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クロスメディア・パブリッシングの必要性と実現への課題

日本オラクル株式会社 アドバンストソリューション本部 Content Managementソリューション部 高橋輝匡

インターネットのブロードバンド化が急速に進んだおかげで、企業のみならず、個人のレベルでも安価で高速なネット回線を利用できるようになりました。このことを出版業界に当てはめると、印刷を手掛ける企業とフリーで活躍されているデザイナーの方々が、インターネットを介して密に連携できるようになります。そうすることで、クロスメディア・パブリッシングがより一層加速していくと予想できます。とは言え、クロスメディア・パブリッシングを実現するには、越えるべきいくつかの障壁があることも事実です。
連載の第1回目では、出版業界でのニーズと現状のギャップを元に、クロスメディア・パブリッシングの必要性とそれを実現するための課題について紹介します。
出版業界においては、情報システムに関するさまざまな試行が従来からなされてきました。DTPシステムの変遷は、次のような段階に大別できます。


*WYSIWYG(What You See Is What You Get):コンピュータの画面に紙に印刷したときと同じイメージを表示できる機能

パソコンによるDTPファイルの制作システム

1980 年代に、主にMacintoshを使ったDTPが始まりました。これは文字どおりデスクトップ・パブリッシングという意味ですから、パソコンを単体で利用することを目的に考えられています。つまり、本や雑誌の紙面を丸ごと画面に表示し、WYSIWYG*で作業ができるというのが当時の一番の利点でした。ネットワークでの共有などは、後々の技術の進化に合わせて対処してきた背景があります。よって当初のDTPの世界では、紙面(≒画面)を一つの単位として管理する考え方で、一人の作業者は担当した紙面をDTPソフトで作り込むことに全力を注いでいました。

ファイル単位のネットワークDTPシステム

その後、ネットワークの普及とともに、DTPファイルの共有やデータベースを利用した自動流し込みの仕組み(自動組版)が登場し、「データベース・パブリッシング」と呼ばれ期待されました。しかしながら、出版社で当時使用されたデータベースがパソコンで稼働する簡易なものであったことなどから、本格的な自動組版の実現とは言い難いでしょう。
このような歴史の流れから、出版業界ではまだまだ「デスクトップ」の考え方が主流になっています。多くの出版社ではMicrosoft Excelで作成した台割をコピーして配布し、原稿や画像をEメールで受け取り、ローカルのコンピュータやファイルサーバに保存するといった作業が、現在でも行われているのが現状です。
またメディアのあり方も、ここ数年で大きく変わろうとしています。つまり「紙媒体主体の時代の終えん」です。というのも、紙媒体のみの時代は書籍のサイズなり様式と、本文は一体のもので、紙面に合わせて組版の設計もされたし、編集・校正が行われていました。しかし電子媒体の時代を迎えると、Webのように行の折り返しが読む人の設定に依存している場合は、様式と内容を一体に作り込むことはできません。
今日では紙媒体よりも、デジタル媒体のほうが圧倒的に多様化しています。そうなると、情報発信をする人や組織にとっては、それぞれの情報伝達の目的に合わせて、これらの媒体をどのように組み合わせるのか、またどうすればコスト対効果が高いかを判断することが難しい課題になってきています。
しかし、どのようなメディアの組み合わせがよいかについての決まった答えはありません。 メディアを組み合わせた総体を把握することは困難で、サービスを提供する側も使う側も、また情報の受け手にとっても流動的なものです。今回の組み合わせが効果的だからと言って、次回も有効であるとは限りません。常に効果的となるように、各種メディアを素早く組み替えられる必要があります。 このように、紙媒体や電子媒体など、さまざまなメディアの共存できる環境となる「クロスメデ ィア」が、ますます重要視されてきています。紙媒体だけなど、今後は単一メディアだけで済むビジネスは非常に狭まっていき、顧客ニーズに合わないものとなっていくでしょう。
クロスメディアでは、要素ごとのバラバラのデータ(メディア)から成り、それらを組み立てるための関係付けの情報、時間軸に並べる情報が別にあります。そして、裏側ではコンピュータがそれらの情報管理をしています。これらの処理のお陰で、各メディアの付加価値を最大化できるのです。
結局、クロスメディアにおける仕事、言わゆるクロスメディア・パブリッシングとは、それが紙に出すものでも画面に出すものでも、「部品」、つまりメディアを用意して、それを即座に組み立てて見せることです。それはプロが行う制作の局面でも、最終ユーザーの局面でも同じと言えます。
さらに印刷業者のビジネスモデルも、大きく変革を迫られています。現状ではホームページ制作の仕事割合が大きくなっていますが、それも次第にデータベースからテンプレートに自動的に流し込む無人編集へと変化しつつあります。かつてなら原稿を集めて編集して、ページ組みして、印刷していた紙媒体は、Webの掲示板やブログのように、先にデザインのテンプレートが作られている中に、書き手が自分で文章を入れ、同時に多くの人が見て、反応も書き込まれるものとなります。
こうなると、クリエイティブやデザインのテンプレートを作る仕事以外は、減少していくことでしょう。つまり、クロスメディア・パブリッシングの作業がますます増大化していくと言えます。

クロスメディア・パブリッシングを実現するためには

ここまでで、出版業界でのニーズと現状のギャップ、およびクロスメディア・パブリッシングの必要性について記述してきました。クロスメディア・パブリッシングを実現するためには、一般に次のような課題が考えられます。

■各種メディアの価値向上
・データの一元管理
・コンテンツのマルチユース
・マスター画像データの管理と運用
・紙以外のメディアへの配信システム

■作業の効率化
・ワークフロー(進捗管理)システムの導入
・コスト管理(正確なコスト算出とトラッキング)
・システムの統合化(画像管理/基幹系など散在するシステムを統合)

■外注との効率的なデータ受け渡し
・データ管理の不備によるバージョン違いや不正閲覧
・不明確な受け渡しルール(Eメール/FTP/郵送などの混在=複雑化)
・郵送などによる受け渡しの時間ロス

第2回目以降では、これらの課題をITシステムによって「どう解決できるのか」について紹介してまいります。

『プリンターズサークル』9月号より

2006/09/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会