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HPエレクトロインキ技術

 IT等の進化に伴い,パーソナライズ印刷などを中心に,従来の印刷からデジタル印刷へ移行するものが増加してきた。デジタル印刷機の特徴や使用されるインキについて,日本ヒューレット・パッカード(以下,HPという)の町川 肇氏にお話を伺った。

HPのビジネス戦略

 HPのビジネスは大きく分けて以下の4つのコアグループがあり,それぞれが独自のソリューションを提供している.
1.パーソナルシステムズ事業(PSG)
 旧コンパックコンピュータであり,PDAやノートパソコン,デスクトップなどパソコン事業を行っている.
2.イメージング・プリンティング事業(IPG)
 旧称インディゴデジタルプレスも入っている.他にカラーインクジェットプリンタ,レーザプリンタ,最近ではプロジェクタも扱っている.
3.エンタープライズストレージ&サーバ事業
 日本HPでは比較的規模が大きく,スーパーコンピュータなども扱っている.
4.HPサービス事業
 主にコンサルティングを行っている.
 製品ごとのマーケットシェアをリストアップすると,レーザおよびインクジェットプリンタやサーバ販売など各グループが持っている一番大きな商材に関しては,常に世界1位または2位という位置付けになる.

 ワールドワイドに展開しているが,地域ごとの売上構成を見ると,アメリカ,ヨーロッパが各4割程度と強い.アジアはインディゴも含めて,最近急激な成長を見せている.2004年度は約16%であるが,伸び率が一番高いのはアジア太平洋地域である.
 HPの戦略は,ハイテク,ローコスト,BestTCEである.BestTCEとは,Total Customer Experience,すなわち顧客満足度である.
 ビジネス戦略として,HPが対象にしている市場は以下の4つにセグメントされている.
1.エンタープライズ
2.公共機関,
3.中堅・中小企業
4.一般消費者

インキのコア技術

 インディゴの創業は1977年であり,印刷業界には浸透している.創業時は後のコア技術になるエレクトロインキの技術はなかった.1980年に開発をはじめ,市場に製品を投入できるようになったのは,1993年である.
 1998年にHPと戦略的提携をして,2000年にHPから投資を受け,2001年にHPの傘下になった.最近では他の印刷機械との統合で,Digital PressをIPGの中に統括する仕組みができた.

 また,昨年度初めてイスラエルの外にインディゴの技術を持ち出し,シンガポールでインキ工場の稼働を始めた.これはアジア市場の急激な拡大に対応するために先行投資したものである.2005年,長いテスト期間を経て,Indigo press 5000をリリースした.
 1993年当時は,インディゴ製品は1種類しかなかったが,現在は7製品になっている.2つの大きな市場向けに異なるものを出している.1つは商業印刷であり,もう1つはラベルやパッケージングに使用する産業印刷向けの機械である.両方において輪転型,枚葉型があり,すべてに共通するのは,コア技術のエレクトロインキである.

 デジタルプレスにおいて,一番大きく影響するのはインキ技術である.比較しやすいものとして,一番普及している粉体トナー技術,ゼログラフィーがあり,これは歴史的には70年以上にわたって製品が出されており,成熟した技術といえる.
 最近では化学的に均等のトナー粒子を提供することもあるが,どんなに洗練されたトナーの生成方式でも,粒子サイズが大きい.最新鋭ハイエンドでも,5〜6μmの粒子サイズを持っており,一般的に使われているものは10μmを超える.

 これに比べ,HPエレクトロインキの特徴は,触手状なのでいろいろな原反(素材)に貼り付く仕組みであり,サイズは平均して1μmである.
 したがって,紙の表面に入り込むことができる.紙の持っている表面の凹凸に忠実なインキのレイヤを形成できる.  これはたいへん重要なことである.紙のグロス性を100%再現する方法は,何も塗らないことである.凹凸に対して上に何も乗らなければ,100%オリジナルの紙の風合い,グロス性が再現できる.しかし,大きな粒子が乗ってしまうと紙の持っているオリジナルの風合いは保てない.

印刷速度と粒子サイズ

 インディゴ製品は,シングルエンジンで多色展開している.それに比べ,粉体トナー系のデジタル印刷機はマルチエンジンである.マルチエンジンの理由は,機械的に制限が発生するからである.
 粉体トナーベースは,印刷機のスピードを上げると粒子サイズを大きくしなければならないという原則がある.粉体のためスピードを上げるとコントロールしにくくなる.その解決策として,粒子サイズを上げざるを得ない.したがって,1色のプロセススピードを落としてマルチエンジンにすることにより,全体的な印刷処理速度を上げる仕組みである.
 現在シングルエンジンで展開しているのは,製造コストの安さとメンテナンスが容易なためである.将来的には,マルチエンジン化も可能である.

 粉体トナーは粉が原反に乗り,熱を与えることによって溶けて定着する.それによる制限は,素材を選ぶということである.高温になるので,素材が溶けてしまうフィルム系のものは難しい.
 エレクトロインキの場合は,インキにブランケット上で熱を与えることによって,インキが瞬間接着剤化する.この瞬間接着剤が触手状の形をしているので,冷たい原反に貼り付くという原理を使っている.したがって,プラスチックのフィルムやPP(ポリプロピレン),PE(ポリエチレン),合成紙にも幅広く定着することができる.定着の良し悪しはあるが制限はない.

HPエレクトロインキの成長余力

 エレクトロインキの成長余力を考えると,1990年代初頭からいろいろな技術が出て,パフォーマンスが向上している.オフセット印刷はすでに成熟している.ゼログラフィーに関しては,一般的な技術成長曲線から見ると成熟したものであり,これ以上のジャンプは難しいといわれている.
 それに比べ,LEP(liquid electro-photography),すなわちエレクトロインキの場合は1980年代からの若い技術である.品質的にはオフセットと同等に来ているが,今後インキの技術開発という意味で大きな成長が見込まれる.これもHPがインディゴのコア技術の成長を買った理由である.

 エレクトロインキは印刷の過程でインキの粒子に荷電させるという特殊なメカニズムを持っている.インキが乾状のときは荷電されていない.印刷機の中で印刷する際荷電される.荷電することにより,電気的にインキの粒子を制御できる.結果として,細かい粒子も伴って,テキスト等の仕上がりも向上する.
 また,エレクトロインキはオフセットの仕上がりと同等の品質が実現できる。接着剤化したインキが原反に刺さっていくという原理である.さらに,接着剤なので速乾性があり,後工程へ直ちにつなげることができる.

(テキスト&グラフィックス研究会)

2005/12/11 00:00:00


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