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Adobeの外で蛇行したPDF

PDFは電子文書の標準として広範に使われるようになり、まだIEなどのブラウザでネイティブに使えないが、今までPDFを無視していたMicrosoftも、今後のOfficeでついにPDF対応をするようになる。事務所でPDFが重宝がられる理由は文書の保存目的ということが多い。PCのアプリケーションで作った文書は何年も経つと、アプリケーションがなくなっていたり、バージョンが変わっていてヘタな操作をすると壊してしまうことがあるからだ。

特に多数の人が膨大な数の文書を作成する場合は、保存文書が適切に作られているかチェックするだけでも大変なので、PDFに統一してしまうことは大いにメリットがある。PDFは異なるコンピュータ環境間で文書交換する目的であったのが、10年間は保存しなければならないなど、時代を超えて読める文書というニーズに応えなければならない面も出てきた。PDFは文書の長寿命化にも寄与するので、PDFのサブセットでアーカイブのファイル仕様を決めようという動きもある。

こういった一般的なPDFの普及と、印刷分野のPDF/X何々でファイルを渡すというのは別の歩みに思える。むしろPDF/Xの起源はPDFよりも古いもので、実は規格としての役割の最も肝心な点はPDFでなくてもよいものである。たまたまDTPがPostScriptのドライバを標準にしているから、PDFに相乗りしたようなところがある。

元来PostScriptはオブジェクト指向の中で登場したもので、そのことはPDFでもタッチアップできるところに引き継がれているように、フレキシブルな機能がメリットであった。しかし同時にPostScriptの宿命のようなもので、アプリケーションのバージョンの違いでデータの作り方に差が出るとか、RIPのバージョン違いでレンダリングに差が出るなど、ファイルを作るところと出力するところが異なると再現性の完璧な一致が難しかった。

印刷業界の希望はCTP出力に際しては、全く「フィルム」のような安定性をデジタルで確保したいので、PDFの機能を制限するPDF/Xが生まれた。このことは通常の新たな規格作りが将来の用途拡大を想定して行われるのとは正反対で、限定された用途のために行われるもので、ルール違反ではないが、建設的な規格とは言いがたい。例えるなら画像ファイルをCMYKにするかRGBにするかというようなレベルの問題は、データの受け渡しをする際に送信・受信両者の間で自動的に確認できればよいだけの話である。

すなわちプレフライトチェックの条件を表しているのと同じで、確認すべき制限条件・処理範囲を記述する規約が一つ出来れば、その応用でいろんな分野で同一のサブセットであるかの自動チェックが出来るようになる。印刷分野に限らず、PDFの浸透とともにいろんなサブセットの要求が出てきているので、PDF何々が氾濫しない方向で規格のあり方を考える必要があるだろう。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 2006年5月号より

2006/07/02 00:00:00


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