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これからの印刷とイノベーション その2

JAGAT副会長 島袋 徹

2. 顧客の事業のイノベーションに参画する基本姿勢

イノベーションとは狭義の技術革新にとどまるものではなく、社会、生活などのライフスタイルに大きな影響を与える商品、サービスの創造であると言われる。DTPによる製版工程の合理化は技術革新と言えるが、新しい商品やサービスの創造が伴っていなければイノベーションとは言い難い。印刷業の中で先進的な企業が顧客と協業する中で新しい商品やサービスを創造する事例が出始めていることで分かるように、印刷業はイノベーションに参画できる可能性を備えている。

印刷業がイノベーションに参画する基本姿勢の第一は印刷業が受注産業であるという立場の認識である。自社の製造物である自動車を直接マーケットへ販売する自動車会社であるとか、自社で企画した金融商品をマーケットへ販売する証券会社であれば、自社が主体となってイノベーションに挑むことができる。

印刷業は顧客を通してマーケットを見ることになるので、イノベーションは顧客との協業なくしてはあり得ない。ところが印刷業の顧客は規模、業種の面で実に多種多様である。しかもイノベーションへの取り組み方は顧客ごとに異なるので印刷業サイドは極めて複雑な対応が必要になる。つまり一筋縄ではいかないということである。

次にイノベーションはこれまでの技術革新とは別のものであるという認識である。印刷業がこれまで経験した技術革新は自社の製造部門や管理部門の効率を追求することであった。これは自社内のことであって、目的、手段、投資効果などあらかじめ予測を立てることが可能であった。これからのイノベーションは常に顧客との協業の中で「新しい価値」を生み出すことを考えなければならなく、単なるコスト削減や納期短縮では満足してもらえない。イノベーションに対応するということは、結果の予測が難しいことにリスクを覚悟して挑戦することなのである。

イノベーションへの対応はリスクを伴うため受け身であってはならない。なぜなら顧客との協業を進めるにあたって、受け身に回ると大きな波に振り回されて潰されてしまうことも起こり得るからである。自社の企画力、営業力、技術力などを正確に把握した上で戦略を立て、主体的に対応することでリスクを最小に抑えるべきである。 印刷業が関連するイノベーションは革命とは違う。短期日のうちに経営環境が一変することはない。対応を焦って闇雲に突っ走ることは禁物である。しかし、イノベーションなくして企業が継続して利潤を上げていくことはできない。自社のドメインをしっかりと見極めて経営戦略を立て、顧客の事業のイノベーションに不退転の決意をもって参画すべきである。

3. イノベーションに取り組む人材の育成

イノベーションは新しい製品やサービスを創造し、われわれの生活や仕事のスタイルを変えるものと言われる。この点から見て印刷業が関連するイノベーションの基盤はクロスメディアの発展と普及にある。

今後の人材育成のポイントは基礎知識の習得を出発点とする組織立った教育を積み重ねることである。印刷業は長い歴史の中で培った豊富な経験をもっている。これらを尊重することはもちろんであるが、これだけを武器にして後は'がんばれ、がんばれ'という精神力に期待するのではイノベーションに対応することは難しい。クロスメディアの技術の基礎知識に加えてメディアとコミュニケーションの変遷なども考察できるようにならなければならない。マーケティング、マネージングの知識も必要である。

イノベーションへの対応は全く新しいことであるため、意図して業務展開の場を設定しなければならない。そこで若い人に実務を任せ経験を積ませることが大切である。たとえ若い人に任せたあるプロジェクトが失敗したとしても、その経験は貴重な財産であって将来必ず役に立つ。イノベーションの人材育成は先行投資であって、目前の利益追求とは区分したほうが良い。

印刷業はDTPという技術革新に見事に対応してきた。そのパワーをもってすれば、これからのイノベーションに必ず対応できるものと確信する。

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2006/08/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会