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MISと情報活用

世の中にナレッジマネジメントのキーワードが出現してから相当の時間が経過(少なくとも7年以上)しようとしている。ナレッジマネジメントは、個人が社内外の企業活動において得られた知識を、他の人にも共有化し活用することで、より高い生産性を目指す経営技術である。SECIモデルが有名であるが、知識には暗黙知(自己内にあるアイデア、イメージ、概念、経験など言語や図像として表せていないもの)と、形式知(他人が理解しやすい言語や図像に変換された知識)があり、知識変換の活動として、
(1)共同化(暗黙知の獲得、蓄積)
(2)表出化(暗黙知から形式知への変換)
(3)連結化(形式知の統合、伝達)
(4)内面化(形式知の取り込み、体化、体得)、
の4プロセスをサイクリックに回すこと、を提唱している。

■企業の競争優位の源泉
 現代の成熟市場において、売上増大という量的拡大は困難になってきており、企業が競争優位を築くには、質的な経営資源の蓄積と活用が重要になってきている。具体的には、営業個人で持っている顧客の情報や競合情報、取引履歴情報、などを共有化することで、効率的な営業活動、顧客の真のニーズを捕らえた提案、的確なサービスやフォロー、によって価格競争に陥らない受注活動を実現すること。また、ベテラン技術者や高いノウハウを有する職人の高度な技術ノウハウ、不具合や故障原因、業務フローへの懸念や疑問、などを共有化することによる、生産性の向上、コストダウン、を実現すること。などが期待される。

■ナレッジ経営のインフラ
 ナレッジマネジメントの実現には、上記の4サイクルの構築と運用が欠かせないのであるが、零細企業のように規模が小さく、人と人とが絶えず情報交換をする場が日常確保され、生きた情報の量が少なければ、それこそフェースツーフェースの対話やメモが最も即効性があり確実かもしれない。しかし、ある規模以上の組織になり、情報量や情報の種類も増加すると、人の脳ではもはや対応しきれない。そこではやはりコンピュータシステムなどのツールがどうしても必要になってくる。

■印刷企業はナレッジの宝庫
 印刷企業においてはその業種特性上、個別受注生産であり生産工程が多岐にわたっており、社内外においては相当のノウハウやナレッジが存在しているはずである。業歴の長い企業であるほど、その情報資産は相当程度と思われる。しかしながら、情報を戦略ツールとして的確に活用している企業は、相当少ないのが現状であろう。比較的規模が大きく、各工程を連携し自動化が進んでいる企業であっても、情報は個人ベースに留まっているケースが多い。

■いかに入力させるか
 この様に、4サイクルの中で、印刷企業は共同化、つまり情報の収集、蓄積はの事業形態で相当程度進んでしまうのである。問題は、それを除く3つのサイクルである。個人ベースにある情報を、データベースに入力することで、表出化を進めなければならない。ここには、日報で記録する日常活動を含め、日報では記述していなかったノウハウを、いつでも好きなときにデータベースに入力する仕組みと教育とインセンティブが必要になろう。誰でも情報を入力するのは手間である。楽に入力できなければならない。さらに、自分のノウハウを提供することで自身の付加価値を落とす行為と受け取られがちになる。だからインセンティブが必要になる。この分野での情報システムは、比較的進んでおり、各ベンダーもワークフローやグループウエアなど、優れたインターフェースを持つアプリケーションを用意している。

■検索するスピードが命
 次に入力されたデータを、活用可能な情報にするために、検索や分析ツールによって他人が使用可能な状態に統合していく必要があろう。統合と言っても情報の加工や修正と言う意味ではなく、同一カテゴリに属する情報を、検索しやすくしたりアクセスしやすくしたりする統合と言う意味である。また、MISから得られる日々のトランザクションデータなどの既に自動化されたデータを解析した情報との統合もある。情報が喉から手が出るほど欲している状況では、多少の苦労はすると覚悟があるものである。ただし、検索手法やアクセスパスは明確にしなければならない。スピードが担保されなければ、情報の価値はなくなってしまうのである。
 企業の仕事の特徴や個性が関わってくるため、ベンダーのアプリケーションも多様である。OLAP、テキストマイニングなど、データウエアハウスを活用する高度なものから、表計算ソフトのマクロ機能で済ます軽くて済むアプリケーションまで、その状況に応じて対応することになろう。

■ナレッジ活用の評価を明確に
 ナレッジデータベースに蓄積され、統合化された情報を、誰がどの程度の頻度で活用したかを測定する必要がある。情報を資産として活用するためには、その情報のもつ効果性や有効性を評価しなければならない。今後の情報の収集、蓄積、活用の指針となるからである。また、情報提供者へのインセンティブにも大きな影響を及ぼすからである。インターネットで行われているアフィリエイトなどの報酬システムに似ていると考えればよい。

 以上のように、印刷企業はその情報の活用次第では、大きく業績に影響を及ぼす業種形態であると思われる。いかなる情報をいかなるタイミングでどの様な用途で活用するかは、個別の事情があると思われるが、いずれにしても共通して重要なポイントは、人の意識であり、価値観であろう。経営者はもちろんのこと、情報活用の重要性を、従業員個人が各々自覚し、自律していなければ、どんなに素晴らしいインフラやMISを用意しても、絵に描いた餅であるし意味がなかろう。ある印刷企業は、顧客企業の新製品開発に参画することに成功し、社内外のナレッジ共有化を高度に進め、価格競争に陥らずに安定的な受注に成功し、高い業績をを上げている。ここでは、必ずしも高度な情報システムはないが、それをカバーするに余りあるほど、情報資産に対する人の意識が高いのである。

2006/09/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会