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文字処理システムの変遷(2)−印刷100年の変革

●活版印刷の原点は活字

印刷の原点である木版印刷から、活字を使った活版印刷へと発展したのが近代印刷の始 まりである。

従来活字といえば金属活字をイメージするが、活字の概念は「文字」という意味を表し ている。活字は「生きている文字」のことである。つまり活字は解版(組版を解体)して 何回でも使えることが、一枚の木版(整版)とは異なっているのが特徴である。

1.活字の便利さと厄介さ

金属活字は、溶融して繰返し使えるという便利な材料であるが盲点があった。つまり繰 返し使うためには、印刷後に解版し活字を戻す作業が必要になる。活字とインテル、クワ タなどの材料を選別する作業で、解版工という作業者が行なっていた。

活字鋳造機を設備し自家鋳造を行ない、毎日新しい活字を鋳造していた印刷企業はよい が、自家鋳造能力をもたない中以下の活版印刷業者は、この解版作業により活字を再使用 していた。この作業はインキで手が汚れ、石鹸では簡単に落ちないからずいぶん嫌われた ものだ。

この活字を活字棚(うま)に戻すときに、作業者が違う文字ケースに入れることがある。 これが文選作業の際の誤字・誤植の原因になる、という問題もあった。また新しく鋳造し た活字も活字棚に入れる作業が伴うが、この作業は文選の見習工が行なう。

どの文字が、どの文字ケースにあるかを熟知していないと作業能率が悪い。この見習工 が熟練すると文選工に昇格するわけだ。

2.文字・画像統合の木版技術

印刷技術は一枚の板に文字や画像を彫刻する木版(整版)の擦刷方式から、16世紀にな って活字版印刷技術の渡来により、印刷方式に大きな変化が起きた。つまり整版方式に代 わる印刷方式である。

活字の誕生から文字と画像が、生産性の問題から別処理になったわけであるが、昔の木 版制作技術における文字・画像統合処理のコンセプトは、まさに現代のDTPにおける文字・ 画像統合処理である。

異なることは、木版が高度な手工芸に対して、DTPはコンピュータとソフトを使ってい ることである。人間がコンピュータ上でソフトを使って処理しているに過ぎない。色と画 像に対する感性と感覚は、コンピュータがない時代の木版技術の方が素晴らしいものをも っているといえる。

活字は鉛合金を溶解して、母型と鋳型を使い鋳造して造るが、この母型製造方法にも歴 史的背景がある。多くの先人たちが、活字のための母型開発に苦労していたエピソードが、 多くの印刷史の書物に記述されている。

当初の近代的な母型製造方法は、米国で開発された電鋳法(電胎法)を、1870年ころ本 木昌造がアメリカ人宣教師の William Gamble(ウイリアム・ガンブル)から伝授され採用 したものである。

しかし漢字・仮名活字については、本木昌造以前の1600年ころから活字鋳造と母型製造 の研究には多くの先人達が関わっている。その詳細については紙面の関係上別な機会に譲 るが、活字に関する貴重な諸資料が展示されている凸版印刷の「印刷博物館」の見学を薦 めたい(つづく)。

他連載記事参照

2001/02/17 00:00:00


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