国内でDTPやデジタル・プリプレスの導入が始まった頃、情報も少なく、また機能も今ほど豊富ではなかった。技術スタッフにとっては、ある意味で時間をかけて技術を理解することができた時代であった。
たとえばDTPになって初めてフォントという製品が登場した。電算写植ではシステムの中にフォントが含まれており、フォント製品の構成や技術的な仕組みについて理解する必要はなかった。判らない事はメーカーに問い合わせるだけで、すべて解決することができた。
DTPになると、フォント製品を購入して自分でインストールをおこない、どの文字が使用できるかを確認したり、また、文字が印字されないなどのトラブルに対処するために、文字コードや描画方法を理解する必要に迫られた。さらに、フォント、DTPソフトウェア、プリンタ、フィルムレコーダなど多くのメーカーを横断したシステム構成のため、トラブルの際にメーカーに聞いても的確な解決策も示されず、自身でノウハウを修得せざるを得なかった。
当時プリプレスのデジタル化に関わってきた技術スタッフにとって、新しい製品や技術が発表されるたびに、それを理解し修得することで、自らの成長につながっていた。
現在、DTPおよびプリプレスのデジタル化は、環境が整備され、成熟の段階に到達している。たとえば、フォントがどういうファイルで構成されているか、どういう仕組みで描画されているのかを知らなくても、フォントをインストールして利用することができる。
世の中には、すぐに使うための解説書やトラブルを回避するための「○○してはいけない」という情報が行き渡っており、「なぜそうなるのか」を深く理解せずとも利用できることも多い。
新たにDTP、プリプレスのデジタル化に関わる技術スタッフにとって、かえって基礎的な技術を理解しにくい状況となっている。多くのことが当たり前となっており、なぜそうなるのか深く考えずに受け入れてしまうこともある。さらに、DTPは印刷分野だけでなく、コンテンツ管理やWeb、クロスメディアなど幅広い分野とも関連が大きくなり、理解しなければならないことも大幅に増えているだろう。
若い技術スタッフにとって、DTPや印刷プロセスのデジタル化技術の基礎を理解する意欲が少なくなっているとは考えたくないが、その機会が減っていることは否めないだろう。
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