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新たなる経営管理の手法についての考察

最近、ビジネス書やビジネス雑誌などで、ちらちらと見受けられる「ナビゲーション経営システム」というものをご存知だろうか。読んで字の如く、経営をナビゲートするシステムと言うものであり、興味をそそられたので少し内容を垣間見てみた。経営管理手法の全体体系を議論するものであるが、JAGATで提唱する部門別利益管理(PMP)システムが、財務の視点というカテゴリで、最も経営の主軸に設定でき企業の現状と進捗を計数的に測定できる、と言う展開が可能である。PMPシステムは、経営管理における主軸として、部門別の利益管理を、きめ細かく実施可能であり、改善や革新への足掛かりを提供する。ナビゲーション経営の中で、PMPの展開がある程度想定できる点を議論したい。概略は以下のようなものである。

■全体概要
 背景は、経営者が経営管理として行う、PDCAサイクル(計画−実行−チェック−アクション)を、極めて簡単かつ明快なツールを用いて行いたい、と言う潜在的な経営者のニーズに対応しようというものである。
 そのツールとして、JAGATではPMPシステムを提唱してきた。ナビゲーション経営におけるBSC(バランスドスコアカード)は、経営の羅針盤となるもので、財務、顧客、業務プロセス、学習と組織、の4視点で管理する。この財務の視点では、企業経営の状況や進捗を計数的に把握し、適宜改善・修正を行うと言うものである。さらに、ここが大きな特長の一つであるが、この4視点は平面的に個別に管理するものではなく、各々が「因果関係」を持って結び付けられていると考える。

■各視点における設定項目と因果関係
 BSCの切り口を使って、その各々が「因果関係」、つまり一つのカテゴリが別のカテゴリの目的となることで、全体を体系化することを示す。
@経営戦略立案: まず経営環境(内部・外部環境)をS-強み、W-弱み、O-機会、T-脅威を切り口に分析したものと、経営者の経営理念によって経営戦略を立案する。
A財務の視点: 「経営戦略」を実現するための、適切な「財務」面での目標となる指標をKPI(Key Performance Indices)及びKGI(Key Goal Indices)として設定する。実はここがミソで、印刷企業の場合、特に適切な指標を部門別に設定するなど、必要となる業績や成果、進捗をきめ細かく、明確に設定することでこのシステム全体の品質と効果が決まる。
B顧客の視点: 「財務の視点」で決めた目標となる指標を達成するためには、どの様な顧客に、いくら売る必要があるかを決める。ここでは経営戦略で新たに定義した自社の顧客や得意先について、新規顧客・既存顧客の割合、顧客別のサービスや高付加価値化の展開方法などを決める。
C業務プロセスの視点: 「顧客の視点」で決めた顧客や得意先へ製品やサービスを効率的・効果的に提供するために、社内業務(開発、調達、製造、配送、など)のプロセスを再定義する。ここでは範囲が広くなるが、印刷業では生産管理、情報システム、などが主な検討項目になろう。
D学習と組織の視点: 「業務プロセスの視点」で定義した生産や情報システムなどを管理、運用、統制、などができる組織や人材を確保・育成する。特に個々の業務スキルに加え、組織間のコミュニケーションや意思疎通も、スムースに行える組織が必要になってくる。

ここで、上記の各視点が、各々因果関係で結ばれている。つまり、経営戦略の実現のために、財務指標(KPI、KGI)を設定し、その達成を目指す。財務指標を達成するために、顧客への具体的な展開を図る。といった具合である。
 上記の各視点は、このように因果関係で結ばれているわけだが、ここでよく考えると、経営戦略については、凡そ現代の印刷企業においては、戦略が無い企業などありえない。そもそもどの様な顧客にどの製品をどの様に販売しているかは、経営者であれば、明確に文書化されていなくても少なくとも頭の中には描かれているはずである。そうでなければ、商売が成り立たない。もちろん、現状の戦略が最適かどうかは、大きく変化する経営環境を考慮すれば議論の余地があり、場合によっては見直すことも必要であろう。しかし、その場合でも、自社の生存し戦う土俵の定義は、その業界で長年蓄積したノウハウ、人脈、などから情報の入手は可能であろう。

■まずは財務の視点から
 問題は、次の財務以下の視点である。財務から業務プロセスの視点までは、短期的な意思決定事項であり、学習と組織は中・長期的な意思決定事項であることにお気づきであろうか。特に内部人材を育て、企業の求める人財への育成は長期に渡る。仮に外部から必要なスキルや能力を持った人材を採用できたとしても、組織を再設定・開発し有機的・効率的に機能させること、ましてや文化や風土を育てるとなると、かなり長期的・計画的な取り組みが必要になる。
 このことを考えると、現在の印刷企業は、まず財務の視点を、きちんと設定し、進捗を把握し、KPIやKGIの達成度合いを管理していくことが喫緊で必要となろう。生業的な組織から機能分化され一定レベルまで成長した企業においては、更なる成長に向けて、部門別に業績への寄与度を独立して把握しなければならないのである。 現在の成熟化を遂げた市場では、売上至上主義から利益獲得主義、利益創出主義への転換は必定であろう。管理するべきは売上以上に利益なのである。その利益に対して、各部門が協力するとともに、独立して獲得していく文化が根付く必要があるのである。

JAGATでは、経営管理層を対象として、マネジメント講座として、部門別利益管理システム(PMPシステム)を定期的に開催している。詳しくは教育開発部(03-3384-3112)までお問い合わせ頂きたい。

2006/06/28 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会