのです。
この方法ならば、企業側だけの意向でもなく、また私たち制作会社側だけの視点でもない、ユーザが欲しい情報という目線で必要な情報の洗い出しができます。これが一番素晴らしいのです。これが、見てもらえる、使ってもらえる、ビジネスとしてインパクトのあるWebサイト構築に必要な作業なのです。
まず、Webサイトに出さなければならないコンテンツをグルーピングしていきます。つまり、会社概要、商品に関する情報、サポートに関する情報というように情報をグルーピングしていくのです。そして、エクセルで整理します。
(図4)
次に、ユーザにとって優先順位が高いかどうかを書いていきます。ユーザにとって、まず初めにやらなければいけないコンテンツなのか、後で良いのかということです。また、すぐに必要な機能なのかという優先順位もチェックします。ところがこれが丸く収まらないのです。ユーザにとっては優先順位が高いけれども企業にとってお金がかかるとか、今は情報として出せないなど、なかなか調整は上手くいきません。
しかし、この際に、やめるという判断はしないでください。どういう形なら実現できるかという代替案を出してください。それができることが皆さんのバリューなのです。シナリオ作りは難しいですがやればできます。しかし、代替案を出すということは難しいのです。
ユーザがほしい情報にできるだけ近づける代替案を出していくことが大切です。そうすれば、設定したシナリオを崩さず、狙い通りのサイトに落とし込めるわけです。これは無理だからやめましょう、と1つでも諦めてしまうと、シナリオの導線は破綻します。
これは営業ならいつもやっていることです。「いや、それは無理です、できないですね」という営業はいないと思います。絶対に実現させるため努力をして情報集めをしているのです。Webサイトでも同じことで、そうすることによって、理想論から現実論に落とし込んでいくことができるのです。
ユーザシナリオを作っていくサイト構造を弊社ではマルチエントランス構造と呼んでいます(図1)。今までのサイト構造はトップページからユーザが進んで行く考え方でした。しかし、弊社のシナリオはユーザの入口はニーズの入口である、という考えです。そこから、導線を引くための構造になっています。ですから、ユーザの実際の利用の仕方と企業が作っているサイト構造のねじれが直ってくるわけです。
さらに、1つのページ内でのシナリオも考えなくてはいけません。そのページ内でどんな情報を見せるかということです。
Webサイトほどブランド構築が得意なツールはありません。例えば、トップページに置いても読まれないようなブランドコンテンツ、志や想い、考えも置き場所によっては読んでもらえます。この会社ってどうなのかなと思っているときは意外と会社や社長の考えを読むものです。また、私たちのような営業の人間は必ず読みます。
つまり、どのコンテンツどう見せるかはユーザの欲しいタイミングの合わせることが大事なのです。そうなると、キャンペーンページはトップページにリンクを張っても無駄です。商品を見たい、比較したいと思っている人が見るページに置けばクリック数は上がるのです。このように、ページ間のユーザシナリオだけでなく、ページ内でどう見せるかも考えてください。
例えば、Webサイトをリニューアルしたいと思っているターゲットユーザを同じ状態であると一括りにしてしまうことは危険です。
そこで、ターゲットユーザを3分割します。1つはロイヤルカスタマーです。弊社の価格帯も知っているような、言わばあうんの関係です。もう1つは少し異なり、価格を知りたい、競合優位性を知りたい、キノトロープのサービスの強みやソリューションを知りたいというニーズを持っている企業です。さらに、もう1つはまだまだニーズも定まっておらず、ニーズの顕在化がされていない全くの新規になります。
Webサイトをリニューアルしたい、というだけでもこれだけの違いがありますから、同じアプローチをしてもダメだと言うことです。ロイヤルカスタマーに比較検討のデータを渡しても仕方ありません。しかし、比較検討しているクライアントにはできる限りの情報を与えなくてはなりません。
一方、ニーズが定まっていない場合は、顧客満足度を上げましょう、集客をしましょうとこちらからできるだけニーズの喚起をしてあげることが大切です。このように、それぞれに出すコンテンツも全く変わってきます。3つのグループに同じ製品情報を見せても訴えられないし、例え同じ製品情報でも切り口を変えます。これは、リアルの営業では当たり前のことですが、Webサイトでも同様にステージングを考え、どこに焦点を当てるかを工夫します。
本日は1つ、Webサイトですぐに改善できるポイントをお伝えします。ぜひ、自社のWebサイトに問い合せボタンを2ヶ所設置してください。1つはファーストビューで見える範囲、もう1つは全部のページが終わった後です。これだけでお問い合せが増えると思います。ただし、全ページで同じ場所に置いて下さい。お問い合せ、資料請求などのアクションを起こすボタンが、ずっと同じ場所にあるものがベストなWebサイトと考えます。これはユーザビリティの学習という意味で同じ所にあることが大切です。ユーザが覚えてくれるのです。
(文責:JAGATクロスメディア研究会)