本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

Web2.0は新しい革袋に新しい酒を入れる

お話 株式会社 電通関西支社 インタラクティブ・コミュニケーション局長 秋山隆平氏

聞き手 日本印刷技術協会 副会長 和久井孝太郎

和久井: 秋山隆平氏は、「ホリスティック・コミュニケーション」(宣伝会議 2004年)という本を著され、「アクティブ・コンシューマの出現で進化する広告と販促の境界」について平易に説明されている。まずそのきっかけとなったインターネット広告について伺いたい。インターネット広告はラジオを抜いたというが。

秋山氏:雑誌の広告費には制作費が入っているが、インターネットの広告費には制作費が入っていない。制作費を入れればラジオは抜いて、雑誌にもかなり近づいた段階である。ただ、誤解が多いが、インターネットはプラットフォームであってメディアではないので、私には「東京駅がのぞみを抜いた」というような感じに聞こえる。
インターネットの上にいろいろなメディアが載ってくる。インターネットがラジオを抜いたというなら、今年始まるIPラジオはどちらにカウントするのかという問題が起きてくる。 インターネットはあくまでもプラットフォームで、その上にバナーもあれば検索型の広告もあれば、GyaOのようなネットテレビもあれば、IPラジオも載ってくる。その数を直接比較するというのは、私はよくわからないという気がしている。

和久井: 著書では「メディアの足し算効果ではなく、掛け算的な要素も大きい」とあるが、秋山氏のクロスメディアの定義はどういうことになるのか。マーケティングツールとして掛け算的な要素も大きいと読めるが。

秋山氏:私はクロスメディアはクロスマーケティングのための1つの手段だと思っている。 今までのトラディショナルなマーケティングに対して、そこからシフトしようとしているパーソナルなマーケティング、あるいはもっとTPOを細かく裁断していく新しいマーケティング、ナノマーケティングというものの組み合わせがまずあって、そのためのメディアの使い方がクロスメディアだろう。単にメディアをたくさんあちこちに使っても混乱するだけで、何のためのメディアミックスなのかわからない。

ホリスティック・マーケティングはP&Gではかなり積極的に使われている。これは統合マーケティングと違う。統合マーケティングは1990年代初頭の概念で、トラディショナルなマーケティングのパラダイムの中で、さまざまな戦術を組み合わせて統合していこうというものである。
ホリスティック・マーケティングはコトラーの言葉だが、トラディショナルなマーケティングと新しいマーケティングのパラダイム統合というか、それを組み合わせていくもので、この考え方に則ったメディアの使い方がクロスメディアだと考えている。

和久井: トラディショナルな方は、マスメディアを使った広告(Above the line)と、SP(Below the line)といわれるチラシやDMやイベント等であるが、また新しいインターネット、PC、携帯電話が出てきている。

秋山氏:今までは広告と販促(SP)があって、どちらかというと印刷は Below the line が多かった。その Above the line と Below the line の境目がなくなって、それをクロスしていくという考え方になってきた。携帯電話自体、境目がない。そこに1セグで広告を入れるとマスメディアである。その店に行って二次元コードを読むと、これはSPメディアである。今までSPだ、広告だと言っていたものを、全く切れ目なく連動してプランニングしていくということである。 簡単に言えば、1セグの広告CFの中にコードを入れておき、そのコードが携帯に載って、店に行って使うとクーポンになるとか、そういうふうな連動の仕方である。

和久井: どのように広告と販促の連動に取り組んでおられるのか。

秋山氏:私は東京本社に入社して、6年間マーケティングにいた。4〜5年前からインターネット広告が出てきて、デジタルコミュニケーション室を立ち上げ、それが今インタラクティブコミュニケーション局という形になった。この局ではインターネットと携帯電話のデジタル系の広告を販売している。
その中には、業務推進部、インタラクティブメディア部、eプロモーション部、インタラクティブクリエイティブ部、それからインタラクティブマーケティング部の5つの部署があり、eプロモーション部はCRMやデジタル系のプロモーション作業をする部で、ICタグや二次元コードを手がけている。
インタラクティブクリエイティブ部は、インターネット広告やデジタル広告、携帯電話用の新しい広告のためのクリエイティブの作業をする。インタラクティブマーケティング部はネット上の口コミをモニタするなど新しいマーケティングをやっている。

インタラクティブコミュニケーション局は電通という組織の中でのミニエージェンシーの位置づけで、必要なすべての事業所が揃っている。従来のトラディショナルな広告営業の人はあまりデジタル系に詳しくない。我々はワンストップ型のミニエージェンシーとして相談してもらうし、人を教育しては返していく。
二次元コードもこちらで開発して、会社も作った。待っていて、商品ができてからそれを使うというのでは間に合わないので、どんどん企画して、自分たちも一緒になって武器も開発しながら、それをどんどん使っていく。1セグをどう使うかという場合も、キャリアと組むのか、電波を送る放送局と組むのか、それともそれが使える店の方と組むのか、いろいろある。

和久井: マス広告とSPとの境界がなくなってくると、電通さんはいろいろなSPとはどういうふうに組んでいるのか。

秋山氏:どちらかというと得意先がなかなかついてこられないことも多いので、こういう新しいアプローチ手法があるということで、一緒に提案に行く。ただ、バグとか、データベースの故障で、トラブルが起きることが多いし、個人情報保護の問題もある。一度失敗すると、何億という保証額になってしまうので、小さい会社がそういう技術を持ってもなかなか任せにくい。
我々としては暗号化されている二次元コードで、懸賞応募などをしたときに、改ざんしにくいようにしている。雑誌・タウン誌的なもので、お店の小さな広告のスペースでは紹介しきれない日々のランチとか、変わっていくものは、二次元コードで携帯から取っていき、あまり変わらないお店の場所とか電話とか、基本的なお店のコンセプトは、雑誌で広告をやっている。

和久井: ここ2〜3年の大きな流れはどのようなものか。

秋山氏:得意先が、今までの枠組みの中だけでは売れなくなっている。メーカーは「利益を全部流通に持って行かれる」と言うし、流通は「ナショナルブランドのメーカーのものは売っても儲からない。」など、今まで通りではうまくいかないという話になってきている。
今までのトラディショナルな広告というのは、雑誌とか新聞だと「場所 プレイス」にどう入れるかである。ラジオテレビ欄の下に入れる、雑誌も、表2、見開き、とか表4とか、あるいは看板も、銀座4丁目の角なのか、新宿3丁目の角なのかという、どこの場所に入れるかが大切であった。電波メディアは「時間」で、8時台のゴールデンタイムに入れるのか、3時に入れるのか、朝入れるのかが問題であった。

大量生産、大量販売、というトラディショナルな枠組みは、全部崩れはしないが、どんどんパーソナルになる。あるいは、日経ビジネスなどはナノマーケティングと言っているが、TPOに合わせたマーケティングをする。TPOのOは、そのとき、その場所、での「オケージョン」である。
オケージョンに関しては、グーグルがG-mailというフリーメールを用意した。ただで使える代わりに、送ったメールは全部検索する。例えば、女房に「今日はカレーがいい」というメールを送ると、それを検索して、それにハウスカレーの広告が入ってくる。デジタルメディアでTPOのどういうオケージョンに広告を入れるかが焦点になる。スーパーマーケットの中の、ピンポイントの売り場に入れることだってできる。そういう組み合わせに、どんどん変わってくるのだろう。

和久井: インターネットのブログの効果は、アメリカでは大変上がっているようだが、日本の場合はどうか。

秋山氏:口コミをバズマーケティングと言うが、これが非常に購買に影響する。これを意識的にすると消費者の反発を受けたり、不買運動を受けたりすることが多い。一般の人に影響力のあるアルファブロガーがたまたま良いことを書いてくれたのなら非常にいいが、それが裏で企業が書かせたことがわかったりすると、反発をくらう。
ネット社会では、企業が何か不正なことをやっているとなったら、情報が一斉にあっという間に広まる。電通はどういう形でブログとかバズを利用していくか内規を作っていて、反社会的なものは一切やらないなどの注意事項,が書かれている。各企業もそういう形になっていくだろう。

またアメリカではマイクロソフトがコーポレートブログといいながら、技術開発担当者の個人的な意見をどんどん書いている。会社の批判もしたりしているが、日本ではなかなかそれは許されないので、公式見解のようになってしまってあまりおもしろくない。
たまにおもしろいものを担当者が書いても、会社の中で「これは広報を通してくれ」というようになって、広報が規制をかける形になる。魅力的でないと、みんな見に来ない。今までよりPR費が安くなると思っても、人が見に来なければ仕方がない。

今までのWebは古い革袋に新しい酒を入れるもので、昔ながらのビジネスモデルにインターネットという新しい酒を入れていた。ところがWeb2.0は新しい革袋に新しい酒を入れるというふうに変わってくる。
典型的は、ブリタニカオンラインという、ブリタニカという百科事典をインターネットに載せただけのものがいわゆるWeb1.0だが、Web2.0はウィキペディアで、皆が作る。今は携帯電話とインターネットは分かれているが、IP携帯が来ると、完全にPCとコンパチになり、Web2.0が進む。

アメリカのWeb2.0の考え方は、自動的にフィルターがかかる。ウィキペディアというのはみんなが勝手に作っていくが、一応ボランティアの検査する人がいる。そういうものも含めて、放っておいても自然に、わりとうまくいくという考え方である。
とにかくみんなの力を信じる、ラディカル・トラストと言って、放っておくとみんなが悪いことをするというよりも、結構世の中はいい人が多くて、任せておけばわりといい方向に行くという考え方になっている。

慶応大学の湘南キャンパスの国領教授が言っているのは、「マスメディアは中心から末端への情報の到達コストを格段に安くさせる。インターネットというのは、末端から全体への情報の到達コストを格段に安くさせた」ということである。私は、これは非常に卓見だと思う。だからブログ等が一斉に増えてきている。それは末端が情報発信するコストが安くなったためである。
今までコミュニケーションは中心から末端にいかに情報をばらまくかという話だったが、これからは確実に末端の情報をどう吸い上げてまた末端に戻していくかということだと思う。そういう1つの循環構造のようなものを考えなければならなくなっている。

和久井: 近未来的なメディアの話まで、貴重なお話をどうもありがとうございました。

秋山隆平氏プロフィール 1949年京都生まれ 慶応義塾大学経済学部卒業後、電通入社。国内留学で慶応義塾大学大学院経営管理学科を経てMBA取得。帰社後、味の素ゼネラルフーズ担当。1986年に関西支社転勤で、松下電器産業担当。1999年よりデジタルセクションに移動。インタラクティブ・マーケティングの体系化に取り組む。

関連記事

デジタルワールドの5年間の変化をふりかえる (1)
デジタルワールドの5年間の変化 (2)
デジタルワールドの5年間の変化 (3)
デジタルワールドの5年間の変化 (4)
デジタルワールドの5年間の変化 (5)
デジタルワールドの5年間の変化 (6)

2006/06/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会