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変革の進む出版市場

2005年出版市場の販売額は2.1%減

 出版科学研究所の調べによれば2005年の出版物販売額は2兆1,964億円,書籍が2.5%減,雑誌は1.8%減,合わせて2.1%減であった。特に販売額の約58%を占める雑誌は,過去8年で販売部数が30%以上減少するなど需要の減退がはっきりしてきた。 しかしながら,文庫の販売金額は2.0%増の1,139億円と細木数子の「六星占術」のヒットによる貢献は大きいものの2年連続で前年を上回っている。コミックスも4.2%増の2,602億円となり,ついにコミックスが0.5%と微減で10年連続の販売部数減少となったコミック誌の売上高を逆転した。コミックスの売上高が2,600億円台乗せしたのは初めてという。
 このような形で出版販売額自体は減少しているが,その内訳を見ると読者の定期誌離れが続く一方,インターネットや掲示板で話題になった「電車男」などが売れる「ネットセラー」が目立つようになり,映画などの文庫化やコミックス化によって売上を伸ばすような市場に移行しつつある。

上昇する返品率と物流コスト

 大手書籍取次各社の2005年度も,営業利益ベースで見れば実質的な減益決算が多く,大手出版社も減収や減益決算となっているところが多い。金額返品率は書籍が前年より2.0ポイント増の38.7%,雑誌は1.2ポイント増の32.9%と上昇しており,年間では12億冊以上の書籍が市場に出回るから,これらの送品や返品の増加が出版社や取次店の物流コストを押し上げていると見られる。
 出版流通に関わる各社は,POSデータの活用などマーケティング技術高度化により,約39%に達する返品率改善に向けた適正発行部数の算出や物流改善,買取仕入を条件に書店に高マージンを約束する責任販売制などを進めている。仕入数・発行部数・販売数,いずれもデータマーケティングによらなければ正確な予測はできず,今後の出版市場はPOSデータ活用の有無や技術が勝敗を分けていく公算が強い。

徐々に変化する市場構造

 返品率改善へ向けた取り組みは言うに及ばず,出版市場が縮小する状況の中,各社は利益を確保するため様々な変革に取り組み始めている。再販制度下における「トレーディングスタンプ(ポイントカード)」導入は公取が推進し,ICカード認証の実験も進む。2大書籍取次会社のひとつは,5月の株主総会で40代の新社長を選任した。賛否はあるがポイント制や定価より値引く謝恩本販売など構造的課題の検討も進んでおり,将来的には定価販売制から競争的な市場に移行していく可能性も否定はできない。
 再販制度下における定価販売制,返品可能な委託販売制の下で,他メディアに較べ決して効率的とは言えない市場を築いてきた日本の出版市場は,インターネットやフリーペーパーなどが1つのメディアとしての確かな地位を固めるなかで,今後どのような地位を再獲得していくのだろうか。

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2006/07/20 00:00:00


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