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クロスメディアを印刷会社のブランドに

有限会社ゲイン 代表取締役 杉山伸一

顧客も印刷会社もビジネス環境の変化にさらされている

印刷業界は今、かなり大きな変革の波にさらされている。この環境の変化に、これから印刷業界がどの方向に向かっていくべきなのだろうか。
さて、かつてJECのセミナーを受けた時に、企業とは「環境適応業」であるという言葉が心に残った。
「環境適応業」とは、適応できなければ、そこからもう退くしかないというストレートな表現である。それが現在の印刷業にも当てはまると言えるだろう。また印刷業のみならず、あらゆる業界が変革の時代にある。何となくそのような具合に変わっていることは認識していても、自分の会社がどのように変わっていけばよいかが分からない。また、個人的にもどのように変わればよいかが、なかなか見えてこない。つまり、現状は顧客も自社も課題を抱え、生存競争に直面しているということである。ここで、顧客もというところがポイントである。
印刷会社は今はどこへ行っても、例えば新規開拓でも価格競争になる。顧客は「安く、早く」と、注文を付けるが、その裏に顧客側にも大変な事情がある。顧客は顧客の業界で生き延びていかなければならないのであり、そのためにやるべきことを考えた結果、印刷にも目が向いてくる。
だから、顧客と自社との関係も「変化」を余儀なくされている。顧客と印刷会社の関係は10年前ぐらいからだいぶ変わってきているが、それ以前はいい関係であったと言える。顧客と印刷会社の社長、または先代が、一緒に苦労しながらお互いに成長してきていた。ところが、時代が変わり、顧客の事情が変わり、世代交代もしてきた。当然、ビジネスの環境も変わってきた。それで顧客と印刷会社の関係も変わらざるを得ない。これまで、ずっと「あなたのところへ印刷物を出すよ」ということをできたものが、顧客も、それでは立ち行かなくなってくる。
そのような状況に「変わらなければ……」と思っている印刷会社の経営者、経営幹部、社員は多い。しかし、思っているだけでは変わらない。その変化に対応するために、課題を整理して、課題解決力を強化しなければならない。言葉にすれば簡単であるが、実行していこうとすると難しい。
これらを実践していくには、まずは考えることをしなければならない。ただし、考えただけではだめで、それを実行しなければならない。「挑戦」である。例えば、部下が挑戦したいということであれば、経営者、上司はできるだけ挑戦できるような環境を用意する。ただし、結果をきちんと分析し、評価して、次の挑戦に備えるというサイクルが必要になる。また、1回の失敗で×印の評価をしてしまうようでは、次の挑戦がしにくくなる。できるだけ繰り返し実行していくことが必要になる。これらを個人として、組織として行っていく。

崖っぷちこそチャンス

経営者の悩みに「収益が増えない、確保できない、人材が育たない」という声は多い。最近まで、このようなセミナーでは、「今の皆さんのビジネスが将来、右肩上がりで上へ行きますか」または「このまま現状維持できますか」あるいは「右肩下がりになりますか」という質問をすると、経営者が多い時には、残念ながら「右肩下がり」という回答が非常に多かった。それは、この印刷業界そのものに対する心配であろうし、経営者として何か肌身で感じていることもあるのだろう。そのような具体的な問題として、収益が増えない、印刷の量は増えているがなかなか利益が出る体質にならない、経営者が思っているほど人材が育たないということが言われる。
今、新規開拓を行おうとすると消耗戦になる。新規開拓は自社にとっては新規でも、ほかの印刷会社が既に仕事をしているわけだから、そこから仕事を取ろうとすれば価格競争が起こる。そのような消耗戦では営業が、「何かありませんか」と言うだけではなくて、顧客のことをきちんと調べて、顧客が困っていることを事前に調査しておき、それに対する提案ができているかどうかが問われる。それが「考える」ということである。
「何かありませんか」という営業では、ほとんどルーチンで、何も考えていないことに等しい。それが悪いということではなくて、このような状況になると、プラスアルファの行動を起こさないとそこから先へはなかなか進めない。受注できても、あまり利益が出ない値段でしか取れないことになる。従って、そういう状況を打ち破るには営業側としては、常に顧客のことを考えながら提案していく必要がある。一方、製造側では、下がる値段に対して製造コストは無駄がないかを検討しなければならない。製造コストをぎりぎりに抑えていく努力が必要になる。
次にポイントになるのは、「重要顧客」への対応である。ビジネス上、新規開拓は必要であり、力を入れている企業は多いが、なかなか思うようにいかないものである。その場合、既存の重要顧客の存在がより高くなる。
重要な顧客は、いつまでも関係が続き、そこから必ず仕事が受注できるものだと想定して活動しているから、非常に売り上げの比率は高くなっているケースが多い。そこには甘えがあり、また当然のように取引をずっと継続できるものと思っている。しかし、前述したように顧客のビジネスの環境も常に変化している。もしかすると印刷業界より極端に変化しているかもしれない。そのような顧客の動向をきちんと把握した上で、印刷物の提案をしているのかどうかが問われる。重要な顧客に対しては、「うちはパートナーだから」という思いがあるかもしれないが、本当に顧客側が今もパートナーとして見てくれているのか、これからパートナーとして付き合いをしていこうと思っているのかを確認できているだろうか。
3つ目は、「新事業へ挑戦したい」という場合に、新しい事業を展開するための方針と体制をもっていることがポイントになる。
ビジネス環境が変化している中で、何も対策を取らないとまさに崖っぷちに追い込まれるだろう。しかし、しっかりした対策が取れれば、逆にビジネスチャンスにつながる。その時に重要になるのが経営者のリーダーシップである。これまでのリーダーシップに、もう一段階強いリーダーシップの発揮が求められる。加えて次世代ビジネスを展開できる人材の育成が必要になる。

デジタル化から始まったクロスメディアビジネス

クロスメディアは、印刷業界にとっても次世代のビジネスである。これまでは印刷という視点でビジネスを見てきた。つまり自分たちの業界は、紙にインキを乗せて印刷物とするビジネスであると考えてきた。今は次第にそれだけではない世界に入りつつある。つまり、「クロスメディアの世界」であり、紙メディアだけではないメディアも一緒に扱っていかざるを得ない状況になってきている。
少し歴史を振り返ってみる。印刷業界のデジタル化の歴史についてまとめた表を参照してほしい。
この「デジタル化の歴史」から読み取れることは、一つは印刷業界にかかわらず、インターネットや携帯端末、デジタルカメラの発展がビジネス全般に多大な影響を与え、産業構造を大きく変えたことである。次に印刷産業内を見てみると、印刷メディア制作にかかわるデジタル技術にDTPを中心として取り組み、飛躍的な進歩を遂げた。インターネットをベースとするクロスメディア対応ニーズが拡大している。注目すべきはインターネットと印刷の融合である。このほか工程管理(MIS)などソフトの比重が高くなってきている。印刷経営者は、クロスメディア時代に対応するための判断と決断を強いられるだろう。
現在、「クロスメディアは印刷産業へ」というチャンスが到来しているのであり、クロスメディア全般もきちんと扱えるようになることがビジネスを行っていくポイントになると私は思っている。 しかし、単にクロスメディアを扱えるようになるだけではなくて、周りから見た時に、クロスメディアなら印刷業界と思われるようなブランドにしていくべきである。

『プリンターズサークル7月号』より一部抜粋

2006/07/01 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会