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製本後加工の動向

自動化が求められる後加工機

 製本後加工も小ロットが進んでいる。もちろん大ロットもあるが極小ロットが増え二極化されている。再版ものでも、極端な例では数十部というオーダーも入ってくることもある。しかも、納期がないものが多い。
   アメリカのある大学で調査した結果によると、2020年にはロット数の全体で約47%が2000部以下、納期は全体の約49%が24時間以内になるのではないかと推測されている。 プリプレス・プレスの分野では、CTPやDDCP、印刷機の一発色だし、一発見当など自動化が進み小ロット・短納期化への対応は進展している。
 ここにきて後加工機もようやく自動プリセット機がでてきた。ある機械メーカーの出荷台数でも2004年までは全体の90%がマニュアル機だった。それが2005年は40%が自動プリセット機ということからみても徐々に増えているという動きがある。
 今年開催されたIPEX2006でのキーワードはオンデマンド、デジタルワークフロー、バリュークリエーションであった。後加工で付加価値をいかにうみだすかが大きなテーマになっている。

後加工工程のこれから

〔1〕オンデマンド
 周知のようにオンデマンド印刷は大手も含めて多くの会社が取り組んでいる。これに対応する後加工がブックオンデマンドである。ブックオンデマンドは顧客からデータを受け取り、プリンタで出力して、インラインでホッチキス留めする簡易製本が主流だ。このような機種は多く出荷されている。

〔2〕デジタルワークフロー
 印刷物制作の上流から下流までの情報流通のための共通フォーマットはJDFあるいはJMFと呼ばれている。CTPなどのプリプレスの出力装置と印刷機にはJDF/JMFデータの入出力インターフェースをもつ装置が一般的に発売されている。このシステムの実用化がポストプレスでも始まった。
 デジタルワークフローはポストプレスにもメリットがある。まず統一した情報伝達フォーマットがあるので、機械を選ぶ際にひとつのメーカーに縛られる必要がない。例えばA社の機械を次工程でB社の機械に接続させることができる。
 もうひとつは、稼動している仕事の進行状況やコストがどのくらいかかっているのかという経営情報をリアルタイムに把握できることだ。このことにより従来までドンブリ勘定でやられている工場の経営がもっと透明になる。また、紙の作業指示書の代わりにJDFデータを各製造機器に渡せるので、オペレータによる人的なエラーが少なくなる。
 このシステムが導入されたアメリカのある会社の中綴製本の事例をあげる。従来は準備時間が平均して68分でそれに対し最長最短の時間差が20分あった。自動プリセット機を導入したときは準備時間の平均は半分の34分となったが最長最短の時間差がまだ14分あった。この状態だと生産日程計画が立てにくい。そこでJDFのデータフローをリンクすると準備時間は自動プリセット機と大きく変わらないが、最長最短の誤差が4分になった。このため生産管理が精度よくできるようになった。

〔3〕バリュークリエーション
 印刷物には印刷されたコンテンツの価値、品質の価値などいろいろな価値がある。そしてポストプレスの役割は、印刷物の持っているこれらの価値にさらに付加価値をつけることだ。ここで課題となるのは付加価値をつけることが生産性を阻害しないようにすることだ。複雑なことは手作業でやれば付加価値はつけられるが競争力をもてない。利益を生み出す付加価値をつけるために機械化をして労働集約的な作業から脱却しなければならない。

実用化が期待されるICタグ

 今のところ、ICタグを取り付けた本は市場には流通していない。ICタグについては出版業界でも外郭団体をつくり、また大手印刷会社を含めてICタグを取り扱う会社とも一体となりいろいろな規格づくりのための実証実験をしている。
 まず、ICタグが顧客に簡単に抜き取られては全く意味がない。本のどの部分にどのように挿入したらいいか実験中だ。現段階で一番いいといわれているのは本の表紙だ。しかし、本の綴じは種類が多い。無線綴じとアジロ綴じの場合、接着剤を1ミリ前後の厚みで塗布してその中に押し込むことはでき、テストも行われている。しかしそれ以外の綴じ方(中綴じや上製本)の場合、本のどこに入れたらいいかまだクリヤーされていない。
 流通関係で大切なのがトレサビリティだ。ICタグが付いていれば製造の履歴の確認や入出庫の管理をすることができるが、どこまでの情報が実際必要なのかまだ検討中だ。また、コストの問題もまだ解決されていない。ICチップも大量生産が進んで安くなっている。しかし、一番のターゲットとしている文庫、コミック類は基本的な単価も安いことからどこでコストを吸収できるかが問題である。世間的に問題になっている万引き防止対策としてのICタグへの期待も大きなものがある。

PUR製本とEVA製本の比較

〔1〕PUR接着剤の長所
 PUR(Poly Uretane Reactive)は他用途としては一般的だが製本用接着剤としては比較的新しい接着剤である。EVA(Ethylene Vinyl Acetate)系の接着剤に対し接着強度、耐熱耐寒性、リサイクル性、耐インキ溶剤性で優れていることから注目をあつめている PUR製本がでてきた背景の一つには開きの良い製本をつくりたいというニーズがあった。
EVA系の接着剤でつくった本は根元まで開かず、無理に開くと壊れる。これに対しPUR製本は360度開いても壊れないことを目指している。例えば地図などのように片手でもっても閉まりにくく、料理するときにみるレシピブックように置いても閉じない本がないかというニーズだ。

〔2〕EVA接着剤の長所
 EVA系の接着剤はコスト的にも納期的にもメリットがありで今でも主力で使われている。コスト面では今のところEVAのほうが安価だ。単純な単価でEVAに対しPURは約2〜3倍といわれている。しかし、普及が進めばPURのコストも落ちてくることが予想される。
 EVAはチップ状になっている糊に熱をかけて溶解し冷やして簡単に接着が完了する。したがって、仕上げ断裁をすればすぐ出荷できる。これに対しPURは大気中、用紙の中に含まれている水分と化学反応をおこして固まるという湿気硬化型だ。厳密には塗布量によっても違ってくるが、丸1日放置しておけば完全な強度がでるといわれている。したがって、PURは水分を遮断した容器に保管しておかなければならないことから専用設備も必要だ。

〔3〕環境問題
 用紙を再生するときに糊のついた本を釜に入れて溶かす際にEVE系の接着剤は溶解されて除去できないので一般のEVAではエコマークの認定を取得できない。これに対し、PURは熱に強いため用紙と一緒に釜の中に溶かしても完全な分離除去ができる。このことからエコマークの認定を取得しようとしたときに適した接着剤である。しかし、PURには専用設備が必要でありこれをもたない製本会社が環境問題にどう対応したらいいかということででてきたのが難細裂化改良型EVAホットメルトだ。
 これは釜の中でも溶けにくく、固まりとなって溶解釜のフィルタで除去できるように改良された糊である。この糊だとエコマークを取得できる。

接着剤の今後

 PUR接着剤はその接着強度が評価されている。それが市場のニーズであり、環境問題とからめて営業展開すれば会社のアピールにもなる。しかし、現状での短納期への対応やコスト的なことを考えるとすぐに切り替えられるものでもない。特に専用設備には初期投資が必要なためEVA接着剤の需要を上回るにはもう少し時間がかかるかもしれない。

2006/08/25 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会